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新世紀陰陽伝セルガイア

第四十七話~震災の巨塔~

前回のおさらい

 2011年春。突如発生した巨大地震により、多くの被災者が発生した。バンもその内の一人だった。転倒し頭を打ち、意識不明の重体で病院に担ぎ込まれたバン。数日経っても目覚めぬ彼を、ベッドの横で心配するハヤト。ひとつ気がかりなことがあった。震災を皮切りに、街に出現した巨大な和風の塔。そこから発生する邪気。あれは何なのか……。すると、ふいにバンが目を覚まし、その塔に関する夢を見たのだと言う。そしてこのままその塔を放っておけば、更に多くの人が命を失うことになるらしい。それだけを言い残しバンはそのまま息を引き取った。やりきれぬ想いにベッドの端に拳で殴り付けるハヤト。彼は病室の扉を開け、巨塔へと向かって走り出した……。


第四十七話~震災の巨塔~


 塔の前にたどり着いた俺は、片足でバイクのスタンドを下ろす。
 都心の一角、交差点のど真ん中。大地を穿ち現れた巨大な塔が、アスファルトを破壊し、逆光の中うず高くそびえ立っていた。
 周辺には人だかり。皆一様にスマホで写真や動画を撮っている。
 突然こんな巨大な塔が地面の底から現れたのだ。はっきり言って超常現象。野次馬ができるのも無理ないだろう。
 そんな人だかりを複数の警察官がバリケードを張って制止している。厳戒態勢のようだ。
 そんな中、俺は塔の何処かに入り口が無いものか探ることにした。
 亡くなったバンに報いる為にも、何としても塔の謎を突き止めたい。まずは中に入らなければ。そう思った。
 俺は正方形の塔の回りを、民衆の後方からぐるりと回って観察する。
 人だかりはできていたが、幸いなことにすし詰め状態という訳ではなく所々隙間が空いているので、塔の周りを観察することは容易かった。
 幾重にも重なる和風の層塔。どの年代の物かはわからない。要所要所に土を被っているが、経年劣化は見られない……。しかし、大地を穿って現れるほど頑丈な作りをしていることは、その外観を見るだけでも伝わってきた。
 そしてその最下層、四辺の一つには直径10m程の巨大な銅鑼(どら)のような物がついている。こんなもの誰が打つのだろうか……。
 それは分からなかったが、さらにぐるりと回り込むと、その銅鑼の反対側の側面に巨大な門がついているのを発見する。
 ここから入れそうだ。
 俺は「しめた」とばかりに袖をまくると、人混みをかき分けバリケードを乗り越えた。
「ああっ! 君! 待ちなさい!」
 警察官がけたたましくホイッスルを吹き鳴らす。
 しかし俺はそれを振り切り、一気に門を蹴り開く。
 するとそこには……伽藍堂大広間に差し込む光に照らされ、10人程の警官が血を流して倒れているではないか。
「……これは!」
 その内の一人の首筋に手を当てる。脈がない。
「……死んでる……」
 警察官は全員息を引き取っていた。
 これはますます何かある。
 そう思ったその刹那! いきなり頭上から小型の魔物が現れた!
「うわっ!」
 俺は咄嗟にセルガイアを開眼させると、二振りの神器で斬りかかる。
 魔物はコウモリのような姿をした翼開長1m程の飛行型だった。
 あと僅か、斬りかかるのが遅れていたら傷を負わされていたかも知れない……。
 その魔物を一撃で葬ったが、同じ姿の魔物が次々と群をなして襲いかかってきた!
 恐らく警官たちはこの魔物にやられたのだろう。
 それに恐れをなしたのか、警官たちは俺のことを追って塔の内部までは入って来なかった。

 俺は魔物の群と交戦しつつ、大広間の回りが螺旋階段になっているのを発見。そこから塔の上を目指し始めた。
 階段を上る俺の頭上から、逆さになって貼り付いていた魔物たちが次々と襲いかかって来る!
 魔物は一撃で倒せる程度の戦闘力だったが、数の暴力とはこのことだ。俺を疲弊させるには十分な数だった。
 魔物の群を斬りつけながら、確実に一体ずつ倒していく。そして気の遠くなるような螺旋階段を登って行った……。

 何段上がったか分からない。だが、襲いかかる魔物が尽きる頃、ようやく最後の一段を登りきった。
「ここが……最上階か……」
 俺は息を整えながらその場の様子を観察する。
 夕陽が差し込むその場所には、ぐるりと一周廊下に囲まれた、きらびやかな装飾の施された長方形の部屋があった。

 その部屋には一ヶ所、中に入る為の扉がある。
 その扉の正面、少し手前には、腰の高さ程ある正十二角形の台座に乗った、30cm程の大きさの首の無い仏像が置かれていた。

 そして廊下の壁面には、明かり取りの窓と窓との合間に、先程の台座に乗っているものと同じような大きさの仏像が等間隔に三体ずつ並んでいる。
 
 さらに、見上げると天井は格天井なっており、正方形のマス目の一つ一つに、美しい十二支の絵が描かれていた。
「ここに何かあるのか……?」
 豪華絢爛な部屋の外装に、この部屋にはこの塔の秘密が隠されていると察知した俺。中に入るために早速扉に手をかけた。
 ガチャリ……
 しかし、扉は鍵が掛かっている様子で押しても引いてもびくともしなかった。
 ここまで来て収穫無しではバンが浮かばれない。
 それに、迫り来る魔物の群を凪払ってまでこの塔を登り詰めたのだ、必ずこの部屋には何かある筈。
 俺はここを引き返そうなどという考えは一切浮かばず、何処かに鍵が無いものか探してみることにした……。

