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新世紀陰陽伝セルガイア

第一話~運命の歯車~

「お~ば~ちゃん!これくださいっ!」 

――2005年、鎌倉郊外。 

とある古本屋に、元気いっぱいの声が響きわたった。 

その少年が手にした一冊の本は、もしかするとこの時すでに、彼の運命を決定付けていたのかもしれない…。 

これは、世界の存亡をかけて戦った、 

一人の少年の物語である…。

第一話~運命の歯車~

◆ 

 「うわぁっ‼」 

 その日、少年は自宅の布団で跳ね起きた。昨日見た夢があまりにも衝撃的だったからだ。 

 少年の名は八神炎(やがみえん)。13歳の中学2年生だ。少々気が弱い、どこにでもいるような少年だが、彼には一つだけ特性がある。…幽霊が見えるのだ。しかし、見えるというだけであり、どうこうできるという訳でもない…。彼はそんな自分を情けなく思いつつも、いつか必ずその特性を、世のため人のために活かしたい…。そう思っていた。 

 そんな少年が見た昨日の夢は、幽霊よりも凶悪な“魔物”と呼ばれる存在を、不思議な刀で叩き斬り人を救う…というものだった。 

 その衝撃的、かつ、自分の特性が人を救ったという高揚感から、飛び上がるようにして目覚めたのだった。 

エン「え…!?夢?…だったのか?」 

 しかし、すぐに彼の脳裏をある疑問がよぎった。それが夢とは思えぬ程にリアルだったことである。…魔物を切った感触まで、その手に残っている感覚がある…。形容しがたい不思議な気持ちに包まれる中、彼はふと枕もとの時計に目をやった。 

エン「ヤバっ!遅刻だ!!」 

 彼は慌てて身支度を整えると、学校に向かって駆け出した。 

 時は2011年4月。外には桜が舞っていた――。 

◆ 学校にて 

 鎌倉市立第三中学校、2年B組授業中。 

 今日もまた何気ない日常が過ぎ去っていく。 

 まじめに授業を受ける者、友達とふざけあって過ごす者、居眠りする者。どの光景も何ら変わりなく、いつも通りに過ぎ去っていく。ただ、少年エンには一つだけ、普段と違う感覚があった。やはり昨日の夢は夢とは思えない…。だがそんな違和感も、時が経つにつれ薄れていき、彼も日常へと引き戻されていった…。 

  そんな授業中、そのエンは教科書で隠すようにとある雑誌を眺めていた。 

先生「ぇ~っとそれじゃぁ、八神くん!ここ読んでくれる?」 

エン「ぇ、あっ・・・はいぃ!」 

 エンは突然の問いかけにすっくと立ち上がり、目の前の文章を読み上げた。 

エン「これでおわかりでしょう、かの大震災を鎮めたのは、何を隠そうこのナイトメアバスターズだったのです!」 

・・・ 

・・・・・ 

・・・・・・・。 

教室の中に一瞬の静けさが訪れ、それはすぐさま笑いの渦となった。 

生徒「はっはっは!八神、何だよそれ!」 

  「またやったなお前!はっはは!」 

  「バっカみたい!あはははは!」 

 そう、エンは今まで手にしていたその雑誌を、そのまま読み上げてしまったのだ。 

エン「ご、ごめんなさ~い!」 

生徒「はははははは!」 

 教室中を笑い声が木霊する。 

  これもまた日常の光景だった。 

先生「まったく八神くんは・・・。はい、それ没収ね。」 

エン「!?先生、後生です!これだけは、これだけは勘弁してください・・・!」 

先生「ダ~メ。渡しなさい。」 

エン「そんなぁ~!」 

生徒「ははははは!」 

先生「ふざけないで、貴方のために授業時間が削れちゃったじゃない!・・渡しなさい。」 

 素直な性格の彼は、普段ならすぐに手渡していただろう・・・。 

 しかし、この日の彼は珍しく抵抗を見せた。 

エン「先生・・これだけは・・・これだけは本当に勘弁してください・・。大事な・・僕の宝物なんです!!!」 

先生「言い訳は聞きません、渡しなさい。」 

エン「嫌です!」 

先生「渡しなさい。」 

エン「嫌です!!」 

先生「渡しなさい!」 

エン「イヤです!!!!」 

???「八神くん!」 

突然、誰かの声が二人の会話を遮った。 

それは、エンが密かに想いを寄せる女の子、夜野鈴音(よるのすずね)の声だった。 

エン「夜野さん!」 

 突然割って入ったその声に、エンは救われた気持ちになった。彼女はいつも、トラブルに見舞われるエンを温かく見守り手を差し伸べてくれていたからだ。ところが、今回彼女は違った反応を見せた。 

スズネ「八神くん、素直に渡してください。」 

エン「そんなぁ…。」 

生徒「ははははは!」 

 しきたりやルールを重んじる彼女に、エンの訴えは通用しなかったのだ。 

 希望が儚くついえたエンは、渋々その雑誌を教師に手渡した。 

先生「放課後取りに来るように。」 

  その直後、授業終了を知らせる鐘が鳴る。 

先生「あーもう!授業終わっちゃったじゃない!・・しょうがないここ宿題ね、明日までに読んでくるように。」 

一同「はぁぁ?。」 

  「ふざけんなよ八神・・・。」 

  「おめーマジ死ね!」 

 こうして校舎に放課後が訪れるのだった…。 

スズネ「八神くん、申し訳ありませんでした。どうしても目をつむれなかったもので…。」 

 帰りの支度をしていたエンに、スズネが語りかけてきた。 

  

エン「あ、夜野さん・・。いや、僕がいけないんだ。」 

 宝物は没収されてしまったが、こうして優しくフォローしてくれるスズネの優しさに、エンはまた救われる。こんなことがあるから、いじめも耐えられし、こんなことがあるから、さらに彼女を好きになってしまうのだ。 

