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新世紀陰陽伝セルガイア

第二話~漆の木箱~

前回のおさらい
 
 陰陽師の二人組、ナイトメア・バスターズに憧れる少年、八神炎。彼はひょんなキッカケでついに二人に巡り合う。
 しかし、大怨霊の封印が解き放たれ苦戦するナイバスに加勢した結果、親友のマイトは病院へと担ぎ込まれ怨霊はどこかへと逃げて行ってしまった!
 次に怨霊が姿を現すとすれば次の日開催される桜祭り……。そうなれば、多くの人間の命が危ない‼
 病室で目覚めたマイトに促されるように、エンは自らの責任を果たそうと怨霊への対策を打つべく知人の霊能者“八雲”のもとへと向かうのだった……。
 はたして彼に、怨霊を止めることができるのだろうか……。


第二話~漆の木箱~


「アビラ! ウンケン!」

「アビラ! ウンケン!」


 八雲神社の境内に、技の習得のために懸命に努めるエンの声が轟いていた……。
 自らの責任でよもや明日、怨霊の手により多くの人間が命を落としてしまうかもしれない……。何としてもそれを避けるため、エンは必死に呪文を唱えていた……。

「はぁ……はぁ……だめだ……やっぱりできない」

「エン……」


 彼が神社の戸を叩いてから、ゆうに半日以上は経過していた……。
 しかし、彼の霊力では八雲が伝授するこの退魔の波動“真言波(しんごんは)”は未だ放つことができないままだった……。


「エン……やはり昨日の今日でできるようなものでは……」


 エンの必死な気持ちに応えようと同じく必死に指導するヤクモも、さすがに疲弊していく彼の身を案じ始めていた……しかし。


「いや……何としてもこの技を覚えるんだ……! じゃないと、皆の命が……!」


 そんな訴えに、ヤクモの指導にもより一層の力が入るのだった……。

 幸いにも、今年の桜祭りは“夜桜祭り”。明日の夜までまだ暫しの猶予がある……。再び境内にエンの呪文を唱える声が木霊していた……。


◆翌日・夜


 ここは、夜桜祭りの会場。

 鶴ヶ丘八幡宮の沿道に咲き乱れる桜並木は、煌々と輝く光にあおられ美しく揺れている。提灯の明かりに照らされ多くの露店も立ち並び、その全てが本堂までの道のりを鮮やかに彩っている。パレードも練り歩き、様々な形の巨大なバルーンがその光景に更なる色を添え、集う人々は感嘆の声を上げていた……。
 そしてこの夜桜祭りを取材すべく、マスコミ関係の者もちらほらと見受けられる。……そこにはエンの愛読書である『月刊オカルティカ』の記者達2人もやってきていた……。


「あ~ぁ。何で俺たちまでこんな所に取材に来ないといけないんだ? ウチらタウン誌扱ってる訳じゃないのによぉ」

「しょーがないよ……ネタがないんだから」

「だからって俺らがやってる事、もはや雑誌の取材でもないだろ! ……何だよ付録DVDって!」

「……時代だよね~。それに「この際何でもいいわよ!」って編集長の意向なんだし……」

「いや完全に時代遅れだろ! 今日日付録DVDなんていろんな雑誌でやってるわっ! は~ぁ……。こんなんじゃ前みたいな人気取り戻せないぜ……」

「と、とにかく取材しないと……」


 その時だった!


キャーーーーー!!!


 突然幾人もの悲鳴が会場に轟いた!


「え、えぇぇええ⁉ ちょ! 何あれ‼ カメラ構えて‼」

「お、ぉぉお‼」


 とっさにレンズを覗き込む込むカメラマン! するとその先にとんでもないものが映し出された!


グギャオオッツ‼


 龍の形をした巨大なバルーンが、まるで生きているかのように雄叫びをあげている!そして次々と人々をむさぼり喰っているではないか‼


「ぇぇえ⁉ これ祭りの演出……じゃないよね‼ スクープだよスクープ! 撮り続けて!」


「おお!」


 カメラマンは震える手でカメラを握りしめ、記者も集音マイクを構えた! すると次の瞬間!


キキーッツ!


