前回のおさらい
入ると人が消失してしまうというトンネルの噂を検証すべく、深夜、山梨県道志村にあるそれへと訪れたナイトメアバスターズ、そして村長と役人。更にバスターズには内緒でエンも付いてきていた。仕方なくエンも加え噂の検証を試みようとすると、なんとトンネルに入った村長が行方をくらましてしまうのだった!
トンネルの噂は本当だった。そしてあろうことか姿を消してしまったのは村長だった!
暫くしてトンネルの入り口に戻って来たバンはハヤトに尋ねる。
「ハヤト、村長は生きてるのか!?」
「エンが話した女の子と同じように千里眼では見えない……。だが大丈夫だ、存在は確認できる……」
「そうか……もしかすると村長達は、同じ空間の別の次元に居るのかもしれないな……」
「よし、ハヤト!もう一度だ!」
「おおっ!」
そう言うと今度こそ、バスターズ達がトンネルでの検証を試みるのだった。
今度はハヤトがエンと役人のいる側から、そして、バンが反対側の入り口からトンネルの中央を目指して歩き出した。
エンは役人と共に真っ暗なトンネルの中を見つめながら、固唾を飲んで二人の様子を見守った。そして暫くすると反対側からバンがやって来た。エンは間髪いれずにバンに訪ねる。
「バンさん! ハヤトさんは!?」
「すれ違っていない……!」
「!!」
バンは直ぐ様ハヤトに無線を入れたが応答がない! 今度はハヤトが消えてしまった!
「くそっハヤト! 今行くからな!!」
そう言うと、今度はバンがハヤトたちの後を追うべくエンにある指示を出した
「エン、恐らくこのトンネルはこちら側から向かった者が消えるらしい……」
「そう……みたいですね……」
「そして恐らく内部に行けばこのトンネル真相を掴んで事件を解決できるだろう……。今度は俺がハヤトの後を追う! お前には万が一俺たちが戻って来なかった時、この事実を八雲に伝えて欲しいんだ……」
「わ、分かりました! と言う事は今度は僕が反対側からこっちに来る役ですね?」
「ああ……頼めるか……?」
「もちろんです!」
「……ありがとう! お前が来てくれて良かった」
こうしてエンはたった一人、暗いトンネルの中を駆け抜け反対側へと向かって行った……。そして、反対側へとたどり着くと噂通りにトンネルの壁面に手を添えて、漆黒の闇へと踏み出して行くのだった……。
ザッ……ザッ……
纏った妖力増強陣羽織の効力で草履に変化した足元から乾いた音を立てながら、エンは一歩ずつ歩みを進めて行く……。辺りには自分の足音のみが木霊し、恐ろしい雰囲気が増していく……。
そしてどれくらい歩いただろう……。どういう訳か一向に出口に近付かない。
「(おかしいな……流石にもうすぐトンネルを出てもいい頃なんだけど)」
言い知れぬ不安がエンの頭を過ったその時だった! 突然エンの視界が開け、目の前にとんでもない光景が飛び込んできた!
「み……みんな!」
そこには失踪していたスズネや京介、そしてハヤトや村長、他にもトンネルで噂を確かめようとしたのであろう幾人かの人間がいたのだった!
「あ!エン! お前もやったのか!」
「はい、バンさんに頼まれて……。でもおかしいな……今度はバンさんが消える筈だったのに……」
「いやエン……どうやらこのトンネル意思を持っている……。このトンネル自体が間もなく巨大な魔物になろうとしているようだ!」
「!?」
バンの予測とは裏腹に、消える人間にパターンなどなかった……。今までトンネルに足を踏み入れた人間を無作為に取り込んでいたのだ! そして先ほどの外でのやり取りをあざ笑うかの如く、今度はエンを取り込んだという訳だった……。
この空間は辺り一面が白く明るく、視界は良好だった。しかし足元からは赤黒い血液が染み出し幾人かの骸骨も転がり、おぞましい光景が広がっていた……。更にそこには多くの小型の魔物がひしめき合っていた。恐らく今までこうしてトンネルに訪れる者を体内の別次元に引きずり込み、小型の魔物に襲わせる事でその人間をとり殺してきたのだろう。そしてそれを新たな下僕とする事を繰り返しながら自らが巨大な魔物として覚醒するその時を虎視眈々と狙っていたのだろう……。その事実を表すかの様に小型の魔物達は、そこに囚われているスズネやキョウスケ達に何度も何度も襲い掛かっていた!
