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新世紀陰陽伝セルガイア

第四十話~常世からの帰還~

前回のおさらい

 あの世で出会った千手観音により、始めて「白毫(びゃくごう)」を開眼させたバンとハヤト。しかも白毫使いは一度だけなら生き返ることができるらしい。喜ぶ二人に千手観音がある「頼み事」を持ちかける。織戸幸愛会の教祖「織戸零」の野望を阻止してくれないかと……。


第四十話~常世からの帰還~


 何だって!? バンは吃驚した。まさか千手観音から「織戸零」の名を聞くことになろうとは。
 しかもレイが何かを企んでいることも知っているようだ。
 ハヤトは興味津々といった様子で千手観音に対して前のめりに質問し始める。
「その話、詳しく聞かせてください! 正に生前俺がやりたかった事ですよ!」
『そうか……それは好都合だ。では、織戸零の企みについても良く知っているな?』

「いえ、それが分からないんです。何か『良からぬ事』としか……」

『ならば、これから話すことをよく聞くのだ』
「はい!」
 すると千手観音は、織戸零の企みについて詳しく話し始めた。
『織戸零……。奴は、次元の彼方に封印されている闇の呪術師、「蘆屋道満」を蘇らせようと企んでいるのだ』
 それを聞いてハヤトは驚く。
「蘆屋道満だって!?」
「ハヤト。誰なんだそれ? 有名なのか?」
「ああ。平安時代にトップクラスの陰陽師として活躍していた『安倍晴明』と双璧をなす『悪の呪術師』として名の知れた人物だ」
『その通りだ。詳しいな……』
 確かに、安倍晴明ならバンにも聞き覚えがあった。それと双璧をなす闇の呪術師……。そんな人間がいたのか……。
 そんなことを考えていると、ハヤトが再び質問を再開した。
「ちょっと待ってください!? 道満が『次元の彼方に封印されてる』ってどういう事ですか!?」
『道満はかつて自らを「闇の王」として君臨させようと企み、魔物の軍勢を率いて平安の都に攻め入った。だがそれを晴明によって阻止され、次元の彼方にある魔物の世界、『幽世(かくりよ)』へと封印されたのだ』
「何ですって!? なら、道満はそこでまだ生きている!?」
『その通りだ』
「しかし、その道満が復活したらどうなると言うんです? レイは一体何を望んでいるんですか?」
『ここから少し長くなるぞ。よく聞くのだ』
 千手観音はそう言って、更に詳しく話し始めた。

『道満は人々の「悲しみ」や「苦しみ」や「怒り」といった負の感情が詰まった闇の魂、『禍御霊(まがみたま)』を集めることで、生命をつかさどる究極の白毫、『命脈(めいみゃく)白毫』を錬成し自らに宿そうと企てている……。そして永遠の命を手に入れ「闇の王」として世界の頂点に君臨しようとしているのだ』
「命脈白毫……永遠の命……」
『道満はかつて大量の禍御霊を集めるため、魔物の軍勢を率いて人々を恐怖のどん底に陥れた。そして多くの人間の命を奪って回ったのだ』
「そんなことがあったのか……」
『しかし晴明によってその野望は絶たれた』
「でももしそんな道満が蘇ったとしたら、現世でもまた同じようなことを……」

