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新世紀陰陽伝セルガイア

第十話~異次元の穴~

前回のおさらい


 壺の呪いを解くために、その呪いにかかった煎餅屋の後継ぎである元太の悩みを解消しようと奮闘するエン。彼は元太に昔の味を思い出してもらおうと、その味に似た“煎餅”を元太に食べさせた。だがそれは、ナイトメアバスターズによって❝記憶を消す呪い❞が掛けられた煎餅だった。
ところがその煎餅の美味しさが呪いの効果に打ち勝ち、元太は記憶の全消去を免れたのであった。事ある毎にトラブルを引き寄せるエンだが、奇しくも毎回事件を解決する……。バンにはそれが魔物を駆逐する為の❝未来の力❞になると思えていた。


第十話~異次元の穴~


◆山梨県・旧道坂トンネルにて


 この日、静まりかえった夜の山にけたたましい爆音が鳴り響いた……。ある男がコンクリートによって封鎖されたトンネルの入り口を、爆薬を用いて破壊したのである。


「ふふっ……これでいい……」


 事を終えた男はトンネルに背を向けると、ニヤリと口の端を傾けながらその場を後にした。その男の首筋にはグルリと一周❝赤い傷❞があった……。


◆山梨県 道志道 某所


ブロロロロロ……


 その日スズネは車に揺られながらある場所に向かっていた……。ゴールデンウィークの休暇を利用し、家の使いで親戚への挨拶に出かけていたのである。スズネは専属の運転手に話しかけた


「京介さん……まだ着かないのでしょうか……?」

「おかしいですね……そろそろの筈なのですが……」

 運転手の名は❝土御門京介❞(つちみかどきょうすけ)。スズネの召し使いである。まだ20代という若さだが能力を買われ、スズネの住む渡良瀬ノ宮に勤めている。そしてこの日も令嬢であるスズネをエスコートするため、ドライバーとして現地へ向かっていた……。


 ところがどうした事だろう、カーナビの指示通りに現地に向かっているのだが一向に辿り着かない。段々と周りの景色も夜の闇に覆われ初め、二人には若干の焦りが見え始めていた……。


「……そろそろ着いてもいい頃合いの筈ですがおかしいですね……。しかしお婆様達……正直過保護にも程がある気がします……。今日だってわざわざ京介さんに車を出して頂かなくてもお使いは一人で……」

「お嬢様。それはいけません。」

「どうしてなんです⁉ 私もう中学2年生なのですよ! そろそろお使いの一つや二つ、ひとりで行けます!」

「……いけません。あなたは夜野家にとって大切な御人……。私めが必ずお護り致します……」

「……護る護るって……一体何からなのですか……」

「あらゆる事からでございます……」

 スズネは由緒正しき一族の娘である。その身が丁重に扱われるのは至極当然の事。普段は学校の送り迎えも召し使いである京介が務めていた……。将来の安定も約束されその身を丁重に扱われる。誰もが羨むであろうその家柄だが、近頃スズネいよいよ少し不満を抱き始めていた。あらゆる行動制限され、自らの意志でその❝生き方❞を決めることもできない人生……。スズネはまるで籠の中の鳥のような気持ちだった……。

 そんなスズネが京介に愚痴をこぼしている内に、ふと❝ある事❞に気が付いた……。


「あの……京介さん……」

「はい、どうしました……?」

「このトンネル……先ほども通った気がするのですが……」

「やはり……お気付きになられましたか……」


 おかしなことに、二人の乗る車は何度も何度も同じトンネルを通過しているようだった。京介は暫く前からその事に気が付いていたのだが、「田舎道で似たような景色が多いのだ」と自分に言い聞かせ気を落ち着かせていた。しかしスズネにその事を指摘され京介は確信した。やはり何度も同じトンネルを通っている……。そして『道坂』と書かれたトンネル名も同じである。しかし目的地への道のりはこれで正しい筈だった。疑問に思いながらも京介は更に車を走らせ再びトンネルを抜け出した…。

 ところがそれから間もなくの事だった。


「京介さん!」

「⁉」


キキーーーッツ!