その時だった。 

???「おーい八神ぃ、帰ろうぜー」 

二人を呼ぶ声がした。 

同じクラスの、姫矢舞人(ひめやまいと)である。 

いつも通りのこの声も、エンの心を和ませる。 

彼はエンの唯一の親友だ。 

いわゆる優等生タイプの彼が友達であることも、日頃受ける誹謗中傷を笑い飛ばせる理由の一つだった。 

彼もまたエンにとって、日々の心の拠り所であり救いであった。 

ただ、スズネが彼の”許嫁”という事実を除いては…。 

エンは、似合いのカップルである二人の関係を羨ましく思いつつも、決して恨むことはしなかった。 

仲のいい二人を見ているだけで、エンも幸せに感じることができた。 

それに、エンはスズネが自分には到底届かぬ高嶺の花と割り切っていたのだ。 

マイトの呼びかけに答えるように、足早に支度を済ませると、エンは学校を後にした…。 

◆帰り道 

二人の家は、鶴ヶ丘八幡宮付近の学校から少し離れた場所にある。 

鎌倉駅から江ノ電に揺られ、長谷寺の駅で下車。湘南の海を横目に暫し歩くのだ。 

海岸特有の潮の香り、沈みゆく夕日が彩る陰影、潮騒の音。そして、4月の桜舞う街並みが、二人の心を穏やかにし、親友同士の会話に花を咲かせる。 

エン「キレイだね~、桜。」 

マイト「あぁ、そういえば明後日はもう桜祭りか…。一年って早いな。」 

エン「だね~。」 

そんな会話の中、マイトがあることを切り出した。 

マイト「なぁ八神、ずっと気になってたんだけど、いつも持ち歩いてるその本って、いったい   何なんだ?。」 

エン「あぁ、これのこと?」 

エンは鞄から例の本を取り出すと、マイトに語り始めた。 

エン「月刊オカルティカ。昔出回ってたオカルト情報誌なんだけど、聞いたことない?」 

マイト「さぁ?」 

エン「そうだよえ・・・・。当時は期熱狂的なファンもいたらしいんだけど、最新号が販売中止で回収されちゃったんだ…。」 

マイト「何で?」 

エン「わっかんない。でもさ、行きつけの本屋のおばさんが、僕のために一冊とっておいてくれたんだ!それがこの一冊!。」 

マイト「なるほどなぁ。確かにそんなレアなもん持ってたら宝物にもしたくなる。」 

エン「あ、でも、本当の理由はそれじゃないんだよ。」 

マイト「え・・?」 

エンは、実の所その本の珍しさに惹かれた訳ではなかった。 

その本に書かれていた内容こそが、宝物と言わしめる由縁であった。 

エン「先月、大震災があったでしょ?実はこの本によると、あの原因は地下に住む”大ナマズ”が暴れたからだったんだって!」 

マイト「…そうなのか!?」 

エン「それで、その大ナマズを鎮めたのが、この本の表紙を飾ってる陰陽師の二人組”ナイトメアバスターズ”だったんだって!」 

マイト「ああ!ナイバスか!でも、あの地震以来テレビでも全然見なくなっちゃったな…。」 

エン「そうなんだよね…。でも僕、この本に出会って以来この二人に憧れちゃって!今日も人知れず心霊現象から皆を守るために戦ってるヒーローだよ!だから、僕もいつか陰陽師になって、ナイバスの一員として皆を守るヒーローになりたいんだ!」 

幼い頃に手に入れたその本は、彼の人生を大きく揺れ動かしていた。他人から見れば現実逃避としか思えないような内容でも、日頃辛いことばかり体験してきたエンにとっては、憧れの対象として映っていた。 

マイト「なるほど…!八神は幽霊が見えるんだもんな!自分を活かせるいい道かもしれない。」 

エン「そう言うこと。あぁ~…いつか会いたいなぁ。」 

マイトは現実離れしたエンの話を、決して否定などしなかった。幽霊が見えるというエン事を昔から信じていたからだ。マイトはそっとエンの肩に手を置くと、「応援してる」とつぶやいた…。いつの間にか二人の家が近づいていた。 

マイトと別れたエン。一人とぼとぼと歩いていると、突然物陰から声がした。 

???「おい、八神・・。」 

驚くエンが声のする方に目をやると、見知った人物が現れた。 

 同級生のいじめっ子、桐谷(きりや)達3人組だった。 

エン「あぁ!キリヤ!」 

するとエンはあることを思い出す。昨日のあの『夢とは思えぬ夢』の中で、エンが助けた人物こそこの3人組だった。エンはあれが本当に夢だったのか確かめてみたくなった。 

エン「あのさ…昨日あの後…大丈夫だった…?」 

キリヤ「は?昨日?何言ってんだお前、気持ち悪りっ。」 

エン「やっぱり…夢だったんだ。」 

恐ろしい魔物の手から救ったはずのキリヤからは、感謝の言葉は出なかった。それどころか、昨日何もなかったかのような口ぶりである。生まれて初めて念願叶い他人のために自分を活かせたという思いから、心のどこかで夢が現実であることを望んでいたエン…。しかし、そうではないと知り落胆するエンに追い打ちをかけるように、キリヤが彼をいびり始めた。 

キリヤ「ところでほら、カネ出せカネ。」 

エン「ちょ、ちょっと待ってよ!僕もう無いって!」 

キリヤ「あぁ?いつも出してんだろ。」 

エン「だから無いんだよ…。」 

キリヤ「なんだよ、逆らうのか。」 

エン「・・・だって・・。」 

次の瞬間だった。 

バコォ! 

鈍い音が響きエンの体は宙を舞った。 

キリヤが殴りつけてきたのである。 

尻餅をつくエン。 

エン「痛ぁっ…。」 

キリヤ「はっ!逆らいやがって。…本当にねーのか確かめてやる。おい!」 

そう言うとキリヤは取り巻きたちに指示を出し、鞄の中をあさらせた。 

すると…。 

「アニキ、こんなもん見つけたぜ。」 

取り巻きが見つけたのは”月刊オカルティカ”だった。 

キリヤ「あぁ、宝物とか言ってたあれか。お前マジキメーな。…へっ、丁度いいや。」 

そう言うとキリヤは、ニヤリと口の端を傾けた。 

キリヤ「おい、お前この本とカネ、どっちが大事だ。」 

エン「えっ!?」 

そう、キリヤは雑誌を人質にしたのだ。 

キリヤ「カネ出さねーと破くぞ。」 

エン「いや、本当に無いんだって!!」 

キリヤ「破くぞ。」 

エン「無いんだって!」 

キリヤ「破くぞ!!」 

エン「無いんだよ!!」 

その時だった! 