『ああ、するだろうな』
「多くの人が……殺される……」
『恐らく……』
 そこでバンが割り込んだ。
「だけど、それとレイにどんな関係が? 世界がそんなことになって、レイに何かメリットでもあるのか? 彼女は一体何を企んでる?」
『良い質問だ。彼女はな、道満が宿そうとしている「命脈白毫」の力を欲しているのだ』
 お? 少し話が見えてきた気がするぞ。再び話を聞いてみよう。
『命脈白毫は生殺与奪も思うがまま。他者の寿命を延ばすこともできる。レイはそこに目を付けた。道満を復活させ忠誠を誓うことで部下となり、寿命を分けて貰おうと考えている……。つまり、自らも永遠の命を得ようと企んでいるのだ』
 成る程そういうことか、合点がいった。
 しかし一大事だ。道満が甦ったら世界はどうなってしまうのだろう? 人間はどうなってしまうのだろう?
 すると、ハヤトが勘づいた様子でこう言った。
「じゃぁもし道満が甦って奴らの思惑通りに事が運んだら、俺たち人間は道満に殺されて『禍御霊を提供するためだけ』の存在になるんじゃないか!?」
『察しがいいな。その通りだ。道満は人間を、「禍御霊回収用の家畜」として扱うつもりなのだ。成人を迎えるまでは手厚く保護し、そのあと突然、魔物が跋扈する世界に放り出す。そこで道満は部下たちに指示を出し、人間たちに恐怖を植え付け殺させ禍御霊を提供させる。より多く禍御霊を集めた部下にそれ相応の寿命を分け与えるという寸法だ。そして道満は闇の王として玉座に鎮座しながら、その光景を高みの見物で楽しもうとしているのだ……永遠に……』
 何だって!? それはマズいぞ!
『しかも危機的状況はそれだけではない。道満もレイも分かっていないのだ。もし仮に奴の思惑通りに事が運べば、我々神仏たちはそんな荒廃した現世に再び魂を送り出す事ができなくなる。すると、輪廻の理(ことわり)が崩れ去りこの宇宙の調和が保てなくなる……。すると……お前たちの世界だけでなく、いずれお前たちが今いる魂の世界、常世(とこよ)も消えてなくなり全ては原初に巻き戻る……』
 バンもハヤトも同じことを叫ぶ。
「つまり、世界が滅びるのか!?」
『その通りだ』
 バンは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 これはいよいよマズいことになったぞ! 何としてもレイの野望を阻止しなければ世界が崩壊してしまう。
 当初サトミを助ける為に動き出しただけだったのに。とんでもない事態に巻き込まれてしまった。バンはそう思った。

 ハヤトは更に質問する。

「しかし、レイは一体どうやって道満を蘇らせようとしてるんです?」

『彼女は信者たちに自らを盲信させることで洗脳した。その信者たちにこれから人を殺して回らせ、大量の禍御霊を集めようとしているのだ。その禍御霊を一人の白毫使いに集めれば、その人間が生け贄・人柱となって天空に次元の裂け目を作り出す。道満はそこから蘇るのだ』

「成る程……。でも、人柱になる白毫使いなんて……」

 ハヤトがそこまで言ってバンは気が付いた。

「まさか、レイ自身か!?」

 そうだ! 確かレイは信者たちを洗脳する直前、額に目のような物を出現させていた! きっとレイも白毫使いなのだろう。

 だが、バンのその予想は外れた。

『いいや、彼女は違う。彼女は白毫使いと対をなす闇の存在、「邪眼使い」だ。人の命を奪う欲に飢え殺人的衝動に駆られている……。そして魔物を殺せぬ代わりに人を殺す武器と能力を携えているのだ』

 何だって!? それなら一体誰が白毫使いなのだろうか。

『答えは、彼女の娘だ』

「まさか! サトミが!?」

『彼女はこれから自らの娘を白毫使いとして目覚めさせ、それを道満復活の為の人柱にしようとしているのだ』

 そうなのか! いよいよヤバい! それは何としても食い止めなければ!

 きっとサトミはその事を全て知っていて、涙を流しながら自らの母を止めようとしていたのだろう。 

 何とかしてやりたい! 何とかせねば! しかしどうすれば……。

『まずはお前たちの武器で信者たちを斬りつけろ。さすれば信者たちの洗脳は解けるだろう』

そうか、この武器で『魔』を祓えるんだったな。

『そして、その武器でレイの邪眼を破壊せよ。さすれば信者たち全員の洗脳は解け、一度に大量の禍御霊を集めることはできなくなる』

 成る程納得だ。

『更に、レイの娘が白毫使いとして覚醒するのを阻止できれば、彼女の野望は潰えるだろう……』

 やるべきことは良く分かった。しかしその通りにできるか分からない。

 と言うか、そもそも神仏の力をもってすれば、この事態に対処することは容易いんじゃないか?

『いいや。我々常世の住人は、現世の事象に直接手を加えることができんのだ……。だからこそお前たちに頼みたい。どうか力を貸してはくれまいか?』

 やはりバンたちがやらなければ世界が滅んでしまうかも知れないということか……。

 それなら、断る理由なんて一つも無かった。

「分かりました。やりましょう」

 バンとハヤトは口を揃えてそう言った。

『では、お前たちを現世に戻す。どうか、よろしく頼んだぞ』

「……はい」

 果たしてこれからこの力で、世界を救うことができるのだろうか……。

 今まで感じたことのない緊張感をかき消すように、バンは強く拳を握りしめた。

 そして突然バンとハヤトの体が光を放ち始め、ぼんやりとその姿を消していった……。


つづく


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