 ド派手な装飾を施した車が一台、爆音と共に会場に現れた! ナイトメアバスターズが駆けつけたのである!
 記者達は訳も分からず会話した。


「あの人たちは⁉」

「分からん……構わず撮り続けるぞ!」


 車から飛び出すハヤトとバン! そして記者達はそれを遠巻きに撮影し始めた。


 人をむさぼり食う魔物を目撃し、ハヤトが嘆く。

 「くそっ!一足遅かったか!」

そしてバンもハヤトに続き発声する。

「あぁ……媒体はバルーンか……。すでに魔物になってるな、クソッ……!」

「……バン、何としても……今日こそ倒すぞ!」

「おおっ!」


 二人は駆け出し、逃げまどう人々をかき分け、魂を喰らおうと迫り来る魔物に向かってハヤトは啖呵を切った!


「おい! こっちだナマズ野郎! 俺たちが相手だ‼」

「来いっ‼」


グギャオオッツ!!


 ついに戦いが始まった……。


◆八雲神社


ふいに、修行中のエンの耳にヤクモの声が轟いた!


「エン! 魔物じゃ! とうとう現れおったぞ!」


「⁉」


テレビの中継で流れた現場の映像を見て、ヤクモが知らせに来たのだ!


「そんな……!」


エンは眉をひそめた。……そう、彼は未だ“真言波”を習得できていなかったのだ……!


「間に合わなんだ……」


 落胆するヤクモ……。しかし次の瞬間! エンは突然走り出した!


「エン! どこへ行くのじゃ⁉」


 突然の行動に驚愕するヤクモに対し、ひとたび立ち止まったエン。彼はヤクモにこう返した……。


「行かなきゃ! 会場に!」

「し、しかし今のオヌシの力では……!」

「そんなの関係ないよ! ……技は……技は確かに間に合わなかったけど……それでも行かないと‼ ……『僕が、責任を果たさないと‼』」


 エンは病室でのマイトの姿に心打たれていた。傷ついた体で……そして何の霊力も持たずして、それでも魔物と戦うべく地べたを這いながら病室を後にしようとしたマイトの姿は、エンの心に大きな影響を与えていたのだった……。「力は及ばずともきっと何かできることがある……!」そう信じて、エンは境内を飛び出して行くのだった‼


「エン……無茶はするなよ……」


そんなエンの後姿を、ヤクモは目を細めながら見送った……。


◆再び祭りの会場にて


 先手を打ったのは魔物であった! ハヤト達に向かって、体を覆っている大量の鱗を射出し飛ばしてきたのである‼

ズババババッツ!


「危ない!」

 遠巻きにカメラを構えながら思わず声を上げる記者達! 
 そしてハヤトとバンは向かってくる大量の鱗に真っ向からぶつかって行った!


ダーーーン‼


 怒号と共に辺りに煙が立ちこめた! なんとその攻撃はなんと二人に命中してしまった!


「あの二人‼ 大丈夫か⁉」


 固唾をのんで煙の先にカメラを向ける記者達……すると……。


シュゥゥゥゥ……


 かすれゆく煙の中から堂々と佇む二人の陰が現れた!


「へっ……全部見えてんだよっ!」


 なんとハヤトは、向かってきた鱗を全てその手で受け止めていた! そして彼の額には、まるで❝眼の様な物体❞が出現していたのである。

 記者たちは思わず呟く。


「何なんだ……あの眼は……?」

「分からない……と、とにかく撮らないと‼」


 するとつかの間、魔物は大きく息を吸い込むとその巨大な口からドス黒い光線を放ち、ハヤト達に第二の攻撃を仕掛けてきた!


ズガガガガガガ!


 とっさに空中に❝五芒星(ごぼうせい)❞を描きその攻撃を防ぐナイトメアバスターズ! しかし、光線は止むことなく魔物の口から放出され続けた!


「くそっ!流石に……強いな……」


 ハヤトが呟く。

「ぐっ……ぉぉぉおおお……」


 そしてバンは苦悶の表情を浮かべながらも必死にその攻撃を受け止める。

 やはり、かつて封印するより他に手だてがなかった大怨霊である。二人はその攻撃を❝防ぐ❞事で精一杯であった。


ズガガガガガガ!