???「やめろっ!!!」 

突然マイトが現れた。 

エンの声を耳にして駆けつけたのだ。 

キリヤ「ヤベっ!マイトだ!逃げろ!!!」 

そう言うとキリヤ達は、そそくさと退散していった。 

マイト「大丈夫か!?八神?」 

マイトは、ヘタレ込込むエンを抱え起こした。 

エン「マイト…こんなんじゃ僕…、到底ヒーローになんかなれないね…。」 

マイト「八神・・・。」 

やりきれない思いの中、辺りは夕闇に染まり始めていた…。  

◆??? 

エン「ただいまー。」 

発したその言葉とは裏腹に、この日彼がたどり着いたのは自宅ではなかった。 

八雲神社。 

彼はそこにいた。 

悲しいことや辛いことがあると、エンはいつもそこに行く。 

それは、自宅に帰る事では決して得られない、心安らげる人物か居るからだ。 

エン「ばっちゃー久しぶり」 

???「ぉお~、エンかい!久しぶりじゃのぉ。どうした、こっちに来なさい。」 

この神社の尼僧、八雲である。 

 地元の人間からは霊媒婆さんとして知られ、一部の人間からは薄気味がられているいる。エンはそんな八雲のことを『ばっちゃ』と呼び慕い、この神社に昔から足しげく通っていた。 

巷で気味悪がられている八雲の元に通うことが、また一ついびりの対象となる点でもあった。 

しかし、たとえ他人に軽蔑されようとも、そこにはエンが通うに値する利点があった。 

というのも、エンは幼い頃に自分の両親を亡くしており、その後血の繋がらない母親のいる母子家庭で育った。 

そして義母の生活ぶりは実にふしだらで、彼がどんなに愛を求めても、暴力という答えでしか返ってこないのだ。 

しかも、帰ったところで彼女が居るとは限らない。水商売の彼女と共有できる時間など殆ど無いのだ。 

寝泊まりするだけの自宅…。 

帰りたい場所ではなかった…。 

だから彼はここにいる。 

ヤクモであればどんな事でも、頷き微笑み聞いてくれるからだ。 

エンは先ほどの出来事をありのまま話した。 

八雲「そうかぃ、そうかぃ。それは大変だったねぇ。まずそんな泥だらけじゃしょうがないから、ひとっ風呂浴びてきなさい。」 

エン「うん・・。」 

それに、ヤクモ自身も、エンを自分の息子のように慕っていた…。 

◆ 

風呂から上がったエンは、まるで小さな子どものように「物語を語ってほしいと」八雲にせがんだ。 

いつも彼女が語ってくれる”おばけ”や”妖怪”の話は、彼の心を俗世のしがらみから彼解放してくれるものであり、どんな慰めの言葉よりも一番効力があったからだ。 

…ところが、この日彼女はそれを拒んだ。 

ヤクモ「エン・・・。おぬしももう中学2年生じゃろ。いつまでもワシに甘えておってはいかん。」 

エン「そう…だよね…。ワガママ言ってごめん。」 

ヤクモ「すまんの…。そうじゃ、その代わりと言ってはなんじゃが、今日はオヌシに特別な贈り物をしてやろう。…ワシの秘術を伝授する。」 

エン「…え!?」 

ヤクモは幽霊が見えるというエンの特性と、それを世のため活かしたいという思いを知っていた。以前からいつしか自分の技を継承したいと考えていたのだが、久しぶりに訪れたエンを見て今日がいい機会だと思ったのだ。 

本物の霊媒師から、ついに秘術を知ることができる…。 

 思ってもみない切り返しに、エンは浮足立った。 

そして八雲は、厳かに語りだした…。 

ヤクモ「よいか、今日はお主に”神言波”を伝授する。」 

エン「しん・・ごん・・は?」 

ヤクモ「魔物や悪霊に直接攻撃できる”大技”じゃ。」 

エン「ぇえ!?そんな凄いのいきなり!?なんか色々すっ飛ばしてない!!??」 

ヤクモ「はは、そうじゃなぁ。じゃが、ワシも一度今のオヌシの霊力がどれ程のものなのか、ひとつ確かめてみたいんじゃ。」 

エン「そっか…。」 

ヤクモ「よいか、これからワシがすること、話すことは他言無用じゃ。まずは、よく見ておれよ…。」 

エン「うん、わかったよ。」 

そう言うとヤクモは、静かに目を瞑った・・。 

そして次の瞬間… 

エンは凄まじい光景を目の当たりにする! 

ヤクモ「アビラぁっつ!!ウン!ケン!!ソワカーーーー!!!!」 

八雲は呪文を唱えると、自らの前方に眩い円形の光を形成させた。そして、その中心から凄まじい勢いで光の玉が発射され、辺りには爆音が轟いた! 

エン「えぇっ!?何これーーーーーーー!!!??」 

想像の遥か上をいっていたその大技に、エンは度肝を抜かれた。 

そして、その余韻を残しつつ辺りを舞う粉塵の中、再びヤクモが語りだした。  

ヤクモ「どうじゃ?凄いじゃろ。」 

エン「・・凄い。凄いよばっちゃ!!凄すぎる!!!」 

ヤクモ「そうじゃろそうじゃろ、では、次はオヌシの番じゃ。」 

エン「え!?いきなり!?」 

ヤクモ「大丈夫、横に付いて教えてやるから、マネしてやってみぃ」 

エン「わかった。」  

今まで幽霊を“見る”ことしかできなかったエン。もしこの『真言波』を使うことができれば、ついに対抗する力を手にすることができる…。そうなれば昨日の夢のように、今度こそ本当に人助けができるかもしれない…。しかしいきなりの大技である。はたして自分にできるものなのか自信はなかったが、エンは鼻息交じりに立ち上がると、ヤクモの言う通り試してみることにした。  

ヤクモ「まず、腹に力を込めて精神を集中させる・・。」 

エン「こう…かな…。」 

エンは言われた通りに腹に力を込めると、呼吸を整え眼を瞑った。 

ヤクモ「次に、両手の人差し指と中指を突き立て前方を指しながら体の前で交差させる。」 

エン「交差…させる…。」 

ヤクモ「そうじゃ…。そしてそのまま両手で大きな円を描きながらこう唱えるのじゃ。アビラ!と。」 

エン「よし・・・アビラァッ!」 

すると!なんとエンが回した腕の軌跡をなぞるように円形の光の筋が現れたではないか! 

