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新世紀陰陽伝セルガイア

第三十四話~バスターズの過去~

前回のおさらい

 ハヤトの計らいで、アザミと再び良好な関係を取り戻したエン。そればかりかエンはその一件で、必殺技を使うこともできるようになった。ハヤトは日に日に強くなっていくエンに対して、「因縁の相手である御手洗の足取りが掴めた。その戦いに同行してくれないか?」と、要望を伝えるのだった……。


第三十四話~バスターズの過去~


 バスターズの因縁の相手である、御手洗(みたらい)の目撃情報があったとされる場所に向かう牛車型装甲車「ブルバイソン」の車中。エンはその後部座席にちょこんと座り、過ぎ行く外の景色を眺めながら現地に着くのを待っていた。

 運転はいつものようにバンが行い、助手席にはハヤトが座っている。アザミは後部座席横の窓ガラスにビターっと顔をつけて、楽しそうに外の景色を眺めている。

 これといった会話もないままエンジン音だけが響く中、エンは早く現地に着かないものかと、だんだんソワソワし始めた。

 初めて正式にバスターズへの同行が許されてワクワクしている半面、魔物を相手に戦ってきたこれまでとは打って変わって人を相手にすると考えると一抹の不安が頭をよぎり、だんだんと落ち着きがなくなってきた。

 ところでバスターズの二人が言うミタライとは一体どんな相手なのだろう……。よく考えてみたら、エンはその人物に対して知っていることがほとんど無い。

 現地にはまだ着かないようだし、これから戦いを挑む相手の事だ、二人から少し話を聞いておこう。そうすれば今感じている不安も少しは紛れるかもしれない。そう思ったエンは後部座席から身を乗り出し、ミタライに関する情報を聞き出すことにした。

「あの、お二人が話すそのミタライって人、一体どんな人なんですか?」

「おお、ちょうど今その話をしようと思っていたところだ」

 答えたのはバンだった。

「アイツとの因縁は、今からさかのぼること約20年前。俺たちが高校生の頃から始まったんだ……」

「そ、そんなに前から!」

 つい最近の出来事ではなかったことに驚くエンに対し神妙な面持ちをバックミラーに映しながら、バンはいよいよかつての出来事を話し始めた……。

 
 ◆


 とある高校の休み時間。

 生徒同士で会話する者、仮眠を取る者、読書する者など、皆思い思いの行動を取っている。

 そんな光景の中、一人だけ他の生徒とあまりにも掛け離れた行動を取っている者が一人いた。

 教室前方にあるコンセントに延長コードを突き刺して、後ろの方にある自分の机まで電源タップを延ばし、タコ足配線で見慣れぬ機械に電気を注いでいる――。そして、同じく電源に繋がれた「はんだごて」を器用に動かしながら、小さな基盤に次々とはんだ付けをしていく一人の男……。

 それが当時のバンだった。

 バンはこの頃から既に機械いじりが好きだった。僅かでも時間があれば、こんな風に電子工作をするのが日課であり趣味だった。

 あまりにも他の生徒と違う行動を取るバンを気味悪がる生徒がいるのも事実で、バンはそれを悲しく思うこともあった。でも、そんなことを遥かに凌駕するほどバンは機械いじりが好きだった。

 バン額から流れる汗もそのままに、今日も熱心に基盤をいじっていた。


 ふと、あまりに集中するあまり、バンは机から消しゴムを落としてしまった。

 使い込んで小さくなったそれはケースが無くむき出しで、角が取れて丸くなっていたため思いのほか遠くの方まで転がって行ってしまった。

「おっとっと」

 だが慌てることは無い。バンは不意に学ランのポケットから、ある機械を動かすリモコンを取り出すと、それについている赤いスイッチを押した。

 するとバンの学ランの襟の背中側から、三本爪の銀色の節のあるアームが出てきて、落ちた消しゴムめがけてグングン伸びて行く。

 バンが開発した「伸縮自在マジックハンド」だ。

 これさえあれば遠くの物も簡単に取ることができる。バンは机から微動だにせず、鼻歌交じりにリモコンを操作した。

 ところがだった、消しゴムまであと僅かというところで機械がオーバーヒートを起こし、バンは背中から煙を吹き上げた。

「熱っ! 熱っつ!」

 思わず飛び上がるバン。クスクスと他の生徒達の笑い声が聞こえてくる。恥ずかしい。

「くそぉ。初めて使ったが、まだ改良が必要だなこりゃ」

 バンは忸怩たる思いで渋々立ち上がると、直接消しゴムを取りに向かおうとした……。

 その時だった。

「大道寺君! はいこれ!」

 微笑みを浮かべながら、バンより一足先に消しゴムを拾って手渡してくれた人物がいた。学校のマドンナ的存在、里美(さとみ)である。

 容姿端麗なだけでなく、明るく気さくで心優しい彼女は学校の男子全員の憧れの的だった。

 実はバン、開発や研究に失敗することが山ほどある。しかし、サトミはそんなときいつもバンを気遣って、救いの手を差しのべてくれるのだ。

「さ、ささささ、サトミさんっ……! あ、ああああ、ありがとう、ご、ございます……!」

 しかしバンは、サトミを相手にするといつも緊張してしどろもどろになってしまう。他の男子同様例に漏れず、サトミに好意を抱いているからだ。

 もしも、こんなに可愛くていつも優しくしてくれるサトミから好かれたらどんなに幸せだろう……。しかし、変わり者で失敗ばかりで、皆から気味悪がられている自分がサトミにモテることなんて絶対に有り得ない。今日もサトミは顔を赤くしてまで、わざわざ直接こんな気味の悪い自分に消しゴムを渡してくれたが、ハッキリ言って申し訳ない……。いつの日かバンも、逆にサトミを守ってあげたいと思っているのだが、得意なことが機械いじりしかないバンにとって、それはなかなか叶わぬ願いだった。


