Now Loading...
新世紀陰陽伝セルガイア

NEW第四十九話~布都御霊の剣~

前回のおさらい

 自称「歴史学者」のミタライに出会ったハヤト。ミタライはハヤトに、地震によって出現した塔と、地震の元凶である「オオナマズ」について説明した。今回倒すべき相手はこの「オオナマズ」だった。だが、それを倒せる武器、「布都御霊剣(ふつみたまのつるぎ)」の在り処が分からないというミタライ。ハヤトはミタライと共に、何か知っているであろうヤクモの元へと向かう。故事に詳しいヤクモは、やはり剣について知っていた。剣は茨城県にある「鹿島神宮」に眠っているらしい。二人はヤクモの所で一泊。翌日その地へと向かうのだった……。


第四十九話~布都御霊の剣~


 ――翌朝。
 茨城県、鹿島神宮。
 澄み切った空の下、俺はミタライと共にこの地へと訪れた。
 清々しいこの青空を見ていると、先の地震が嘘のように思われた。
 しかし、今回の戦いで俺がオオナマズを滅ぼさなければ、この国は海の底へと沈んでしまうらしい。

 景色に心を和ませている場合ではないのだ。
 駐車場にバスターズの愛車であるぶる「ブルバイソン」を停めた俺は勇んで大鳥居をくぐると、神社の境内へと足を運んだ。
 恐らく神社の人間であれば、剣についても詳しく知っているであろう。
 俺は早速、社務所を目指して歩みを進めた。
 ミタライはと言うと、歴史学者らしく、本物の剣にお目にかかれることにワクワクした様子で俺の後ろを付いて来た。
 
 俺たちは足元の玉砂利の音を響かせながら境内を歩いて行く。

 すると、社務所は本殿からそう遠くない場所にあった。
 建物の前に着いた俺は、境内を囲む木々のざわめきに割り込んで社務所の扉を叩いた。
「ごめんくださーい。ちょっといいですか?」
「はぁ。どちら様で?」
 出てきた男は白衣と袴を着た40代くらいの男。
 俺たちのことを怪訝そうな表情で見ている。
 その事を察知したのか、ミタライは男に名刺を見せた。
「歴史学者ですか……。あ、私はこの神宮の神主ですが、どういったご用でしょう?」
 俺はそれに対して、単刀直入に答える。
「布都御霊剣について詳しく知りたいんだが」
「ああ、それでしたら宝物館にございますよ。今なら時間がありますので、私が直接案内して説明いたしましょう」
 神主はそう言って俺たちを連れて歩き出す。
 やけにすんなり案内されたなと思いつつ、俺はミタライと共に神主の後を付いて行った。
 
 着いた建物は社務所の隣。地面から少し高い位置に建てられた平屋だった。
 中央の階段を上った先に入り口があり、その上には筆字で大きく「日本最古最大の国宝・長刀」と書かれた看板が掲げられている。
 神主に連れられ、俺たちは中へと入った。
「ご覧ください。こちらが、布都御霊剣です」
 神主の案内に従って、ガラスケースの中に目をやる。
 するとそこには、ヤクモの言葉通りの3m程の巨大な長刀が展示されていた。
「これが、そうなのか……」
 切れ味の鋭そうなその切っ先に、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
 すると、そこにミタライが口を挟んできた。
「あの、これってレプリカですよね」
「……え、えぇ。知っているのですか?」
「歴史学者ですからねぇ。しかし我々が今日訪れたのは、『本物』に用があるからなんですよ。神主さん。我々にその場所、その在り処を教えてはいただけませんかね?」
「そ、そう仰いましても、あれは秘蔵中の秘蔵。一般人への公開は秘匿とされておりまして……」
 まあ、そうだろうな。
 ……しかし困った。何としてもそれを入手しなくては、この国が終わってしまうかもしれないのだ。
 すると、ミタライが俺の耳元で何やらひそひそ話しかけてきた。
 ……
 …………
 ………………。
 そうか! それは名案かもしれない。
 俺はミタライの言葉通りに額の白毫を開眼させると、それを神主に見せつけた。
 すると――
「これは! 第三の眼!? ……そうですか、白毫使い……本当に存在したのですね」
 ミタライの予想は的中した。剣の有識者である神主なら、恐らくオオナマズや白毫使いのことも知っているはず。その読みが当たり、神主はこちらの狙いどおりに食いついてきたという訳だ。
 助かった。これは話が早そうだ。
 神主は、何故か表情に暗い影を落として話を続けた。
「分かりました。遂にその時がきたということですね。覚悟はできています。どうぞこちらへ……」
 そう言うと神主は、俺たちを別の場所へと案内し始めた。