 スズネの声に慌ててブレーキを踏む京介! そして、二人は目の前の光景に驚愕した! 何度も通り過ぎたであろうあの道坂トンネルが、またしてもその口を大きく開けながら現れたのである!


「京介さん……やはりこのトンネル、先ほども通っております」

「ええ……信じ難いですが……どうやらそのようですね……」

「どういう事なのでしょう……」

「……申し訳ございません。私恐らく道を間違えたのでしょう。すぐに引き返しますので……」


 スズネを怖がらせぬように平静を装う京介であったが、この状況がおかしいことは明らかだった。しかし夜の闇は更に深くなり到着予定時刻も遥かに過ぎている……。一刻も早くスズネを現地に送り届けなければならない。京介は召使いとして臆することなく辺りを見渡すと、別の道がないか探ることにした。
 ……すると程なくして、トンネルの左側に別の道が続いているのを発見した。


「お嬢様……どうやら私の不手際でございました。申し訳ございませんこちらにも道がございました……」

「さ、さようにございますね……」


 京介は再び車を走らせると、トンネルの脇道から続く坂を登ってトンネルの上へと続く道に入って行った。


「やはり……この道には見覚えがありませんね。ここを行けば大丈夫でしょう」


 道に見覚えがないことに安心感を覚えるのは、通常ならばおかしな事だろう。しかしこの状況だ無理もない。繰り返し通るトンネルからようやく脱し、二人はようやく安堵した……。

 それから暫くすると二人の目の前に再びトンネルが現れた。だがそれは先ほど通ったトンネルとは明らかに違うものだった。外壁は苔むし、天井からは染み出た水分がしたたり落ちている。電灯も付いてはいない……。目に映る全てが、かなり昔に作られたトンネルだということを物語っていた。そのトンネルのあまりの不気味さに、思わずアクセルを緩める京介……。車はゆっくりとトンネルに近づいて行き、ライトの明かりだけが行く先を照らし出している……。だが、出口が見えないそれに吸い込まれてしまいそうな感覚すらあった。


「京介さん……本当にこの道でよろしいのですか……?」

「大丈夫です……ちゃんと目的地の方角に向かっておりますので」


 今まで平静を保っていた京介も、この光景には流石に不安を覚えていた。だがカーナビの指し示す方角には間違いなく目的地がある。京介は再びアクセルを踏み込むと、ヘッドライトの明かりだけを頼りに漆黒の闇へと入って行くのだった……。


◆数日後・陰陽庵にて


「大変でーーーーす‼‼」


 この日陰陽庵を訪れたエンは慌てていた。とんでもない事実をいち早くハヤトとバンに聞いて欲しいという思いで、ハヤトへのわだかまりの感情もそっちのけで二人に叫んだ。

「エン⁉」

「どうした⁉」


「夜野さんが! 夜野さんが行方不明なんです!」


 ゴールデンウィークが終わり久しぶりに登校したエンは、担任からスズネが失踪したという事を聞かされ驚愕した。理由が何であるかは分からなかったが妙な胸騒ぎがした。そこでナイトメアバスターズを頼れば解決策が見つかるかと思い店に駆け込んだのだった。
 エンは二人に詳しく内容を話して聞かせた……。


「……なるほどな……」

 ハヤトが答えた。

「あの……ハヤトさん。確か❝千里眼❞が使えるんですよね?」

「お前! なんでそんな事知ってんだよ!」

「だって! ナイバスの大ファンですから!」

「……そうだったな……」


❝千里眼(せんりがん)❞。それは、その場に居ながらにして千里先をも見通せると言われる超能力だ。ハヤトはもともとセルガイアの能力とは別に、この千里眼の力が使える人物だった。エンはその事実を知っていたからこそハヤトを頼りたいと思ったのだ。それに対して彼はこう返答した。


