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新世紀陰陽伝セルガイア

第三話~真紅のチカラ~

前回のおさらい

 漆塗りの木箱から取り出された陣羽織を着ると、その容姿を大きく変貌させたエン。霊力が高まり魔物の攻撃を受け止めることが可能となった。
 しかしその隙に取材クルーを救いに向かったハヤトが、魔物の攻撃を受け意識を失ってしまうのだった……‼


第三話~真紅のチカラ~


「ハヤトぉぉぉぉおおお!!!」

「ハヤトさーーーーーん!!!!」


 二人の叫び声は、既にハヤトの耳には届かなかった。


「このやろぉおおおおおっつ‼」

「バンさん‼」


 バンは怒りに身を任せ、眼前の魔物へと真っ向から立ち向かっていった!


グギャォオオオオオ


 しかし! 魔物は再びその巨大なかぎ爪を振りおろし、それはバンの体に命中してしまった……!


「ぐぁあっ‼」

「バンさーーーん‼‼」


 そしてバンもまた、ハヤトと同じく大きく投げ飛ばされてしまったのである! 更に魔物の眼差しは、とうとうエンへと向けられた!


グルルルル


「くそ……逃げろ……」


 唸り声を上げる魔物に対し、バンはかすれていく意識の中でエンに訴えかけていた……。ところが、エンはその場を動こうとしない……。


「……あいつ……何やってる……」


 どう考えてもこの状況では間違いなくその命を落としかねない少年……。しかしバンには既に、エンを助けに向かうだけの体力は残っていなかった。


グギャォオオオ!!


 魔物はエンに向かって雄叫びを上げる! 

 ……しかし、やはりエンは動こうとしない。それどころか、暗く影を落とした瞳の下で何かをボソボソト呟いているではないか……。


「……せいだ……僕の……せいだ……」

「……え?」


 そう、エンは自らを責めていたのだ。自分のせいで、マイトを、ナイトメアバスターズを危機に晒してしまった……。


「僕は……僕は……誰かの役に立ちたいんだ……‼ なのに……もういやだよ……こんなの……」


 そして、エンはとうとう大声で叫んだ!。


「ちくしょう……チクショォオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!」


 すると次の瞬間だった! 突然エンの体がふわりと宙に浮き、全身から眩い光を放ち始めたのだ!

 その光景にバンが思わず呟く。


「……何だっ!?」


ギャォオオオ!

 そのあまりの眩さに、目をくらませる魔物! そしてしばらくの後その閃光はエンの体へと収束してゆき、彼は再び地に足を付けた……。

 するとどうしたことだろう! 彼は右手に刀を、左手には篭手を携え、そして額にはまるで第三の眼のような深紅の宝玉を出現させているではないか! そしてその体は、ほのかに赤い光を放ってる!

 その光景を目の当たりにしたバンは、思わず叫んだ。


「あれは……まさか……! セルガイア‼⁉」


 そしてその姿にエン自身も驚愕した!


「!あれは、夢じゃなかったんだ‼」


 だがその言葉をかき消すように怯んでいた魔物の矛先はエンへと向けられ……とうとうそのかぎ爪が振り下ろされた!


ギャオォオオ!


 だが、その攻撃に対しエンは果敢に向かって行った! そして、エンはあの呪文を唱えた!


「アビラウンケン!! ソワカぁぁぁぁぁぁあああっつ!!!!!」


ズギューーーーーン!!!


 そう、エンはついに“真言派”を放つことに成功したのである!


グギャォオオオオ!!


 そしてそれは見事魔物へと命中し、その額をえぐり取りとった!! 

 ……魔物の周りには煙が立ちのぼる……。


「や……やったか!?」


 遠巻きに見ていたバンが思わず呟く……。しかし、そこはあのハヤトですら封印することしか出来なかった魔物である。これしきの事ではくたばる筈もなく、かすれていく煙の隙間から再びエンを睨み付けた。


グギャォオオオ!


 そして次の瞬間! 魔物は体表を覆う鱗を飛ばしてきたのだ!!


ズバババババッ!


 しかし! エンはそれを手にした刀で切り裂き、薙ぎ払い、かわし……身を翻しつつ沿道へと移動した。

 するとエンの眼前に猛スピードで走ってくる一台の車の影が飛び込んできた! どうやら先ほど逃げ遅れた記者たちの車のようである! エンをその目に捉えた記者達は思わず声を上げる。


「お……おい! 前に子供が……!」

「えぇっつ!?」


 ところが、何を思ったかエンはその車に向かって走り出したではないか! 驚いた記者達は思わず叫ぶ!


「うわぁああああっ!!」


 慌ててハンドルを切る記者であったが次の瞬間! エンはその車を足蹴にし、凄まじい跳躍力で宙へと舞った!

 その光景を見たバンが叫ぶ!


「あれは……‼ 跳躍白毫(ちょうやくびゃくごう)か!」


 驚く記者たちをしり目に、その体は沿道の桜を、ビルを飛び越していき……エンはとうとう鶴ケ丘八幡宮の鳥居の上へと降り立った!


ギャオオオオオ!


 そしてそのエンの姿を視認するため後方へと身を翻す魔物……。すると、えぐられた額からダラダラと溢れ出る血潮の合間に、巨大な月光を背にした“赤き少年”が佇んでいた。

 両者の瞳は互いを睨み付け……そしてしばらくの沈黙の後、魔物は宙を駆け!エンは鳥居を蹴り!対峙する二人はついに真っ向から飛び込んで行ったのである!
 そして!