エン「ば、ばっちゃ!僕、できてる!できてるよ!!」 

ヤクモ「す、凄いぞエン!よしこのまま気を抜くでないぞ!」 

エン「う…うん!」 

エンはさらに精神を研ぎ澄ませる。 

ヤクモ「その輪の中心に、光の玉があるじゃろぅ。」 

エン「うん!」 

ヤクモ「それを”ウンケン”と唱えながら、思い切り引っ張れ!あとはパチンコの要領で、放せば玉が飛んでいく!」 

エン「分かったよ!」 

エンは力一杯に光の玉を引っ張った! 

「ウ ン! ケ ン!」 

…ところがだ、どんなに力を込めてもその玉を引き出すことができず、勢い余って尻餅をついてしまった! 

今のエンには、これが限界だったようだ。 

エン「ばっちゃ、やっぱり僕にはまだ無理みたい…。」 

ヤクモ「そうじゃな…。やはりオヌシにはまだ早すぎたようじゃ。ははは」 

エン「ははは」 

とはいえ、まさか自分にこんな魔法のような事ができるとはつゆとも思っていなかったエンは、驚きを隠せなかった。そしてそれはヤクモも同じであった。まさか最初でここまでできるとは…。あまりの驚きに、二人は思わず笑いあった。 

と、そんな中、ある音が二人を一気に現実に引き戻した。 

『ぐぅ~…』 

エンの腹の音だった。 

ヤクモ「ははっ、なんじゃエン、オヌシ腹ペコか?」 

エン「ちょっと集中しすぎたみたい…。」 

ヤクモ「そぅかそうか、そしたらほれ、お小遣いじゃ。これでおいしいもの食べてきなさい。」 

エン「え!?ばっちゃ!いいの!?」 

ヤクモ「おお!たらふく食べてきなさい。」 

エン「ありがとう!!」 

ヤクモ「うむ、また来て練習するといい。オヌシならきっといつかできるようになるじゃろて…。」 

エン「分かった!僕、必ずものにして見せるよ!」 

ヤクモ「うむ、その意気じゃ!」 

こうして、夢の時間を過ごしたエンは八雲神社を後にした。 

そして、暗がりに消え行くその姿を見送りながらヤクモは一人呟いた…。 

ヤクモ「あヤツ…、或いはワシの見込み以上かもしれん…。」 

◆蕎麦屋“陰陽庵” 

所変わってここは、そば屋“陰陽庵” 

エンの行きつけの店である。 

二人の男が経営するこの店は、巷で話題になるほどの評判の良い店として有名だ。 

そんな店に、エンは幾度も訪れた。 

家に帰っても、食事も、食卓を囲む人もいないからである。 

エン「こんばんわー。」 

??「いらっしゃ…!おぉエンか!久しぶりだな。待ってな、すぐ作るから。」 

出迎えたのはこの店の店主である。 

30代後半の男だが、スマートで実年例よりも若く見える好青年だ。その為かこの店は根強い女性のファンも多く獲得している。 

店主「おーい!エンが来たぞー!いつものヤツ頼むー!」 

厨房「あいよー!!」 

店主は厨房の男に指示をだすと、エンと共に店内のテーブルに腰掛けおもむろに語りかけた。 

店主「…お前、最近ぜんぜん来なかったよなぁ。何かあったの?」 

エン「あ、…いやぁ実は…」 

店主「待て。当ててやるよ。」 

エン「え!?」 

店主「…カツアゲされて一文無し。」 

エン「………。」 

店主「…お、その反応は…図星だな?」 

エン「…。もー!せっかく旨いそば食べて忘れようと思ってたのに!!」 

店主「あー!悪りぃわりぃ!まさか当たるとは思ってなかったからさ!…しかしそれならそう言ってくれればいいのに。たまにだったらタダで食べさせてやるのに…。」 

エン「いやいやそんな!申し訳ないよ。」 

店主「全く、お前そういうところしっかりしてるよな。」 

そんなやりとりをしていると、厨房からもう一人の男が現れた。この店の調理人である。 

店主と同じ年の男だが、彼は対照的に体格が良い。パラパラと疎らに髭を生やし、重ねた年齢を上回るような風格を漂わすダンディーな男である。 

料理人「はは!楽しそうだなお前ら。・・はいお待ちどさん。いつもの“きつね”にお揚げ一枚オマケしといたぜ。」 

エン「え!?…なんかすいません。ありがとうございます!」 

店主「いいってことよ。」 

エン「それじゃ、遠慮なく…いただきまーす!」 

ズルズルと無造作な音をあげ、そばをすするエン。 

久々に味わう美味しさと店の二人との会話に、エンは心底ご満悦だった。 

…すると突然。 

ガラガラガラ 

勢いのある音と共に、店の戸が開いた。 

そこに立っていたのは親友、マイトだった。 

マイト「八神!やっぱりここだったな。」 

エン「え!?マイト!どうしたの!?」 

マイト「いやな…ちょっとお前に頼みがあって」 

エン「え?」 

マイト「悪いけどちょっと俺に付き合ってくれないか?」 

エン「う、うん、わかったよ。ちょっと待って。」 

そういうと一気に汁を飲み干すエン。 

 ごちそうさまの声を後に、マイトに付いていくことにした。 

◆古寺の墓場 

マイトはエンを自転車の後ろに乗せ、ある場所へとやって来た。 

マイト「よし、着いた…。」 

そう言うと自転車を止めるマイト。 

その背後で、たどり着いた場所を見たエンは眉をひそめた。 

エン「え…こんな所に…用事?」 

マイトがつれてきた場所、そこは、古めかしい墓石が無造作に並び立つ”墓地”だった…。 

エン「マイト…何で…こんな場所に?」 

マイト「八神…ちょっとお願いがあってさ。」 

エン「…え?」 

マイト「実はこの前、スズネから貰ったハンカチをここで無くしちゃってさ…。明らかにここで落とした筈なのに見つからなくて…。」 

エン「そ…それで…?」 

マイト「頼む!お前の霊感で、探し出してくれないか?」 

エン「なるほど…。」 

マイト曰く、ここで無くしたのは確実らしい…。しかし、自身で探しても、寺の住職に確認しても、その後見つからなかったようなのだ。 

そこでマイトは、試しにエンの特殊な力を借りてみようと思い立った。 

マイトは親友として、霊感があるというエンの事を信じていたからだ。 

エン「うん…分かった!自信はないけど、やってみるよ。」 

 親友の頼みとあっては断れない。それに、自分の特性を人のために役立たせることができるかもしれない…。浮足立つエンは懐中電灯を受け取ると、マイトと共に闇の中へと踏み出していった…。 