 暫く神主の後ろを付いていくと、境内の一角へと辿り着いた。

 そこは宝物館から少し歩いた先の道の途中。タケミカヅチノカミが、ナマズを踏みつけながら剣を突き立てている様子が掘られた、高さ1m程の石像の前だった。
「こちらです。この像の下に本物の布都御霊が保管されているのです」
 神主はそう言うと、険しい顔つきでタケミカヅチが手にしている刀を掴んだ。
 そして機械のレバーを操作する要領でそれを手前に傾けた。
 ……すると! なんと、石像が地響きを立てながら後方へとスライドして行き、その下から地下へと続く階段が出現したではないか!
「すごい……こんな仕掛けが」
 思ってもみない意外な仕掛けに、俺もミタライも目を見開いて驚いた。
「さあ、行きましょう。付いて来て下さい」
 俺たちは神主に言われるがまま、薄暗く湿っている階段を滑らぬよう慎重に降りて行った。

 辿り着いた地下は非常に暗く、ピチャピチャと水が一定のリズムを刻んで滴る音だけが鳴り響いている。
 若干届く外の光では内部全体を見渡すことはできず、目を凝らしてもこの場に何があるのかは分からなかった。
 神主は部屋の入り口脇の台に置いてあった松明に、マッチで火をつける。
 そして、部屋をぐるりと囲んだ燭台の蝋燭に明かりを灯していった。
 すると、ようやく部屋の内部を一望できるようになった。
 部屋は洞穴だった。
 土や岩が剥き出しの外壁には、ところどころ木の根が飛び出している。
 洞穴の奥には、しめ縄が巻かれた、高さ4m程の磐座(いわくら)……つまり神が宿るとされる巨石が祀られていた。
 巨石は下がすぼんだ円錐型をしており、まるでコマの様だ。
 そして、その磐座の前に、長さ3m程の長方形の木箱が安置されていた。
 神主は俺に松明を預けると磐座の前まで歩いて行き、木箱を持ち上げると、それを俺たちの前に運んできた。
「ご覧ください。こちらが本物の『布都御霊剣』でございます」
 神主はそう言って箱の蓋を空ける。すると中から眩い光が漏れ出した。
 それはヤクモから聞かされた通り、金色に輝く3m程の長刀だった。
 そして刀の刃には、俺が顕現させることのできる白毫神器と瓜二つの、雲のような紋様が刻まれていた。
 ということはやはり、これも白毫神器なのであろう。
 その始祖がここにある……。
 俺は息を飲みながら、剣を手に取ろうと腕を伸ばした。
 そして、持ち上げる為に柄を握るとその手に力を込める。
 ……ところが。剣はびくとも持ち上がらない。
 どんなに歯を食い縛ってみても、ほんの僅かも持ち上げることができなかった。
 どういうことだ? 神主は剣の入った箱を軽々と持ち運んで来たというのに……。
 すると、神主がその疑問に答えた。
「布都御霊剣は不思議な霊力が宿っているのです。この特殊な術を施した木箱に入れていれば容易に持ち上げられるのですが、いざ箱から取り出そうとすると、普通の人には扱うことはおろか、持ち上げることすら困難なのです」
 何だって!? それなら、俺にもこの武器は扱えないというのだろうか……。
 言い知れぬ不安に襲われた俺は、神主にこわばった視線を送る。
 すると、神主はこう言った。
「ただし、言い伝えにより、剣を持ち上げられるようになる方法を私は知っています」
「何だって!? 教えてくれ、どうすればいい?」
 俺は手に汗を握りながら尋ねる。
「ここにある磐座を、コマのように勢いよく回してください。それ程の力を携えた者であれば、剣も持ち上げられるという言い伝えなのです……」

 まさか!? この巨石を人力で回せだと!?

 できるわけがない……。俺は目眩を覚えて狼狽えた。

つづく

【第四十八話へ】 【一覧へ】 【第五十話へ】