「で、それはその子の命に関わるのか……?」


「いや……それはまだ分かりません……。でも、夜野さんは由緒正しい家で暮らしてて専属の付き人さんまでいるくらいなのに、その人と一緒に消息不明になっちゃったみたいなんですよ!」

「なる程な……。で、事件性を感じると」

「はい……」

「分かった。なら居場所を調べてみよう」

「本当ですか⁉️ ありがとうございます!」

「ただし居場所が分かっても俺たちは探しに行けないぞ」

「え⁉️ どうしてですか⁉️ 人の命に関わるかもしれないんですよ⁉️」

 エンはハヤトの意外な言葉にショックを受けた。憧れのヒーローがまさか人助けを拒否するとは思っていなかったからだ。しかし……

「悪いが人探しは専門外だ。居場所をを突き止めた後はプロである警察を頼った方が無難だろう。それに霊現象や魔物に関する事件がいつ飛び込んでくるか分からない。それは”俺たち”じゃなきゃ解決できない事なんだ、そっちを優先させてくれ……」

 由緒正しい寺の跡取りとして生まれたハヤトは、昔から人の生き死にに敏感だった。そんなハヤトは、人を取り殺しその魂を喰らうだけの存在である魔物を憎んでいた……。それにエンが現れる以前は自分以外に魔物を倒せる者など存在していなかったのだ。彼は『退魔のプロ』として常に魔物に関する事件を優先させる事に徹底してきたのだった。そしてそんなハヤトの言葉にバンも被せてきた。

「ま、『押してもだめなら引いてみろ』とか『急がば回れ』って言うだろ? ハヤトの言うとおり、今回は俺達に行かせようと躍起(やっき)になるより、一刻も早く警察を頼った方が良いだろうな」

「そ……そうですね……」


 二人の言葉にエンは大いに納得した。そしてハヤトは千里眼を試みることにしたのだった。
 
 エンはハヤトに指示を受けると紙にスズネの名を書いた。するとハヤトはテーブルに置いてあった水晶玉を握りしめた後に片手でその紙に触れた。そして意識を集中させていった……。眉間にシワを寄せながら、スズネの居場所を突き止めようと更に集中力を高めていくハヤト。その間バンはエンに対して小声で呟いた。

「いいか、居場所が分かったら警察への連絡は必ず手袋をして、公衆電話から匿名で行うんだ」

「え? どうしてです?」

「居場所が明確に分かるんだ。仮に人が絡む事件だったら関係者だと疑われるぞ? ほれ、俺が作ったボイスチェンジャー貸しとくから」

「そ、そうですね! 分かりました」

 エンは「流石はバスターズ」と、改めて感銘を受けていた……。

 ……それから暫く経った。しかしおかしな事にハヤトの千里眼が一向に終わらない。違和感を感じたバンはハヤトに訪ねてみた。

「おいどうした? やけに時間かかってるな」

「おかしい……」

「ハヤトさん? 見つかったんですか?」

「いや……確かに居場所は特定できるんだが……」

「何です?」

「何故か姿が見えないんだ……」

「⁉」

 その時だった!