 止まぬ攻撃に息を切らし始める二人……。すると次の瞬間! 額から流れ出る汗の隙間からハヤトはとんでもないものを目撃した!


「……あれは⁉」


 なんとあの記者達がその場の光景を記録することに集中するあまり、いつの間にか魔物の真下でカメラを回していたのである!

 ハヤトが呟く。

「あいつら……マスコミか⁉」

「その……ようだな……」

「クソっ、こんな時に……!」


 取材に気を取られる彼らに注意を促すため、ハヤトは叫んだ!


「おい! 危ないぞ逃げろっ‼」


 しかしその声は魔物の口から絶え間なく吐き出される光線の音によりかき消され、記者達には届かなかったのだ! 思わずハヤトがバンに問いかける。


「クソっ! 助けに……行けないか⁉」


「……ダメだ……どちらかがここを離れたら、おそらくこの攻撃を防ぎ……きれなくなるぞ……‼」


 その言葉が正しいことはハヤトにも容易に察することができた。気を抜けばたちまち弾き飛ばされてしまいそうなほど強力な光線は、ふたりがかりでやっと受け止められていたのだ。


「くそっ!」


 思わず口走るハヤト……。するとその時だった!


「ハヤトさんっ‼」


 それは、自らの責任を果たすため無我夢中で駆けだしやって来た少年、エンだった!


「ハヤトさん、バンさん……僕も……僕にも協力させてください‼」


 エンは二人の力になりたいと渾身の思いで訴えた。……ところがだった。


「おまっ! ……来るんじゃない‼」


 ハヤトはエンを嫌煙した。いや、当然だろう。エンの力ではどうすることもできないとはあの墓場の一件で十分うかがい知れていたのだ……。


「昨日のことは……本当にすみません! だけど僕、友達に言われて分かったんです! こうなったのは僕の責任だって……。だから……どうか僕にも手伝わせてください‼」

「ダメだっ! 帰れ!」

 
 ハヤトが怒鳴り散らしたその時だった。

 
「なぁ……いいじゃないか」


 二人の会話をバンが制止した。


「……バン⁉」

「いいじゃないか。コイツの目つき、相当な覚悟があるらしい……」

「……」

「それに、お前も気付いてるんだろ。こいつの持ってる霊力の事知ってるよな……」

「っ‼」

「こいつあの墓地でおまえが術をかけた香炉に一瞬とはいえ触れたよな。……常人にはできないことだ……」

「……だが!」

「それに今は猫の手も借りたい時だろ。ここはひとつ、こいつの力を信じてみないか?」

「……」


 ハヤトはしばし考え込んだ……。実際のところ魔物の攻撃を防ぐその手は、すでに限界を迎えようとしていた。


「ちっ……しかたない。……おいお前! 来い!」

「あ、ありがとうございます‼」


 そう言うとハヤトはエンに指示を出し始めた。


「いいか、これからお前には、俺の代わりに魔物のこの攻撃を受け止めてもらう!」

「は……はい!」

「そのために、まずは俺たちの車の後部座席の下に❝漆塗りの木箱❞が置いてある……。それを取って来るんだ!」

「あの……ごめんなさい、ウルシって何ですか?」

「あぁーもう‼ なんかこぉ……黒光りしてるヤツだよ‼ とにかく取って来い‼‼」

「わ、分かりました‼」


 そういうとエンは彼らの車に向かって駆けだした!
 路肩に停められていたそれは派手な霊柩車を彷彿とさせる装いでただならぬ気配を放っており、これがナイトメアバスターズの車であることは容易に察することが出来た。

 エンは車体後部の扉を開ると座席の下に手を伸ばした。するとそこには確かに木箱があった。


「(きっとこれだ! ……でもこれ、いったい何なんだろう?)」


 おもむろに駆けだしたものの、自分がとっている行動の意味が分からなかった。魔物の攻撃を防ぐことと、この木箱にいったいどんな関係があるのか……。しかし、「時間がない!」というハヤトの言葉がフラッシュバックし慌ててエンは踵を返した。