「いや! やめて! 近寄らないで!」
「くっ……! 私の呪符ももうそこを付きそうです……」
京介はスズネの召使いであると同時に土御門の名を継ぐ陰陽師でもある。ハヤトがここへ来るまでの間、必死にこの魔物達からスズネを守り続けていたのだ。しかし魔物の動きを止めるための呪符は残り僅か……そして体力も底を尽きかけていた……。
村長は「私が間違っていた……助けてください……助けて!」などと、取り乱しながら命乞いをしていた。
ハヤトはそんな彼らを救う為、セルガイアの神器を振ってひたすら亡者たちに斬りかかっていた!
「くそっ! キリが無い!」
「ハヤトさん!……皆さん!……今助たすけます‼」
『開眼っ!』
こうしてエンもセルガイアを開眼させると、ハヤトと共に小型の魔物の群れに立ち向かっていった!
「はっ! はっつ!」
スズネ達を守るようにハヤトとエンは互いを背にし、次々に湧き上がる魔物の群れを斬りつけていった。
「ダメだ……ハヤトさん! この魔物達どんどん湧いてきます!」
「エン……どうやらこのトンネルはは幾度となく人間を飲み込み、魔物に変わる準備をしていたようだ。封印されて治まっていた活動が、何者かの手でトンネルの入り口を破壊されたことで再開されたんだ!」
「そういう事だったんですね」
「だたトンネル自体はまだ魔物じゃない! 何とかここから抜け出してこのトンネルの邪念を払う事ができれば、巨大な魔物となって街中を暴れるのを未然に防げるかもしれない!」
「それなら早くここから抜け出しましょう!」
「ああ、俺もそれを考えた……。けどな、いくら走ってもまたこの場所に戻って来るんだよ!」
「‼⁉」
ハヤトの言葉が事実か確かめようと、エンも同じように走り出した! 亡者を斬り付け、薙ぎ払い、エンはハヤト達から遠ざかって行った! ところが……暫く走るとエンの目の前に再びハヤト達の姿が現れたではないか!
「ほ……本当だ……」
「言ったろ。……どうやらこの空間、出口が無いらしい……」
「何ですって⁉」
その事実を受け入れられずエンは再び走り出す!
「(そんなウソでしょ⁉ ウソだよね⁉)」
しかし何度やっても、やはり目の前にハヤト達が現れる。
「そんな! 僕たちひよっとして、一生ここから出られないんですか⁉」
その言葉に一同は絶望を覚えた。ハヤトはそれを感付いていたのだが、悟られ恐怖させまいとその場の誰にも告げていなかった……。しかし、エンがとうとう口走ってしまった。
「バカ野郎……。思ったこと直ぐに何でも言っていい訳じゃないんだぞ……」
「ご、ごめんなさい! つい……」
「みんな大丈夫だ! きっと抜け出す方法がある!」
「そ、そうですね! ハヤトさん! 皆さん! 必ず僕が出口を見つけて来ます!」
「……」
エンは再び走り出すが、やはり何度試しても結果は変わらない……
「(くそっ! 何か方法はないのか……⁉)」
エンは知恵の限りを尽くして考えた……。すると、今朝の陰陽庵でのバンとのやり取りを思い出し、エンの脳裏にある言葉が蘇った……。
『押してもダメなら引いてみろとか言うだろ?……』
「(そうか……。押してもダメなら引いて見ろか)よし、これならどうだ!」
そう言うと、エンは突然後ろ向きに走り出した!
「エン! ……あいつ馬鹿か⁉ 何やってる⁉」
タッタッタ!
ある種滑稽な走り方でエンは進んで行った! すると……
ズッテーン!
「イテテテ……」
鈍い音を立てエンは尻餅をついてしまった。
「ったく何やってんだこんな時に!」
そんなエンの姿を見て、またもや頭を抱えるハヤト。
「ダメかぁ……一体どうすれば……」
しかしエンは諦めなかった。ハヤトに言われた「必ずここから出る方法がある!」という言葉を信じ、もう一度深く考えてみた……
「(う~ん押してもダメなら引いて見ろ……引いてもダメなら……別の方向だっ!)」
するとエンは自らのセルガイアの能力、❝跳躍❞の力で天高く飛び上がった! その姿を見たハヤトが思わず呟く。
「(⁉……確かにそれは試してない!)」
ぐんぐんと上空に舞い上がるエン。ハヤト達がみるみる小さくなっていく……。
すると次の瞬間エンは驚いた! 突如エンの目の前に夜の闇が広がった。何とエンは外に出ることに成功したのだった!