街から離れたこの場所に響くのは、木々のざわめきだけ…。 

辺りに広がる光景は、手入れも行き届かず、苔むす墓石。雨風にさらされ、朽ち果てた卒塔婆…。 

恐ろしい雰囲気の中、一歩ずつ 

奥へ・・ 

奥へと・・・ 

進んで行く二人。 

ところがハンカチは一向に見つからない。 

エンはマイトの望みを一刻も早く応えたい気持ちとは裏腹に、正直なところ自分の霊感をどう活かしていいものか分からずにいた…。 

…どれほど経ったであろうか。 

ふいにマイトが口を開いた。 

マイト「なぁ八神、わざわざこんな時間に連れてきたのには訳があってさ…。幽霊に聞いてみる…なんてできないかな…。」 

エン「あ、そっか!」 

そんな会話をしていると、突然エンの背後に冷たい風が通り抜けた。 

エン「!?」 

悪寒が走り振り向くエン。 

すると、背後の墓石がほんのりと光を放っている…。 

エン「…もしかして…。」 

エンは淡い期待とともに、その墓石に近づいた。 

「・・・シク・・・シク・・・」 

すると突然、何者かのすすり泣く声が聞こえてきた…。 

エンはすぐさま、その声のする墓石の裏側に回り込んだ。 

すると… 

そこにはうずくまる、一人の女性がいるではないか。 

エン「あの~、お姉ぇさん…どうしました?」 

 エンの問いかけにその女性は顔をゆっくりと持ち上ると、語りかけてきた。 

「ミツカラナイノ…」 

エン「…ぇ?」 

「ミツカラナイノ…」 

エン「大丈夫ですか…?」 

「ミツカラナイノ…」 

同じ返答しか返さない女性が心配になり、エンはしゃがんで彼女に近づいた。 

すると突然彼女が叫ぶ! 

「ミツカラナイノ」 

「ワタシノ腕がぁあぁアあああ!!」 

・・・ 

・・・・ 

・・・・・・。 

エン「やったーーーーー!!幽霊だーーーーーー!!!」 

 幽霊「ぇえっつ!!????」 

そこにいたのは、紛れもなく幽霊であった! 

普通なら誰しも驚き逃げ帰るであろうその状況。 

しかし、エンの意外な反応に、むしろ幽霊の方が驚いた! 