ウィーンウィーン


 バンの携帯が鳴った! 強い邪気の反応である。


「ハヤト! 邪気だ!」

「ほら見ろエン! 最近多いんだよ……で場所は?」

「山梨県……道志村近辺のトンネルだ」

 するとその言葉にハヤトは驚いた! そこが水晶の指し示す場所と一致していたからだ! エンは二人に問いかける。

「これって……バスターズの出番ですよね……!」


 エンの言う通り。これは警察が対処できる案件ではないだろう。今こそまさにナイトメアバスターズ出動の時なのだ。


「よし、行くぞバン!」

「あいよ!」

「あ、待ってください! 僕も行きます!」

「ダメだ! お前が来るとロクな事にならないからな!」

「……そうかもしれませんが……。夜野さんは僕のクラスメイトなんです! 行って助けたいんです!」

 その口ぶりにバンがある事を察した。

「はは~ん、さてはお前、その子の事好きなんだな?」

「そ、そそそ、そんな事ないです!」

「ははっ、分かりやすいな」

 しかしハヤトは首を縦には振らなかった。

「でもダメだ。お前は大人しく待ってろ」

「そんなぁ……」

「いいじゃないかハヤト……コイツ何だかんだ言って結局何度も事件を解決してるんだから」

「いいや! 俺たちだけで十分だ!」

「は~ぁ。ホントに頑固だなぁ……」

「とにかくエン! お前はここに居ろ! 俺たちが必ず助けて戻って来るから!」

「……分かりました…お願いします……」


 こうして不貞腐れるエンに見送られ、ナイトメアバスターズは邪気が渦巻く現場へと向かうのだった……。


◆現地・村役場

 バスターズの二人は現地の村役場に訪れていた。と言うのも、バンの携帯で確認されていた邪気の発生源である❝道坂トンネル❞は、おかしなことにこの時一切邪気を放っていなかった。おそらく❝日中だから❞であろうと踏んだ二人は、夜の帳が下りる時刻まで現地で聞き込み調査を行い、主にバンが役人と会話していた。

「確かに多いんですよね~。最近幽霊の出るトンネルがあるっていう噂を聞きつけて道坂トンネルに来られる方……」

「そうでしたか」

「まぁそのお蔭で最近村が繁盛してるから、私は大歓迎なんですけどね……」

「それは……。よかったですね」

「ただねぇ……その付近で行方不明になる人が後を絶たなくて……」

「やはりそういう事件が起きてるんだな……」

「はい……。最近あまりにも多いんで私はそれ、本当に❝幽霊❞の仕業じゃないかって思ってるんですけどね……」

 それを聞くとハヤトが割って入った。

「……間違いないな。そして幽霊を疑っていないなら話が早い」

「え……?」

「俺たちはそれを退治しに来たんだ」

「何ですって⁉」

「俺たちは除霊屋だ。この事件、陰で大きな闇が蠢いている……」

「そ、そうなんですか⁉」


 そんな会話をしていると、奥から村長が現れた。


「あ、村長」

「どうした? 何かあったのか?」

「ああ。この人達、行方不明になった方を捜して聞き込みにいらしたんです」

「ほう、そうでしたか……。それでしたら今警察が懸命に捜索を行っております。お気持ちはありがたいですがあの辺りは険しい山道で危険です。どうかこの場は、お引き取りください……」

