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新世紀陰陽伝セルガイア

第十三話~ひとたびの失態~

前回のおさらい


 とある病院からの依頼で怪現象を解決するため、潜入捜査をするナイトメアバスターズ。どうやら病院のどこかに魔物が潜んでいるようだ……。しかしバスターズに同行し聞き込みをするエンは、一向に耳寄りな情報をつかむことができずにいた。彼は自らの足で魔物を見つけるべく病院内を散策。霊安室へと足を運んだ。するとそこに、エンの落とし物を届けにひとりの女性が現れる。そんな彼女が落とし物を渡そうと霊安室に入った途端! 彼女の前に突如謎の人影が現れるのだった!


第十三話~ひとたびの失態~


◆潜入~バンの場合~


「はっはっは! 危うくお前が七不思議のひとつになるところだったんだな!」

 バンは病室へと戻ってきたエンから一連の出来事を聞かされ、大いに笑っていた。

「そうなんです。ベッドの下から出てきたらお姉さんが失神してて、僕が起こしたら『キャー!』とか言ってまた気を失っちゃって。……僕、お化けじゃないのに……」

「ははっ。やっぱりお前がいると面白いな」


 バンの部屋には他の患者も入院しており、その者達に聞き込みをすることができた。だがハヤト同様何の情報も掴めないでいた……。それどころか皆口をそろえて「ここはいい病院」だと訴える……。本当にこの病院に“闇”など存在するのか、徐々に疑問に思い始めていた。そこへ、霊安室からエンが戻って来たのだった。


「それで? 見つけた凄いもんって何なんだ?」

「あ、はい! これなんですけど……」


 そう言うとエンは、霊安室で発見したある物をバンに差し出した。


「こ、これはっ! ……遺書か!?」


 差し出された紙には、そうと思わしき文章が書き記されていた。


『私はもうこれ以上、仕打ちや口止めには耐えられません。確かに周りの皆さんに比べ仕事のできない私です。咎められて当然かと思います。しかし連日の仕打ちは、私にはもはや苦痛でしかないのです。いや、こう思っているのは私だけではないはずです。私は今日、自らこの命を絶ちます。しかしいつの日か勇気ある人がこの遺書を見つけ、この病院の闇を晴らしてくれることを祈っています。それではみなさん、さようなら』


「やっぱり……遺書ですよね?」

「ああ、エン! これはお手柄だぞ! やっぱりこの病院には闇がある……」


 バンがそう言うのとほぼ同時に部屋の扉が開かれ、回診の看護師がやって来た。「都合がいい」と、バンは看護師にこの遺書について尋ねることにした……。『この病院で怪奇現象はないか?』幾度となく聞いてきたこの質問を止め、バンは手がかりになりそうなワードのみを抽出して小声で尋ねてみる。


「どうです? お体の具合は」

「ええ、お蔭様で……。ところでちょっとお尋ねしますが、“口止め”という言葉に何か感じることはありませんか……?」

「!!!!」


 すると看護師は明らかに今までと違った反応を見せた!


「やっぱり……何か思い当たることがあるんですね?」

「あ……あなたもしかして警察の方ですか?」

「ん? どうしてそんな事を?」

「いえ、もしそうなのでしたらその……都合がよいのですが……」

「そうですか……。ええ、私は警察の者ですよ。ちょっとこれを見ていただけますか……?」

「!!!!」


 バンはとうとう看護師にあの“遺書”を突き付けると、看護師はあからさまに驚きの表情を見せた。


「あなたはこの遺書に書かれている、『勇気ある者』……ですか?」

「……」

「もしそうならば、私たちが必ずこの病院の闇を晴らして見せますよ? いかがです……?」

「……分かりました。全てお話しします」

「バンさん! やりましたね!」

「だからどうか私達を……助けてください……」


「ええ、もちろんです!」


 こうして看護師は、この病院の持つ“裏の顔”を二人にに語って聞かせるのだった……。


◆その後・ハヤトの病室にて


「ハヤトさんやりました!」

「この病院の謎! 分かったぞ!」


 そう言ってハヤトの病室に駆け込んだ二人は驚いた!


「……頼む……何も見なかったことにしてくれ」


 そこには、全身の包帯にキスマークを付けられ横たわるハヤトがいた……。


◆数時間後・病院・待合室


 夜も更けた頃……。消灯した病院の待合室に、院長が訪れていた。ナイトメアバスターズから呼び出されたのである。


(何だ……? 呼び出しておいていないではないか……)


 院長が呟いた通り、そこに三人の姿はなかった。


(おかしい……)


 院長が首を傾げたその時だった! 突然その眼前に鋭い光沢を放つ何かが降ってきた!