「や、やった‼」
着地するエン。どうやらそこは、旧トンネルの更に上部の林の中のようだった……。
「(やった! やったよハヤトさん!)」
またしてもエンの突拍子もない行動が功を奏したのである! そして、これはエンのセルガイアの能力があったからこそ成せた技! エンは高揚感に包まれた。
しかし、まだ事が解決した訳ではない。「皆をあの空間から救い出さなければ!」そう思ったエンは急いで林の中を駆け下り、バンの元へ助けを求めに向かうのだった!
◆旧トンネル・入り口
取り残されたバンと役人の二人はうろたえていた。
「くそ……もう俺たちしか残ってない」
役人は生唾を飲みながらバンに問う。
「……どうします? 我々もやりますか……?」
「いや、アンタを危険な目に合わせるわけにはいかない……。ハヤト達を信じて待つか……(あるいは八雲を呼ぶかだな……)」
その時だった!
「おーーーい! バンさーーーん!」
「ん⁉ あの声は! エンか!」
エンが林から駆け下りてきた!
「エン! 良かった無事か⁉」
「はい! 僕はは大丈夫です! ……だけど他のみんなが!」
「⁉」
エンはトンネル内部での出来事を全てバンに語った。しかし残念ながら、バンにもトンネル内に残された者達を連れ戻す策は思いつかなかった……。
「そんな! じゃぁみんなもう二度とトンネルから出られないんですか⁉」
「いや、お前は出られたんだ。ならエン、ひとまずお前が出てきた場所まで行ってみよう! 皆を引き上げる方法があるかもしれない。案内してくれ!」
「はい!」
エンはバンと役人を引き連れ、もう一度トンネルから帰還した林の中へと戻って行った……。
◆旧トンネル上部
「バンさんここです……!」
「こ、これは⁉」
そこでバンはある物を発見した。それは、苔むしボロボロになって横たわる墓石のような物だった。
「おい……これが何だか分るか?」
バンはに役人に尋ねた。
「これは……! 恐らくかつてこのトンネルの工事に携わり亡くなった方の慰霊碑……だと思います」
「成る程な……そういう事か」
「え⁉ バンさん何か分かったんですか⁉」
「あぁエン。今回の事件……案外簡単に片付くかもしれないぞ?」
「えっ?」
するとバンは役人に対し、事情を話した上で村人達を集めるよう指示しを出した。
◆数時間後
ザワザワ……
普段人気のないこの場所に、多くの人間が集まっていた。役人の呼びかけは予想以上の人数を集めていた。
「ちょっとバンさんどういう事なんです? さっきから僕にこの辺の草むしりさせたり、一体何をしようと……」
「まあ見てなって!」
そう言うとバンは、集まった村人に語りだした。
「皆さんお集まりいただき感謝します! さて、皆さんこの慰霊碑をご存知ですか! これはこのトンネルを作る際に亡くなられた多くの方々を供養するためのものです!」
ザワザワ……
村人は一斉にざわつき始めた……。そしてその中から一人の老婆が慰霊碑に歩み寄って来たのである。
「ええ……存じておりますとも。建てられた場所がどこにあるのか忘れてしまって久方……こんな所に……それもこんなにボロボロになっておったのか……」
するとそれを皮切りに村人達は語りだした。
「私も祖父からその慰霊碑の事を聞いて存じております。しかし、今ではその場所を知る者は誰もおらず、忘れ去られたままどこかで朽ち果てている……。誰かが見つけて供養しないと、村に災いが起こると……」
「自分も、その話聞いたことがあります!」
「僕も!」
「あたしも!」
そして再び老婆が口を開いた。
「役人から聞いたが、最近の失踪事件はこの慰霊碑が原因なんじゃな……?」
「はい。そして今も行方不明になった人間が、このトンネルの呪縛に囚われ抜け出せずにいるのです……」
ザワザワ……
「信じられないと言う方は帰っていただいて結構。ですがこのトンネルで失踪した村長さん達を……そしてこの場に眠る魂を……どうか、どうか、我々と共に救って頂けませんか!」
「救うって……一体どうすれば……」