ズバババババババ!!!!!


 エンは一刀両断、魔物の体を切り裂いたのである‼


ギャォォオオオオオオァァァアアァァァァ……


 灰塵と化していく魔物を背に、少年は再び地へと降り立った。そう……エンは魔物に打ち勝ったのである! そして彼は昼間とはまるで別人のような凛々しき姿で佇み、無言で空の彼方を見つめていた……。

 するとそこへ、「おーいっ!!!」という声と共に、足を引きずりながら肩にハヤトを抱えたバンが戻ってきた。


「おい! 凄いじゃないか! まさかお前が❝白毫使い(びゃくごうついかい)❞だったなんて……」


バンがそう言うと、エンはハッと我に返った。


「びゃく……ごう……? 僕の事……?」

「そうだ。まさかお前……自分のチカラを知らないのか……」

「……はい……と言うか、今まで夢だと思ってました……」

「そうか……でもよくやった。これは紛れもなく❝お前が❞やったんだ。お前は、責任を果たしたんだ」


 するとエンは微笑みながら「よかった……。でも僕……すこし疲れまし……た……」そう言ってバンの腕の中へと倒れていった……。

 そして戦いを終えた男たちの背後には、消えゆく魔物の粉塵と、美しき桜の花びらが舞っていた……。


◆翌朝

チュンチュン……

 何気ない日常を告げるかのような鳥のさえずりが辺りに響いている……。すると突然!


バサァッ!!


 その声をかき消すほどの勢いでエンは跳ね起きた! 辺りを見回すとそこは自分の家……布団の上であった……。


「えっ!? やっぱり……夢……だったの!?」


 昨日の出来事は確かに色濃く脳裏に刻まれている……。しかしどんなに目を擦ってみても、目覚めた場所は自分の家である。


「やっぱり…夢なんだ…」


 そうだと割り切りため息を着くと、エンは何気なくテレビのスイッチを押した。すると……そこから聞こえてきたリポーターの声にエンは驚いた!


『昨夜起きた鎌倉市での怪事件に関してですが、未だ首謀者は判明しておらず。巨大な怪物を撃退した少年についても、未だ足取りを掴めておりません――。』


「えっ⁉ 夢じゃない⁉」


 そう、モニターに映し出された光景は紛れもなくあの戦い。夢ではなかったのだ!


「やったぁぁああーーー!!!!」


 憧れの人物に本当に出会えたこと、そして自分の力で魔物を倒すことができたこと……。エンはその事実に心の底から喜んだ。これまでの人生の中で、これほど嬉しいと思ったことはなかった。あまりの嬉しさに部屋中を跳ね回って喜ぶエン。しかし再びテレビに視線を戻した瞬間、さらなる驚愕の事実が飛び込んできた。


「え? 9時半? やばい!遅刻だぁぁぁぁああああーー‼‼」


エンは食事もおろそかに、一目散に駆け出した!


◆学校


「ハァ……ハァ……」


 息も絶え絶えやっとの思いで学校にたどり着いたエンは強烈な勢いで教室の扉を開いた!


ガラガラガラ……バーン‼

ガヤ ガヤ ガヤ


「(間に合ったぁ……)」


 そこには、いつもと何ら変わりのない教室の光景が広がっていた……。ただ一つある事を除いて……。


「ねぇ……テレビ見た? 昨日のお祭り……凄かったんでしょ?」
「そう!俺現場にいてさ……最初は演出かと思ったんだけど……」

そう、皆あの出来事を噂していたのである。


「ところであの少年、いったい誰なんだろうね?」
「スゲーよな! あんな怪物倒しちゃうんだから!」
「いま警察が必死に探してるらしいよ。」
「うわぁ……気になるー!」
「あの少年って……この街のヒーローじゃん!」


 その言葉を聞いて、エンは浮き足だった!


「み……みんな! おはよーー‼」


「おうエン。また遅刻かよ…」


「そ、それよりみんな聞いて!」


「……なんだよ?」


「昨日のあれ……僕なんだ‼‼」

……
…………
………………


 盛大に事実を告げたエン。……ところがしばしの沈黙の後、教室中が笑いの渦に包まれた。


ハハハハハ‼


「あれのどこがお前なんだよ!」
「似ても似つかないだろ!」
「ははははあははは」


「ぇ……ぇぇええ⁉ でっ、でもあれは僕……」


 そう言いかけた時、エンはハヤトの言葉を思い出した。


『「それは妖力増強陣羽織(ようりきぞうきょうじんばおり)。着た者の持つ潜在霊力をわずかに高めてくれる代物だ。そのかわり代償として他人から別人として認識される……俺たちはそれを隠れ蓑として――」』


「あっ、あああああ‼」


「な……なんだよ急に!」


「そういうことかぁ……」


 そしてエンは一瞬肩を落とし落胆の色を見せた……。
 だが、誰からもヒーローとして認識されないこの状況を心から嘆いていたであろうかつての彼はもういなかった。マイトの言葉で❝ヒーローのあり方❞の認識を変えていたエン。彼は一呼吸つくと虚空を見上げて微笑んだ……。


 ――こうして彼の運命の歯車は回り出すのだった。
 そして『セルガイア』とは『白毫使い』とは果たして……‼


つづく!

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