「なっ!?」


 それは一本の手術用のメスだった。


「またか……おい! 居るんだろ!? 依頼は片付いていないではないか!」


 院長がそう叫んだその時! 病院内にけたたましい叫び声が木霊した!


「なっ! 何なんだこれは!?」


 何と院長の目の前に、いよいよ魔物がその姿を現したである!
 雄叫びを上げながら院長を睨み付けるそれは、体中から注射器をはやし、巨大なメスを片手に握りしめたナースのような姿をしている……。


「な、なな、何なんだこの化け物は!? 全部こいつの仕業だったのか!?」


 院長がその言葉を発したのもつかの間、とうとう魔物は院長目掛けて巨大なメスを振りかざした!


「うわぁっつ!」


 院長は間一髪それを避けると、その場を逃げるべく震えながら走り出した!


「助けて! 助けてくれ!」


 そう訴えながら走ると、突如目の前にナイトメアバスターズが現れた。


「お、お前たち! やはりいたのか! 何やってる!? 早く何とかしなさい!」


 その声に促されるようにエンは身構えると、ハヤトたちに向かって口を開いた。


「よし! これでいよいよ魔物と戦えますね!」

「!?」


 何とバスターズは、院長を囮にして魔物を呼び寄せたのである!


「よし! いくぞ!」


 意気込むエン! ところがだった……。何故かハヤトは無言でその場に佇んでいる。


「ちょっとハヤトさんどうしたんです!? 早く倒さないと!」

「…………」


 しかし相変わらずハヤトは、そしてバンまでもがただただ無言で佇んでいるではないか!


「ちょっと、どうしちゃったんですか二人とも!!」


 エンが叫んだその時だった! 魔物は再び雄叫びを上げると、いよいよ院長めがけて襲い掛かった!


「うわぁっ!!!!」


 そして魔物は院長を手中に捕らえると、ギリギリと鈍い音を立てながらその体を握りしめ始めたのだ……!


「な……なぜだ……なぜ私がこんな目に……!? お前たちも……何をやっている……。早く……早く助けてくれ」


 必死に助けを求める院長。しかし、ハヤトもバンもただその光景を見つめるばかりで何もしようとしないのだ。


「ああもういいです! 僕が助けます!」


 痺れを切らしたエンは二人に向かって声を上げ、いよいよ魔物に挑もうと大地を蹴った!
 しかし! ハヤトが突然その肩を掴み、エンの動きを静止した!


「えっ!?」

「エン……お前は黙って見てろ……」

「どうして……」


 目の前で一人の人間が、今まさに魔物によって殺されようとしている! それなのに二人とも何もしない。 それどころか、エンはその行動を妨げられた! エンにはハヤト達の行動が全く理解できなかった。そしてそんなバスターズに、とうとう院長も声を荒げた。


「どうしたんだお前たち! 私はお前たちに『この病院の闇を祓え』と言ったはずだぞ!」

「ああ、その通りだ」

「それなら……早く何とかしなさい!!」

「ああ、だからやってるじゃないか」

「何だと……!?」

「この病院の闇は……『アンタ』だろ!」


「!? 何を言っている!!」


「アンタ、この病院でミスした人間を、必要以上に叱りつけていたそうじゃないか……」

「っ!!!!」

「そしてアンタのパワハラに耐えかね、この病院で自ら命を絶った看護師がいるんだろ……?」

「!? 誰からそれを……(あれほど口止めしていたのに)」

「なんだ? それを聞いて、そいつをまた咎めるつもりか?」

「くっ……。 しかし私の指導は適正なものだ! 命を扱う現場でミスなど許されないからな!」

「確かに。それはその通りだ」

「そうだろ! ……さぁ! 早く助けてくれ!」

 そんな院長に、バンも言葉を発した。

「しかし、人間誰しもミスはある……。ひとたびの失態を必要以上に、きつい言葉で叱り罵り……それが精神的な負荷となって辞めて行った人間が大勢いると聞いている……。そして残った看護師たちも、アンタのパワハラに怯えるあまり頻繁にミスするようになったとか……」