 まず、そもそも扉には鍵穴が無い。
 ということは他に仕掛けがあるのだろう。
 となるとこの首の無い像が何よりも怪しく思える。なにせ扉の目の前にあるのだ。ここに仕掛けがある筈。
 俺は早速、像を調べてみた。
 なぜ首が無いのだろうか……。試しに像を上から覗いてみる。
 するとそこには、丁度首がはまりそうな程の穴が開いていた。
「成る程。これが鍵穴か……」
 恐らくこの読みは正しいだろう。わずかにその穴に指を入れてみると、内側に、鍵に対応すると思われる凹凸があった。
 しかし、その鍵……いや、像の首はどこにあるのだろうか。
 そこで俺は、廊下の壁面に飾られている、首無しの仏像と同じぐらいの大きさの像を調べてみることにした。
 廊下を歩きながら一つ一つ調べていく。
 全て魔物を倒しきっていたのが幸いだ。じっくりと調べることができる。
 俺は一つ一つを満遍なく観察する。
 この像は宮毘羅大将……この像は跋折羅大将……。薬師十二神将か……。
 すると、その像の内の一つに、不自然に首を上に向けている物を発見する。
「これは……」
 俺は思わずその首を持ち上げてみた……。
 すると、その像の首がスルリと抜け、正に「鍵」と思わしき形の棒が付いている。
 やったぞ! 多分これを首無しの像にはめれば……。俺は興奮しながらに扉の前まで戻ると、首無しの像にそれをはめてみることにした。
 カコッ……
 よし、これで開くぞ。
 そう思ったのだが、やはり扉は開かなかった。
 どういうことだろう。これだけではダメなのか……。
 俺は落胆して俯く。
 すると、その眼前にあるものが飛び込んできた。
 十二角形の台座の上面、それぞれの辺に、小さく干支と思わしき文字が一つずつ記されているではないか。
「……これは!」
 俺はハッとして咄嗟に天井を見上げる。
 すると、頭上を見上げた像の両面から光が放たれていて、それが格天井の一角を照らし出しているではないか!
 これだ。恐らくこの格天井に描かれた十二支に対応する方向に、像の首を回していけば扉は開くのだ。
 そして像は、頭上いっぱいに広がる十二支の絵の一区画、六つの絵だけを光で照らしている。そうだ。これを示すために首が上に向いていたのだ。
 俺は頭上の十二支の絵を、更に目を凝らしてよく見てみた。
 すると、格子になった木々の中心に、赤い三角形が描かれているのを発見する。
 仮にそれを矢印と解釈し、天井の十二支の絵をその順番に見ていく。すると十二支としては順不同になるが、申、亥、辰、寅、酉、午という順番になっているように読み取れた。
 早速俺は像の首を、今読み取った順番で、台座に書かれた干支に合わせて回転させてみる。
 すると――、
 カチャッ
 音がした! 見事、扉を開けることに成功したのだ!

 やったぞ。
 俺は再び部屋の扉に手をかけると、ギギギという重い音を立てながらそれは開いていった。

 部屋は薄暗く、何があるのかよく見えなかった。
 しかし、俺が完全に部屋に入った瞬間、部屋の壁にかけられた松明に一斉に火が灯る。
 どういう仕組みなのだろう……。それは分からないが、部屋は明るく見やすくなった。
 すると、部屋の中央には薬師如来の仏像が置かれていて、その膝元には何やら大きな絵が飾られているのが目に入った。
 俺は飾られた絵に何が描かれているのか見ようと歩みを進める。
 すると突然、フッと体の横を風圧が通りすぎた。
「……!?」
 驚くハヤト。唐突に後ろから一人の男が、凄まじい勢い現れたのだ。そして男は、へばり付くようにその絵を凝視し始めた。
「うーん。素晴らしい! 実に素晴らしい! 愛ゆえの勝利ですねこれは!」
 男は俺がここにいることもお構い無しに、その絵に顔を近づけている。
「お、お前何者だ!?」

 驚きのあまり、俺は思わずたじろぎながら誰何した。
 すると……。
「おっと、これはこれは失礼いたしました。私の名前は御手洗信次(みたらいしんじ)。伝承や伝説などを愛して止まない、歴史学者ですよ」
 男は振り向き、俺にそう言った。

 おかっぱ頭で眼鏡をかけ、山吹色の着物を羽織っている。
「歴史学者……」
 くねくねと体を揺らしながら話すミタライと名乗る男に、俺は若干引きぎみに言う。
 それに対し、ミタライは拍手をしながらこんなことを言ってきた。
「いやー。ずっと待ってましたよ。この塔を登り詰め、この扉を開けられる者が現れるのを……」
「何だって……!?」
「感謝しますよ。白毫使い殿……」
 なんと、男は白毫使いの存在を知っていた。

つづく!

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