幽霊「ちょっとあんた、私が怖くないの!?」 

エン「ん~ん!全然!」 

幽霊「えぇ!?だってあたし…ほら…幽霊だよ!?」 

エン「はい!知ってます!」 

幽霊「えぇえ!?し、しかもほら…ぅぅぅ腕が無いのよ!!」 

エン「…うわぁ…そうですねぇ…。」 

幽霊「・・・・・・。」 

あまりに意外な反応に、幽霊は困惑していた。 

幽霊「何よアンタ…、もしかして霊能者ぁ?」 

エン「あ、いや、そういうわけじゃないんですけど、僕、昔から普通に見えちゃうんです。」 

幽霊「ぁあ~そう!そうなの…。何よもぉおおーー!久々にこんな時間に人が来たから思い切り脅かそうと思って気合い入れたのにぃ!!」 

エン「…しかし大変ですね…成仏できないとこれくらいしかやることなくなっちゃうんですか?」 

幽霊「悪かったわね!…ところでアンタ、何しに来たのよ。今肝試しの季節じゃないでしょ?」 

エン「いや…実はちょっと探し物をしてまして…」 

幽霊「私の腕!?」 

エン「ち…違いますけど(汗)あ、ちょっと待ってください。」 

そこまで話すと、エンはマイトに声をかけた。 

マイト「どうした八神!見つけたか!?」 

エン「あ、ハンカチはまだだけど、ほら!幽霊!この人に聞いてみようと思って!」 

マイト「え?幽霊?どこに…?」 

エン「いや…ほらここに!…やっぱり、僕にしか見えないのか…。」 

うすうす気づいていたが、やはり普通の人間に幽霊を見ることはできないようだ。 

落胆するエンだったが、これでマイトの望みを叶えられるかもしれない。 

エンは再び幽霊に語りかけた。 

エン「あの、以前ここにいる僕の友達がハンカチをなくしちゃったみたいなんですけど…この辺で見たりしてませんか…?」 

幽霊「あぁ…ああ!あれのことかしら。」 

どうやら幽霊には心当たりがあるらしい。 

エン「そ、それって今どこにあります!?」 

幽霊「それだったこんな所探してたってダメね。多分今は寺の本堂にあると思うわ。」 

エン「本当ですか!やった!」 

幽霊「・・・・あんた・・不思議な子ね。いいわ、なんか脅かす気も失せちゃったし、私が本堂まで案内してあげる。」 

エン「あ!ありがとうございます!!」 

こうしてエンはマイトと共に、幽霊の案内によりハンカチがあると思われる本堂へと向かうのだった…。 

◆本堂前 

幽霊「ついたわ…。ここよ。」 

しばらく歩くと、幽霊の言うとおりそこには本堂が佇んでいた。 

かなり古い建物の様で、手すりは色あせ煤け、辺り一面蜘蛛の巣が張り巡らされ、不思議なことに人気が一切感じられない。 

辺りの墓石も然り辺り一面、時が止まったかのような風格が漂っている。 

その光景を見たマイトがなぜか不思議そうな表情を浮かべ始めた。 

エン「マイト、どうしたの?」 

マイト「いや…ここ、こんなだったかな…?」 

マイトはいつも先祖の墓参りの際、この場所に訪れていた。…しかし、この日の本堂は明らかに普段とは違う様相を呈している。 

そんな疑問を解消する意味でも、マイトは足早に本堂に向かって行った。 

幽霊「さ、私が案内できるのはここまでよ。結界が張ってあって中には入れないわ。」 

エン「いやいや十分です。本当にありがとうございました。」 

幽霊「楽しかったわ・・・気を付けてね・・・。」 

そういうと、幽霊は静かにその姿を消した。 

エン「さ~て。」 

エンは一度深呼吸をすると、マイトの後を追った。 

◆本堂 

マイト「おい八神…見てくれ…」 

エン「どうしたの?」 

本堂の扉に手を掛けたマイトに再び疑問が生じた。 

おかしい。しっかり管理されていなければならないはずのこの扉が、いとも簡単に開くのだ。 

なにかよからぬ雰囲気が漂い始めたのだが、二人は急ぎハンカチを回収するべく、扉に手をかけるとゆっくりと開いていった。 

ぎぎぎぎぎぎ・・・ 

扉の先は異様な空間が広がっていた。 

明らかに人が手入れをしている気配がない。 

静かすぎる…。 

その静寂さも度を超し、自分たちの耳鳴りの方が際立つ程だ。 

その暗闇の中、二人は懐中電灯の明かりだけを頼りにハンカチを探した。 

…すると。 

エン「あった…!」 

それは、心面鏡の前にある“なにか”を覆い隠すように、ふわりと置かれていた。 

マイト「よかった…。八神!ありがとう!ありがとう!」 

エン「いや、お礼を言うのはこっちだよ!ようやく人のために力を活かせたんだ!ありがとう!」 

マイト「そうだな八神!よかったよ!」 

エン「うん!これで一歩、ナイトメアバスターズに近づけたかな!」 

エンは喜びの表情を浮かべつつ、マイトに渡そうと思いハンカチに手を伸ばした。 

すると… 

 エン「あれ?…これって?」 

どかしたハンカチの下に、エンにとって見覚えのあるものが置かれていた。 

エン「これってもしかして…封印香(ふういんこう)!?」 

それは、仏具としては逸脱した、近代的かつ派手なデザインの香炉であった。 

マイト「どうした八神!?」 

エン「え…いやこの香炉…ナイトメアバスターズのアイテムだよ!」 

マイト「!?」 

エンは思わずその香炉を手に取った。「バスターズに近づけた」そんな言葉を発した矢先に見つけたそれは、明らかにナイトメアバスターズが以前ここに来たことを指示していた。 

興奮するエン。ほんの少しの気持ちで香炉全体を嘗め回すように観察した。 

マイト「八神…そろそろ帰ろうぜ。」 

エン「うん、あとちょっと、あとちょっとだけ見せて!」 

鼻息交じりに目を輝かせながら香炉を見つめるエン。 

するとその時だった…。 

『ブルっ』 

突然香炉が、まるで生きているかのように身震いしたではないか。 

エン「うわぁっ!」 

するとエンは驚きのあまり、思わず香炉を手放してしまった! 

パリーン!! 

そしてあろうことか、地面に落ちたその香炉は、音を立てて割れてしまった!! 

エン「しまった!」 

マイト「八神…これ…大丈夫か?」 

エン「いや…多分…まずい。」 

すると、割れた香炉から突如として煙が立ち込め、マイトの体を包み始めたではないか! 

マイト「え!?なんだこれ!!」 

エン「マイト!!」 

予期せぬ事態に焦るエン! 

すると、マイトに異変が襲った! 

ぐぉぉおおおおっつ!! 

突如奇声を発したかと思うと、次の瞬間!マイトはエンに襲い掛かった!!  

エン「うわぁぁあ!マイト!どうちちゃっの!?」 

ぐおおっつ! 

再び襲い掛かるマイト!どうやら正気を失っている! 

エン「うわっつ!」 

間一髪マイトの体を避けたエンは、本堂の扉に手を掛けた! 

ところがだった! 

ガタ! 

ガタガタガタ! 

おかしい!来るときあんなに簡単に開いた扉がびくとも動かない! 

エン「くそ!何だこれ!?マイト!やめてよマイト!!」 

マイト「ぐぉぁぁぁぁああ!!」 

逃げ場をなくしたエンに再び襲い掛かるマイト! 

パニックになったエンが今にも泣き叫びそうになったその時だった! 

バーーーーン!!!! 

・・・・ 

・・・・・。 

突然背後の扉が開かれたかと思うと、夜の闇の中に浮かび上がる二つの陰があった。 

??「おい!大丈夫かっ!?」 

エン「…え…?ウソ!?まさか…」 

「ナイトメア・バスターズ!!??」 

そこに立っていたのは紛れもなく、エンが憧れるあの二人、“ナイトメア・バスターズ”だったのだ! 

ハヤト「おま!何やってんだこんな所で!?」 

エン「ちょっと!宝蔵院隼人(ほうぞういんはやと)さんに大道寺番(だいどうじばん)さんですよね!?やった!!!助かった!!」 

バン「おい、いったいなにがあった!」 

尋ねられたエンは矢継ぎ早に、これまでのことを話した。 

すると… 

ハヤト「何てことしてくれたんだ!」 

エンはナイトメアバスターズ(以下ナイバス)のリーダー、ハヤトに叱責されてしまった。 

ハヤト「あの香炉には、先月の震災の元凶だった“大ナマズ”を封印してたんだ!」 

エン「え!!」 

エンに衝撃が走った!そして、雑誌を通して経緯を知っていたエンは、瞬時に事の重大さに気づかされたのだ。 

エン「すいません、すいません」 

バン「あやまって済むか!とにかく、この状況を何とかするぞ!」 

ナイバスの補佐役、バンが発した一言に動かされるように、ナイバスは事態の終息のため行動を開始した。 

バン「ハヤトまずいぞ・・急いであいつの体から霊体を取り除かないと、揚力な邪気にアイツ身が持たなくなる!」 

ハヤト「ったく何てことしてくれたんだホントに!・・・しかたない、バン!もう一度封印する!」 

バン「おう!」 

そう言うと、バンは持参したアタッシュケースの中から、お祓いに使われる道具“幣(ぬさ)”によく似たアイテムを取り出し、その柄の先を勢いよく地面に突き刺した! 

バン「ハヤト!押さえろ!」 

ハヤト「ああ!」 

ハヤトはマイトの体を羽交い締めにし、バンの行為を見守った。 

バン「ハヤト・・放すなよ!」 

ハヤト「分かってるさ!」 

ううぅぅううう!! 