 サトミから消しゴムを受け取ると再び席に着くバン。電子工作の続きを始めていると、近くの席の生徒の声が耳に入ってきた。

「なあみんな、織戸幸愛会(おりとこうあいかい)って知ってるか?」

 ハヤトだ。寺の跡取りで高身長イケメン。男女問わず皆に人気があり、いつも奴の周りには人が集まってくる。オカルトまがいのことを信じていて、よくそういった話で人を惹き付けている。

 オカルト話のことだけを考えたらバンと同じように気味悪がられても仕方ないのだが、ハヤトはバンとは違って人を惹き付ける魅力があるようだ。

 今日も先ほどの一言で彼の周りにはゾロゾロと女子たちが集まって来た。モテモテだ。気に入らない。いや、正直うらやましい……。

「織戸幸愛会、みんな知らないわけないよ!」

 女子の一人がハヤトに言った。

 織戸幸愛会。今、巷で大人気のカリスマ占い師「織戸零(おりとれい)」が代表を務める、愛をテーマに掲げた宗教団体だ。彼女の占いはよく当たると評判で、テレビを付ければ「織戸零」、パソコン点ければ「織戸零」、携帯いじれば「織戸零」といった具合に大人気。オカルトまがいのことに興味が無いバンでも知っているほど有名だ。そんな幸愛会の話を突然持ち掛けて、ハヤトはどうしたのだろう。機械いじりを続けるバンの耳に、再びハヤトの言葉が入ってきた。

「なら、みんなよく聞いてくれ。……幸愛会の信者になることはお勧めしない」

「え⁉ どうして⁉ あんなに人気だし学校にも信者の子、けっこう多いと思うけど……」

「いやな、最近欠席者がかなり増えてるだろ?」

「うん、そうだね」

「気になって調べてみたんだが、どうやらその欠席者のほとんどが幸愛会の信者なんだ」

「え? 学校休むほどのめり込んじゃうから信者にはならないほうがいいってこと?」

「いや、そうじゃない。……何となく、嫌な予感がするんだ……」

「え?」

「俺の勘ってけっこう当たるからな……。俺も幸愛会に何度か潜入して調べてみてるんだが、どうも織戸零、アイツ裏で何か企んでるみたいだぞ……」

「どういうこと?」

「いや、一体何を企んでいるのかは分からない。けど、どうしても怪しいと思った俺は『千里眼』で織戸零の部屋を調べてみたんだよ」

「出ました! ハヤトお得意の千里を見通す千里眼!」

「そしたらな、……見えないんだよ」

「え?」

「見えないんだ、結界が施されて……。何度やっても内部が見えない」

「それって、どういうこと?」

「織戸零は何かを隠している……。それも霊力を持つ者に知られたくない何かを……」

 そこまで聞いたバンは機械をいじる手を止めた。

 何が『千里眼』だ。何が『霊力』だ。そんなものある訳がない。そういう世界のことを全く信じていないバンは、ハヤトの言葉に小声で思わず水を差す。

「何が霊力だ……笑わせんな」

「……あん? なんか言ったか?」

 バンの言葉に気が付いたハヤトは机から立ち上がると、睨みを利かせてバンの机に近づいてきた。

「霊力なんかある訳ねぇだろクソノッポ!」

 そう言いながらバンも立ち上がりハヤトを睨みつけた。

「んだとこの野郎! 前から言ってるけどな、そういう世界はあるんだよ!」

「はっ! ちゃんちゃら可笑しいぜ! 何が千里眼だ馬鹿々々しい!」

「うるせえ! 俺の能力バカにすんな! つーかな、いつもいつも機械ばっかいじりやがって気に入らねぇ! テメーみてーな命の重さも分からねぇメカオタク野郎は大っ嫌いなんだよ!」

「寺の跡取りだからって命、命、命、命うるせーんだよ! こっちだってテメーみてーな心霊バカ、端から大っ嫌いなんだよ!」

 今にもハヤトに手を出しそうなほど一触即発の状態となったその時――

「二人とも止めなよ!」

 サトミが止めに入った。クラスのマドンナであるサトミに止められては仕方ない。バンは「ふん!」という声を出しながら席に着くと、ハヤトも踵を返して席に戻って行った……。

 実はこれ、このクラスではお馴染みの光景なのである。

 バンとハヤトが喧嘩する……。それをサトミが止める……。こうして変わらない日常が今日も過ぎてゆき、授業開始のチャイムが鳴り始めた。


 ◆

 ここまで話を聞いたエンは、今とは全く違う二人の関係性に驚き、後部座席から前の席まで身を乗り出して大声を出した。

「えぇぇぇぇええ⁉ バンさんとハヤトさんって、仲悪かったんですかぁぁぁああ⁉」

「ははっ、実はな」

 片手で頭を掻きながらそれに応えるバン。

「ま、それはさておき、話の本題はここからなんだ。よく聞いてくれ」

「は、はい! 続きが気になって仕方ありません」

 そう言うとエンは再びバンの話に聞き入るのだった……。


つづく

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