「ふ……ふざけるな……! 私の指導に屈するような人間は、医師としてこの病院に勤める資格などないのだ!」

 そこにハヤトが強い口調で割って入った。

「おいアンタ……。命を何だと思ってる!」

「尊いものだ! 決まっている!」

「ふん……偽善者め……。自分の保身のために一人の人間の死を口止めして……。アンタの意に沿わない奴は死んでもいいって言うのか!?」

「実際、その苦痛に耐え兼ねで死者が出ているんだ。よほどキツかったんだろうな」

「ああ。そして今アンタを襲ってるこの魔物こそ、その看護師の成れの果てなんだよ!」

「そ! そう……なのか……!?」

「命の重さは皆平等だ。それでもこの看護師が死んだのは当然だと言い張るのならそれこそ! 命の現場を扱う長としてふさわしいとは言えない!」

「ぐっ……!」

ギチギチギチ……

 院長を握りしめる魔物の握力が増してきた……。


「うっ……苦しい……」

 苦しむ院長を見兼ねてエンが叫ぶ!

「も、もういいです! そろそろ助けましょう!」

「たのむ……たすけ……て」

「いいや……。アンタが罪を認めないのならこれは『当然の報い』だな……」

「そんな……。私の……指導は正しかった……」

「いいやアンタは間違ってる」

「!?」

「ひとたびの過ちなんて誰にでもある……。アンタにとっては部下の看護師が死んだこと……か?」

「くっ……」

「まぁアンタのミスは重大なものだが……本当に大切なことはミスを咎めるめる事じゃない」

「何……?」

「本当に大切なのは……『同じ過ちを繰り返させない事』だ!」


「!!!!」

「しかしアンタは今でも同じようなパワハラまがいの指導を繰り返し、口止めし、反省すらしていないらしいな……!」

「……」

「だから……悪いが俺たちにアンタを助ける気意思はない!」

 その言葉に院長だけでなくエンも驚いた! 命を重んずるハヤトの台詞のとは思えない! 言葉を失うエンをよそにハヤトは続けた。

「どうなんだ? ……これでもアンタは同じことを繰り返すか……?」


 そうこうする内に、魔物の強い力で握られる院長の意識は徐々に薄らいできた……。その時だった!


「彩子くん……すまないことをした……」

 院長は魔物のに語りだしたのだ。

「彩子くん……私が悪かった……」


 断末魔の苦しみのなか……院長は魔物の手の中でその頭を下げ始めた。


「彩子くん……私は……私は考えを改める! もう二度と、誰に対しても必要以上に叱るような事はしない! 私が……愚かだったよ……罪を認める」

 するとその時だった! 

『院長……先生』

何と魔物がそう呟くと、突然院長を手放したのだ! そして空かさずハヤトが叫ぶ!


「今だっ!!」


 そしてハヤトはその一瞬の隙を突き、自らのセルガイアの刀で魔物の身体を斬り刻んだ!

 ズババババッツ!!!!

 何よりも『命』を重んずるハヤトが院長を見殺しにするなどあり得ない。そう、全ては魔物を油断させ、更には院長をも改心させるハヤトの作戦だったのだ……。


◆数日後・陰陽庵にて


 その後院長は記者会見を開き、看護師の死をひた隠しにしてきたことを認め辞任した……。そしてそんなテレビの報道を見ながらエンたちは語り合っていた。


「依頼の結果……こうなる事もあるんですね……」

 バンが答える。

「あぁ。魔物になってしまったからと言って、別に死んだ人間全員が『悪』ってわけじゃないからな……」

 そしてハヤトも続ける。

「そうだ……。そしてこれこそ、本当の意味で『魔物を倒し命を救う』って事だ。お前には百億光年早い」

「むぅぅ……」


 その言葉に不貞腐れるエンだったが、バスターズへの加入をそう易々と諦める気などなく、眉をひそめながら一言「勉強になりました」と答えた……。
 
 そんな中、ハヤトがふとある事に気がつきバンに問いかける。


「ところで依頼と言えば……最近店の電話全然鳴らないよな?」

「そう言えば……」


 そう言いながらハヤトが電話機に近づくと、ある事に気が付き突然唸りだした。


「ぐぉぉぉぉ……エンんんん……!」


「え!? 何です!?」


「電話線……付いてねぇじゃねーかーー!!!!」


「ええっ!? 電話機ってコンセントだけじゃダメなんですか!?」

「お前はホントに……許さねぇぇぇぇええええ!!!!」

「えぇぇええ!? ひとたびの失態は許されるって言ったのにーーーーーー!!」

「お前はやらかしは一度どころじゃねぇだろーーーーー!!」


 そう叫ぶハヤトだが、そもそも電話機を壊した張本人は彼である。そんな二人の問答を見ながら、「やれやれ」と呟くバンだった。


つづく!

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