もがき苦しむマイトを救い、何としても凶悪な霊を封じようと、ナイトメアバスターズは呪法を試みたのである! 

ギュィィィイイイイイ!! 

地面に突き立てた幣は、バンが唱える呪文に呼応するように光を放ち始めた! 

ハヤト「・・まだか!?」 

バン「・・・もう少しだ!!」 

その光は地脈を伝い、マイト足下へと滑り込んでいった!バンはマイトの体に入り込んだ霊体を”封印するための符号”を見つけようとしていたのだ。 

ハヤト「くそっ!まだか!?」 

霊に取り憑かれたマイトの想像を絶する力に耐えきれなくなったその時! 

バン「見切ったっ!」 

バンがそう叫ぶとマイトの体から光が漏れだし、突如空中に三文字の”梵字”が浮かび上がった! 

ハヤト「よし!!!」 

そういうとハヤトは、腰にぶら下げた香炉を手に取った!エンが壊したそれと同じもののようだ! 

カチ・・カチカチカチ・・! 

香炉にはダイヤルが付いており、それを素早く回転させていくハヤト。 

先ほど浮かび上がった梵字と同じものを揃えないと、ふたが開かず封印できない仕組みなのだ! 

ハヤト「よし!!揃ったっ!!」 

そう言うとハヤトは大きく息を吸い込み、体の前面に香炉をかざした・・・ 

すると!マイトの体から徐々に、徐々にと霊体が姿を現し、香炉の方へと吸い寄せられていった! 

エン「す…すごい…」 

関心するエンをしり目に、ハヤトは渾身の霊力を込め、霊体の封印を急いでいた。 

ところがだった…。 

マイト「くそ…しぶといな…。」 

霊体の凄まじい邪気に対し、ハヤトは苦戦を強いられていた。 

 一刻も早く霊を封印せねば、マイトの身が持たない…。 

しかし、霊の激しい抵抗により、ハヤトは徐々に疲弊していく…。 

バン「ハヤト!」 

そう叫ぶとバンも加勢し、眩い光を放つ香炉に手を差し伸べた! 

ナイバス「うぉぉぉぉおおおお」 

ところがだ! 

二人が霊力の限りを尽くしても、霊は一向に封印されない。 

ついにはバンも疲弊しはじめ、二人の体力は限界に近づきつつあった…。 

エン「そんな、ナイバスの二人が…苦戦してる!?」 

その雰囲気を察知したエンの脳裏に、あることがよぎった。 

「何とかしなきゃ!」 

その場にはもう自分以外だれもいない。それに、自分には少なからず霊力がある。 

エンはとっさに苦戦する二人のもとへ駆け出した! 

ハヤト「!?やめろ!何してる!!」 

エンのとっさの行動に、ハヤトは難色を示した。 

エン「僕、昔から霊力があるんです!今の僕なら…力になれるかも…!」 

そう言うと、香炉に向かって手を伸ばすエン。 

ハヤト「!!やめろ!!余計なことをするな!!」 

ところがだった! 

エンがその香炉に触れたその瞬間! 

一同「うわああぁっつ!」 

雷鳴に似たけたたましい音と共に、一同は香炉から弾き飛ばされてしまったのだ! 

バン「マズい…!」 

ハヤト「余計なことを…。」 

地面に落下した香炉は、暴走し勝手に霊を吸い込み続けている! 

このままでは、いずれここにいる全ての者の魂すら封印しかねない! 

嵐のような風が舞い上がる中、ハヤトは香炉に向かって飛びかかった! 

ハヤト「うををおおおあ!」 

ズザザザ! 

カチャリ! 

見事、その蓋を閉じることに成功した! 

…するとそれまでの光景が嘘のように静まり返り、一同は暫し安堵した。 

しかしそれもつかの間!さらなる恐怖が彼らを待っていた! 

三人の目の前に、あの大ナマズの霊体が浮かんでいたのである! 

そう、霊を封印出来でいなかったのだ! 

ハヤト「くそっ…!」 

こうなれば全面対決しかない!そう思ったナイバス。 

 ところが・・・霊は意外な行動を見せた。 

一筋の光を闇夜に伸ばすと、その場から立ち去って行ったのである・・・。 

◆ 

エン「やっ…たのか…?」 

ハヤト「そんななわけないだろ!なんてことしてくれたんだお前!」 

そう言われるのも無理はない。 

念願かなって出会えたナイバスだったが、エンはその力を示すどころか、余計なことをしてしまったのだ。 

すると、ふいにバンが声を張り上げた! 

バン「おいハヤト!救急車!!」 

マイトの意識がなくなっていたのだ! 

ハヤト「おい!大丈夫か!?」 

エン「マイト!!」 

二人も駆け寄り確かめるが、言うとおり意識がない。 

ハヤト「お前…ホントに…。」 

エン「ご、ごめんなさい…。」 

ハヤト「ごめんで済むかバカ!!とにかくバン!救急車だ!」 

バン「お、おう!」 

バンは携帯を取り出すと、すぐさま119番につないだ。 

暫しの静寂が訪れる。相変わらず目を覚まさないマイトの傍らで涙をすするエン。 

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 

そんなエンにハヤトが語りかけた。 

ハヤト「ところでお前、俺たちに詳しいみたいだな…。」  

エン「はい…この本を読んでから、ずっと大ファンで…。」 

エンはおもむろにカバンからあの本を取り出すと、ハヤトに差し出した。 

すると、ハヤトは驚きを隠せなかった。  

ハヤト「え!?あれは問題があって直ぐに回収されたはずだぞ!」  

エンはハヤトに事情を話すと、ため息をつかれてしまった…。 

ハヤト「ところでバン…あの悪霊はどこへ向かった…?」 

バン「…分からない…」 

救急車の到着を待つ中、二人は対策について話し合っていた。 

ハヤト「だが、奴が本来の力を取り戻すまで、恐らく半月はかかる…。次に現れるまではまだ猶予があるな…。」 

バン「ああ…、だがハヤト、悠長なことは言ってられないかもしれない…。明日…何がある…?」 

ハヤト「桜祭り!」 

ナイバスは焦りの色を隠せなかった…。 

そんな二人に、エンは思わず訳を聞いてみた。 

ハヤト「大問題だ…。ヤツが力を取り戻す為に必要なのは、負の感情を抱いた人間の魂だ。となれば、多くの人出が予想される桜祭りに、奴は確実に現れる。そして早々に力を取り戻すべく…。」 

