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新世紀陰陽伝セルガイア

第三十六話~疑惑の幸愛会~

前回のおさらい

 
 自宅で機械いじりをしていたバンは、気分転換にテレビを見始める。そこに映し出されたのは織戸幸愛会の女性教祖「織戸零」。彼女は暫く語った後、自分の娘をステージに初登壇させた。するとその娘はなんと、バンが想いを寄せるクラスのマドンナ「サトミ」だったのだ……!
 

第三十六話~疑惑の幸愛会~

 
 バンは、テレビに映し出されたサトミに喫驚した。まさかあのサトミがレイの娘だったなんて……。

 幸愛会の信者たちは、サトミに向かって拍手喝采を贈っている。サトミがその「神降ろしのなんちゃら」の巫女として選ばれたのが、よほど喜ばしいことなのだろう。

 信者でないバンにとってはよく分からないことだったが、それでも少し嬉しい気持ちがした。

 ……それはさておきやっぱりサトミは美しい。普段は見られないドレスを着たその姿に見とれ、バンはより一層テレビ画面から目が離せなくなった。
 すると、レイが再び信者たちに向かって堂々とした態度で語り始めた。

「皆さーん! いよいよ明日、『神降ろしの儀』を執り行います! ついに! 皆が待ち望んだ、悲しみも苦しみもない『愛の時代』が訪れるのです!」

 信者たちはその言葉に大熱狂している。

 信者ではないバンには、レイの言っていることがさっぱり分からなかった。しかし、画面に映し出される信者たちの熱狂ぶりは凄まじい。その光景を観ているだけで、レイが語っていることの重大さはだけは大いに伝わってきた。

 だがそんな中、ただ一人だけ違う反応を示していた人物がいた。……サトミだ。

 レイの斜め前に佇んで、信者たちの方を向いているサトミ。彼女だけが伏し目の状態で眉を下げ、どことなく悲しげな表情を浮かべている。普段の明朗活発な彼女からは想像がつかない……。バンはそんなサトミの姿を見逃さなかった。

「サトミさん……どうしたんだろう? 皆あんなに喜んでるのに」

 そこでバンは、日中のハヤトの話を思い出した。「織戸零は何かを企んでいる」……。そしてテレビに映し出されたサトミの悲しそうな表情……。

 やはり幸愛会は何かおかしいのではないか。そう感じたバン。翌日直接学校でサトミに訳を聞いてみようと思った。

 そして、拍手の音が鳴り響くテレビの電源を切るとベッドに潜り込むのだった。

 翌朝、バンは学校の下駄箱で靴を履き替えていた。
 一刻も早くサトミに事の真意を聞きたくて早足で登校した。かかとがヒリヒリしている。

 教室まで急ごう! と思ったその時、廊下の奥からハヤトがやって来た。バンより早く登校していたのだろうが、外に向かおうとしているようだ。どうしたのだろう。
 そんなハヤトは、バンを目にすると少しだけ方向を変えて、おもむろに近づいてきた。
 そしてバンの目の前に来たかと思うと、突然こんなことを言ってきた。

「サトミが好きならその力、『守るため』に使え!」

 昨日のバンの自宅での台詞だ!

「はぁ!? 何でお前がそれを!? まさかお前、俺ん家に盗聴器仕掛けてんのか!?」

 バンは気味が悪くなって、顔をひきつらせながら思わず大声を出した。

「ちげーよ! 千里眼だよ! これで俺の能力がすこしは分かったか!?」

 そんな訳がない! 絶対に盗聴器だ気持ち悪い! いやいい。もし仮にその「千里眼」とやらが本当だったとしよう。明らかに誇張して大袈裟な動きまでつけてバンの台詞を真似してきた。ムカつく!

「信じてたまるかクソ盗聴器野郎! 帰ったら直ぐに見つけてぶっ壊してやるからな!」

「どーぞお好きに。そんなもん取り付けてねーから」

 ハヤトは両手を肩の上にあげて手のひらを上に向け、首をかしげながら鼻で笑ってきた。ムカつく!
 一発ぶん殴ってやろうかと思って近づいたら、ハヤトは言葉で制してきた。

「おっと、今日はお前と張り合ってる時間は無いんだった。野暮用がある。ちょっと行ってくるぜ」

 そっちから食って掛かってきたくせに、ホント腹立つ!
 しかしその言葉を残すと、ハヤトは靴を履いてどこかに行ってしまった……。

 バンは怒りの矛先を失ってムシャクシャしていた。しかしそのままここにいても仕方がない。と言うかサトミに真意を聞くために急いでいたんだった。ハヤトめ、余計な時間を取らせやがって……。

 バンは、上履きに履き替えると教室へ急いだ。

 教室の扉を開け、バンはサトミの姿を探した。
 しかしどこにも見当たらない……。まだ登校していないのだろうか。せっかく急いで来たのに。
 バンはため息をつくと、仕方なく席に着いた。
 教科書などを机の中にしまうと、また電子工作でもしようかと鞄から機材を取り出した。
 そうこうしていると、クラスの女子の噂話が聞こえてきた。

「サトミ、今日は幸愛会の大事な会合で欠席だって」

「そうなんだ。でもまさか織戸零の娘さんだったなんてビックリだよねぇ」

「ホントそれだよね。あとね、私ちょっと気になることがあるんだ」

「え? なになに?」

「昨日テレビ観たあと直ぐにサトミに電話したんだけどさ」

「うん」

「サトミ、なんか凄く悲しそうで……」

「え? 会場のみんなあんなに喜んでたのに」

「うん……。しかもサトミ『もう皆に会えないかもしれない』って泣きながら話してきてさ」

「そうなの!? 何で!?」

「でも、理由聞いても何にも教えてくれないんだ……」

 そこまで聞いたバンは、幸愛会に対して強い疑念を持ち始めた。
 そして、やはりサトミに直接会ってその涙の訳を聞いてみたい。こうなったら俺も幸愛会に行ってやろう!

 そう思ったバンは、荷物を机に置いたまま教室から走り去るのだった……。

 つづく!

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