「はぁはぁ……。ハヤトさん……これって……?」


 ハヤト達の元へ戻ったエンは屈めた腰から重たい両腕をもたげ、息も絶え絶え木箱を見せた。


「はぁはぁ……そうだ……それだ……!」


 ハヤト達の体力もどうやら限界寸前のようだ。


「よし、その箱を開けろ。」

「は、はい……!」


(これを開ければ、この悪夢は終わる!)一瞬よぎった淡い期待は、エンに対して更なる疑問となり帰ってきた。


「えっ……これは?」


 そこには一着の白い陣羽織が入っていた。


「……着物?」


「あぁそうだ。いいか、よく聞け」


 そう言うとハヤトは語り出した。

「それは妖力増強陣羽織(ようりきぞうきょうじんばおり)。それを着た者は❝他人から別人として認識される代償❞と引き替えに、❝着た者の持つ潜在霊力をわずかに高めてくれる❞代物だ。俺たちはそれをプライベートを保護する隠れ蓑として使ってる。」


 それに対しバンが応える。


「なるほど、それを着ればコイツにもハヤトの代わりが務まると!」

「あぁ、そらく魔物の攻撃を防ぐことぐらいならできるだろ」

「これを……着ればいいんですね!」

「そうだ!」

「……でも、なんだか僕にはちょっと大きすぎる気が……」


確かに、それは見るからにエンの体には合わない大きさであった。……しかし。


「大丈夫。着ればサイズが合うよう術を施してある。さあ、着るんだ!」

「凄い……。分かりました!」


 そう言うとエンは気構え、陣羽織に袖を通した!

 するとハヤトの言う通り! 見る見るうちに羽織はエンの体にフィットしていった。それだけではない! 髪の毛は逆立ち陣羽織と共に赤く染まり、スニーカーは草履に変わり、履いていたズボンは袴に変わり……エンは大きく変貌を遂げたのである‼


「凄い‼」


そしてハヤトはエンに魔物の攻撃を受け止めさせた。


「ぐぅっつ!!」


 それは、とてつもなく重く強大な力であった。今まで二人係でやっと押さえ切れていたこともうなづける。しかしハヤトの思惑通り、今のエンなら攻撃を防ぐことができていた。


「思った通りだなハヤト! こいつの霊力、なかなかだ!」

「よし! これでいい! じゃ……作戦開始だ!」


 そう言い放つと、ハヤトは尚も撮影を続ける記者たちを救うために走り出した!


「ハア……ハア……早く……行かないと!」


 急ぐハヤト。その頭上では魔物が攻撃を続けている。しかしこれもまた彼の思惑通りであった。魔物がバン達に気を取られている隙に、一気に死角を駆け抜けていった。

 だが魔物の攻撃を受け止める二人にはすでに限界が近づいていた。

「バンさん……僕……そろそろヤバいかも……」

「何言ってる……責任……果たすんだろ……? しっかりしろ! そして……ハヤトを信じるんだ……‼」


 しかしハヤトの体力も限界に近づいていた。長い間魔物の攻撃を受け続けていた上全速力での疾走である、無理もない……。だが、今にも倒れそうな体に鞭を打ちハヤトは走った!


「うぉぉぉおおっつ!」


 そしてとうとう記者たちの元へとたどり着いたのである!


「ハァハァ……お前ら……何やってる‼ さっさとここから逃げるんだ‼」

「……⁉」


 ❝大スクープ❞。そんな言葉に浮き足立っていた記者達だったが、ハヤトの一言で我に返り一目散に逃げ出した!


「(よし……これで……)」


 一つ問題が片付き、つかの間の安堵感を得たハヤト。だがその時だった! 突然バンの叫び声がした‼


「ハヤトォオオオオ‼ 逃げろぉぉおお‼」


 その言葉に言いしれぬ不安を感じたハヤトは、ふと自らの頭上を見上げた。……すると、魔物はハヤトを睨みつけ、天高く拳を振り上げていたのである‼


「しまっ!」


 そう言うのもつかの間、魔物はついに巨大な鍵ヅメを振り下ろしてしまった‼


バゴォォォォオオオオッッツ!!


「ぐぉぉぁあっつ‼」


 鋭い音が町中に轟き、ハヤトは大きく投げ飛ばされてしまったのだ‼


「ハヤトぉぉぉぉおおお!」

「ハヤトさーーーーん‼」


 二人の声が遠ざかり……ハヤトの意識が途絶えていった。


つづく!


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