「大虐殺を始めるぞ…。」 

エン「!?」 

その通り。かつて大震災を引き起こし、世に甚大な被害をもたらした大怨霊。見境なく人を襲うそいつが向かうのは、おのずと群衆集う場所となる…。 

そして、集団が一気にパニックに陥れば、そうなった人間の魂は負の感情で満たされる。それを悪霊が喰らえば、加速度的に本来の力を取り戻す。正に明日の祭りは、悪霊にとって格好の餌場となるだろう…。 

 エンは改めて、自分のしでかした事の重大性に気が付くと、何度も何度も頭を下げた…。 

ハヤト「謝ってもしかたない…。とにかくお前は救急車が来るまでここにいて、友達を守ってやるんだ…。おいバン!行くぞ!」 

バン「おう…。」 

そういうと、二人はその場から消えて行った…。 

エンは意識のないマイトの傍で、ただただ虚空を見つめていた。 

だんだんとサイレンの音か近づいてきた…。 

◆病室 

病院に担ぎ込まれたマイトは、相駆らず意識を取り戻すことなくベッドに横たわっていた。 

医者の話では、原因不明のため治療の施しようがないらしい…。 

エンはその傍らで手を握り、ひたすら謝り続けていた…。 

エン「ごめんよ…。ごめん…。僕のせいで…。」 

涙を浮かべながらマイトの体に額をつけた…。 

すると…。 

マイト「・・・・・八神・・・。」 

何とマイトは意識を取り戻したではないか! 

エン「マイト!!」 

エンは喜び、すぐに医者を呼ぼうと駆け出した! 

すると、それもつかの間、突然マイトはベッドから転び落ちると、病室の扉に向かって這いずって来た! 

エン「え!?マイト!?ダメだよ!安静にしてなきゃ!!」 

エンは急ぎベッドに戻そうと駆け寄るのだが、マイトはその手を拒むと意外な言葉を投げかけた。 

マイト「…行かないと…。」 

エン「…え?」 

マイト「行かないと・・・・!」 

マイトは、自分に残された力の限りを尽くして、再び地を這うように前進し始めた。 

エン「だ、ダメだよじっとしてないと!」 

マイト「いいや…行かないと・・。」 

エン「…え!?」 

マイト「行って・・・あの霊を止めないと・・・!」 

エン「!?マイト…覚えてるの!?」 

マイト「あぁ…全部覚えてる…。」 

なんと、マイトは例に憑依されてから意識を失っている最中のことも、全て鮮明に記憶していた。 そして、逃げた霊を追いかけようとしていたのだ! 

エン「マイトだめだよ!そうだ!きっとあの霊に操られてるんだ!」 

マイト「…違うよ。…俺の意志だ…。何としても行かないと…!」 

エン「…えぇっ!?どうして!!」 

驚きを隠せないエンに対し、マイトはその真意を語りだした。 

マイト「元はと言えば・・俺がお前を連れて・・あんな場所に行ったのが原因だ…。俺の責任だ…。だから…」 

「俺が行かないと・・・!」 

エン「…そんな無茶だよ!その体で!…しかもマイトは霊力がないんだ!どうにもならないよ!絶対に無理だよ!!」 

マイト「バ カ 野 郎 !!」 

エン「!?」 

マイトは、渾身の力でエンを恫喝した。 

マイト「お前…確かナイバスに所属して、ヒーローになりたいって言ってたよな?・・・なら親友としてハッキリ言うぞ…今のお前には無理だ!!」 

エン「…。」 

マイト「お前がヒーローに憧れる理由は、“周りにちやほやされたい”からだろ!」 

エン「!!」 

図星だった。 

今まで自らの夢を“皆のため”と言い聞かせることで、存在意義すら感じることのできない自分をなんとか肯定してきたことは確かだった…。 

自分の能力を活かしてヒーローになることができれば、きっといじめられることもバカにされることも無くなる…。そう思っていた。…結局は自分のためだったのだ。 

エンはその事実を情けなく思いつも、手に取るように見透かしていた親友の言葉に再び耳を傾けた。 

マイト「いいか、ヒーローってのはな、ただ格好付けて敵と戦い賞賛を得、他人にもてはやされるヤツのことじゃない!!本当のヒーローってのはな…ヒーローってのは!!」 

「たとえそれが無謀だとしても、”責任”を果たそうと必死に戦うヤツのことなんだ!」 

マイト「だからヒーローは称賛を浴びる!・・だからこそみんなに愛される!・・それが、本当のヒーローなんだ!」 

エン「マイト…。」 

マイト「俺は決してヒーローになりたいとは思わない…それでも…行かないと…こうなったのは俺の…責任だから…!」 

エン「マイト…。」 

病室の床を這いずりながら、部屋の扉に近づくマイトは、とうとうエンを追い越した。 

ズズ…ズズ… 

少しずつ進むマイトを背に、エンはうつむいていた…。 

そして突然拳を握ると…  

「マイト!!!」 

その名を叫ぶと、マイトを制止した!  

エン「マイトごめん、僕、間違ってたよ…これは…」 

「僕 の 責 任 だ !」 

マイト「…八神!」 

エン「マイト、僕、行ってくる!」 

マイト「八神…。」 

エン「僕に、あの霊が止められるか分からない。分からないけど・・・。行くべきはマイトじゃない・・」 

「僕だ。」 

エン「だから…行ってくる!」 

そう言うと、エンは素早く身を翻し駆けだした! 

マイト「八神…よく言った…。」 

遠のいていくエンの背中を見つめながらそう呟くと、マイトは再び意識を失った。 

 ◆ 

エンは、がむしゃらに、ひたすらに走っていた。 

そして、彼がたどり着いたのは八雲神社だった…。 

エンは勢いよく社の扉を開くと、大きな声でこう叫んだ! 

エン「ばっちゃ!僕に…。」 

  「僕にアビラを教えてよ!!!」 

猶予は2日…。 

果たして彼に、悪霊による大虐殺を止めることができるのだろうか…。 

こうして、運命の歯車は大きな音を立て回り始めたのだった。 

つづく!!