「……こんな夜中に集まっていただいてこんな事を申し上げるのはいささか気が引けるのですが……今日は皆でこの一角を……大掃除して頂きたい!」
「⁉ バンさん掃除って‼ そんな事で解決できるんですか⁉ しかも皆さんやってくれるかどうか……」
「……まあ見てなって……」
するとエンの心配をよそに、村人たちは団結し声を上げた。
「オーーーーっつ!」
そして、暗い中懐中電灯の明かりを頼りに必死に掃除を始めたのだった……。
その光景を見て、エンは驚いた。
「どうして皆さんこんな現実離れしたことを素直に信じてくれるんです⁉ テレビ局での事件の時とは大違いじゃないですか‼」
「ああ……昔の人は信心深い人も多いからな……こういう時話が早くて助かるよ。それに、信じていない奴はそもそもこの場所には来ないだろう。だからこうして動いてくれているんだ」
「そうですか……。分かりました! 僕もまた草むしり頑張ります!」
「よ~し! 俺もだ!」
こうしてそこにいる全員が暗闇の中懸命に辺りの掃除を行った。
「エン……。今日みたいにこうして信じてくれる人も沢山いるんだ。だからこそ、ハヤトを救ってこの出来事をしっかり伝えよう!」
「はい! そして、多くの人の力を借りられるようなナイトメアバスターズを目指しましょう!」
「そうだな‼」
先日のテレビ局での件といい、エンはバンに投げかけられる言葉を嬉しく思っていた。一向にハヤトに認めてもらえない事は残念だったが、エンに対するバンの接し方は『自分もナイトメアバスターズの一員として迎えられている』……何となくそんな気にさせてくれるものだった。
……
…………
………………
数刻が立ち、辺りは見違うほどに綺麗になった。村人達の手助けが無ければここまで手早く事を済ませることはできなかっただろう……。一同は慰霊碑に線香を立てお供え物を置くと、全員で手を合わせた……。すると……
「おーーーーーい」
トンネルの方から何者かの声がした。
「あ! ハヤトさん‼ みなさん‼」
バンの思惑通り、これにて今回の事件は解決したのであった。
◆新道坂トンネル入り口
「良かった! みんな無事で……!」
エンは救い出すことに成功したスズネに語り掛けていた。
「あの……本当にありがとうございました! どこのどなたかは存じませんがこのご恩、一生忘れません」
スズネはエンの手を取り感謝の言葉を伝えた。
「いや、気にしないでください! えへへ……」
そして照れながら返答するエンに対し、スズネの付き人の京介も礼を伝えた。
「本当にありがとうございました。……ではお嬢様……参りましょう」
「はい……」
こうして、スズネと京介は何度もお辞儀をしながらその場を後にした。
そして村長は「私も……考えを改めます。これからは村人全員で、この慰霊碑を守って行こうと思います」。そう言い残し、役人と共に帰って行った。
◆少し経ち……
「おいハヤト! 今回もエンのおかげだぞ⁉ こいつの能力が無かったら今頃どーなってたか!」
「……」
「ホント素直じゃないなぁ~。たまにはコイツに感謝してもいいんじゃないか?」
「……」
「あ~全く……。ところでハヤト、今回の件多くの人間に知られたが……やっぱり記憶……消すのか?」
「…いや、この事を忘れさせたら慰霊碑の事もまた忘れ去られることになる。未来に同じことを繰り返さないためにも今回はやめておこう」
「ああ。それがいいだろうな……」
「珍しいですね! ハヤトさんがこんな事言うなんて!」
「あ~うるさいうるさい! いいから俺らも帰るぞ!」
「はい!」
バンとエンは、今宵のハヤトの発言に少しばかり未来への希望を感じ取った。いつかきっと白日の下で堂々と魔物と戦えるそんな日が来る……。バンはそう感じていた。こうして今回の事件は、清々しい幕引きを迎えたのだった。その後バスターズの車に乗り込むエンはある事に気付く……
「しまったぁぁぁあーー! 夜野さんの前でこの服脱いでれば……僕の正体明かせたのにぃいいい‼‼」
そしてそんな彼らの姿を見送るように、またしてもあの❝赤い傷の男❞がほくそ笑みながら見つめているのだった……。