 そんな村長にハヤトが切り返した。

「いや、そういう訳にはいかない……。この事件、決して警察では解決できないだろうからな」

「⁉ ……何を言っている?」

「実はこの人達、除霊屋らしいんです」

「は? 除霊? ……冗談でしょう?」

 バンも割って入る。

「信じてもらえなくても仕方ない……。ですがこの失踪事件、裏で何らかの超常現象が起きていることは間違いありませんよ」

「⁉」


村長は驚きを隠せなかった。突然やって来た人物に、あまりにも現実離れしたことを語られたのだ無理もない。しかし役人は違った……


「村長、正直この人達の話を聞いて、私は驚きませんでした……」

「何⁉」

「この件あまりにも不可解な事が多すぎて、私は以前から思っていたんです。……人間には計り知れない何かが……その……あるんじゃないかって……」

「何をバカな事を」

「しかしあまりにおかしいと思いませんか⁉ いなくなった人全員の痕跡が何も発見されていないんですよ?」

「そ、そりゃ周りには深い森も広がっているからな……。捜索困難で見つかんのだろう」

「ですがその全員があの道坂トンネル付近で消息を絶っているんです! おかしいと思いいませんか? やっぱり……何かあるんですよ!」

 そんな役人に関心したハヤトが村長に話しかけた。

「コイツ飲み込みが早くていいな。とにかく村長……こういう意見もあるぐらいだ。きちんと真相を確かめる必要があるんじゃないか?」

「……」

 口をつぐんだ村長にバンも話しかける。

「村長……。何か知っている情報はないでしょうか?」

「そ……それは……」

「おや? ……何か知っているんですね……?」

「い、いやいや! とにかくこんな馬鹿げた話が広まっては困るからな……。よし! 私も貴方たちに同行させてもらおう」

「そ、村長!」

「私が直々に、そんな馬鹿げたことはないと証明してくれる!」


こうしてその晩、バスターズと村長、そして役人の四人は問題の道坂トンネルへと向かうのだった……。


◆深夜・道坂トンネル


「やっぱり、昼間とは様子がまるで違うな」


 静寂の中トンネルを見たハヤトが口を開く。確かに現場には不穏な空気が漂っていた……。


「よし……このトンネル通ってみるか……」


 バンは皆を乗せた車を走らせた。


ブロロロロ……


オレンジ色の光がチカチカと通り過ぎ、車は瞬く間の内にトンネルを抜け出した……。ところが予想とは裏腹におかしな事は何一つ起こらなかった。ハヤトが呟く……


「おかしい……確かに邪気を感じるんだが……」

「だから言ったではないか! そんな馬鹿な話はないと!」

「バン、もう一度トンネルを通ってくれ」

「了解だ」


 言われた通り再び元来た道を引き返すバン。しかし、やはり何も起きる事はなかった……。


「何故だ⁉ 探知機はしっかりこのトンネルを指示してるんだろ⁉」

「あぁ……間違いない……」

 そんなやり取りに、半信半疑の村長は声を荒立てた。

「何が探知機だ! 私はもう帰るぞ!」

 村長がそう言い放ったそんな時だった。


「おいハヤト、あれ……」

「ん?」


 二人はトンネル入り口脇に、別の道の存在を確認した。バンは思わず村長に語り掛ける。

「村長……あの道は?」

「あぁ。あれはこのトンネルの上にある❝旧道坂トンネル❞に通ずる道ですよ。しかし、今トンネルの入り口はコンクリートで封鎖されているんだ……そんな所に行く者なんていやしない」

 それを聞くとハヤトが答えた。

「なるほどな。やはり探知機は誤作動なんかしていない」

「そうだなハヤト。恐らく現場は❝この上❞だったんだ」

「⁉」


 バンは再び車を走らせると、トンネルの脇道を通って上えと登って行った。


◆旧道坂トンネル 


 真っ暗闇の中曲がりくねった道を通って行くと、いよいよ旧トンネルの入り口が見えてきた。……その時だった!


「な、何という事だ‼」


 村長は喫驚した!


「コンクリートが……崩れている!」

 ハヤトとバンも驚く。

「何だって⁉」

「一体誰が……」

「いや……心当たりはない」

「……。しかし間違いないな……。このコンクリートが崩れたからこそ❝何か❞の封印が解けた……。そして事件が起き始めたんだな……」

「そんな馬鹿な……」


 トンネルの入り口に差し掛かるとバンは車を止め、乗っていた四人は車から降りた。そしてハヤトとバンと村長は真相を確かめる為、トンネル内部へと向かい歩み始めた……。
 ところがだった。役人が付いて来ない。何かあったのかと振り返るとガタガタと足を振るわせ、彼はその場で凍り付いていた。彼にハヤトが尋ねる。

「……どうした?」

「す……すみません……。私、ここに来てある事を思い出したんです」

「ある事?」

「はい……。私は、このトンネルにまつわる恐ろしい噂話を知っています……」

「ほぉ? ……聞かせてくれ」

「分かりました……。これは曽祖父が、私の幼い頃に語ってくれた話です……」


 役人は語り始めた。この旧道坂トンネルは、開通工事で多くの死者が出た。だからこそ当然のように村に❝怖い話❞が広まった。それは『夜トンネルの出入り口に一人ずつ人間が立ち、明かりを持たずに壁を伝って歩いていく。するとその二人はトンネル内部ですれ違うことなく、出口に着く頃どちらか一人が姿を消してしまう』というものだった……。


「そんな噂を信じていなかった曽祖父は、友人と二人でそれを試してみたそうなんです……」

「……」

「するとその友人はその……噂通り消息不明になってしまったそうなんです……」

「‼……」

「そんな噂が後を絶たず……実際に行方不明になる人も数多くいた為このトンネルは封鎖されたのだと……」

 
 こうして役人が一通り話し終わると、村長がせきを切ったように話し出した。 


「バカ馬鹿しいっ! ここは新道の完成に伴って封鎖されただけの事! そんな話があってたまるか!」


 村長がそう言うと、どこからともなく何者かの声がした……。


「それなら、実際にやって確かめてみましょうよ!」

 それに対してハヤトが答える。

「同感だ。試してみよう……って! あぁぁぁああぁあああああああああっ‼‼ エンっ⁉ どうしてここに‼」


 突然割って入った声の主はエンだった。突然現れた少年に村長も驚く。


「何だこの子供は⁉」

「いや……こんな奴知りません……」

「⁉ 今名前を言っていたではないか‼」

 そこにバンが割って入る。

「ははっ! コイツは俺らの弟分。除霊屋の見習いですよ!」

「……バン……」

「そ……そうなのか……」

「ハヤトさんバンさん……ごめんなさい! やっぱり僕、夜野さんが心配で……」

「いやお前どうやってここまで……?」

「内緒でブルバイソンの荷台に乗って来ちゃいました……」

「はぁぁぁ……」


 ハヤトは深いため息をついた。そしてバンは対照的に笑い飛ばした。


「はっはっは! やっぱりお前面白いヤツだ! 登場のタイミングもバッチリだ!」

「そ……そうですか⁉」

「おお! この勢いでお前の言う通り、その噂検証してみようじゃないか!」

「はい! やってみましょう!」

「くそっ、仕方ない……。とにかくこの検証はかなり危険だ! 俺とバンでやる。エンはここで村長達を見ていてくれ……。」

「わ、分かりました…。」


そう言うと、ハヤトは一人トンネルの出口に向かい歩いて行った……。バンは万が一に備えて役人に車の鍵を渡すと、トンネルの入り口でスタンバイした。

 程なくして、バンのトランシーバーにハヤトからの連絡が入る。トンネルの反対側に着いたようだ。


「さて……行くか……」

 バンが呟く。

「バンさん……気を付けてくださいね……」

「ああ、大丈夫だ。俺たちを誰だと思ってる?」

「で、ですよね! だけど……気を付けて」

「おう……」


 そう言うとバンはハヤトにトランシーバーで合図を出した。そしていよいよトンネル入り口の壁に手を添えながら歩き出すのだった……。ところがその時だった!

「どけっ!」

「⁉」


 突然村長がバンの肩を引っ張った。


「私がやる……!」

「⁉」

 思わず役人が止めに入った。

「い、いけません村長!」

「バカ者! そんな話ウソに決まってる!」

 バンも村長を止めに入る。


「ダメだ危険すぎる!」

「うるさい! いいから私に任せておけ! 私が直々に確かめてやる」

「村長っ!」


 すると村長は全員の制止を無視し、スタスタと奥に向かって歩き始めてしまった!


 「ま、まずい!」


 バンは懐中電灯の明かりを頼りに、すかさず村長を追いかけた!


タッタッタッ!


 明かりのないトンネル内部に足音だけが木霊する……。その途中、反対側からやって来たハヤトは、自分の横を走り抜けるバンを目撃した。


「(やっぱり、噂はあくまで噂だったか)」


 トンネルの真相を確かめるためには別の方法を試すしかない……。そんな事を頭に浮かべながら、ハヤトはエン達が待つ出口へと到着した。


「あ! ハヤトさん!」

「ふぅ……どうやら噂は嘘のようだな。途中しっかりバンとすれ違ったぞ」

「えっ! 待ってください村長は⁉」

「ん? 何を言ってる?」

「そ、村長さんがバンさんより前に入って行った筈ですよ⁉」

「⁉ 何だって‼」


 すると突然トンネルの向こう側から大声がした!


「おーーーーい! 大変だーーーーっ! 村長がいない‼」


 どうやら噂は本当だった……。


つづく!!