Now Loading...
新世紀陰陽伝セルガイア

第三十三話~朱雀の炎~

前回のおさらい

 ヤクモから必殺技の使用が可能となる『破魔札』を差し出されるも、使う資格がないと受け取りを拒否したエン。いつもの海岸で水平線の彼方を見つめながら、ひたすらに不甲斐ない自分を責めていた……。するとそこへバンがやって来て、エンに対して重大な報告をする。『アザミが魔物に襲われている』と……。


第三十三話~朱雀の炎~


◆由比ヶ浜・海岸にて

 突然現れたバンにアザミのピンチを伝えられたエン。流石に驚きを隠せない様子だったがすぐにうつむき、バンに対してこう言い返した。


「バンさん。僕はダメなんです! 授かったこの力で誰かを守りたい……ずっとそう思って戦ってきたけど、結局僕は周りに迷惑ばかりかけてしまう!! 僕のこの力は“誰かを傷つけてしまう”んです!!」

「……」

「バンさんごめんなさい……。アザミを……よろしくお願いします」

「……」

 
 そんなエンに対して、バンはこう切り返した。

「エン……。俺はお前がそんな奴だとは思ってなかったぞ……買い被りすぎだったか?」

「……」

「エン。そうだな。確かにお前の言う通りだ! お前が言う通りお前は『ダメな奴』だよ!!」

「……!!……」

「じゃぁ、何がダメか答えられるか?」

「……そ、それは僕が……」

「それはな……『自分をダメだと思ってる』事だよ!!」

「!!!?」

 その答えにエンは強い衝撃を受けた。思いもよらないものだったからだ。そしてその衝撃に言葉を無くしたエンに対し、バンが続けた。


「お前は今までどんなにダメでも、その力で懸命に、人を助けたい一心で戦ってきたんじゃないのか? その姿を俺は今までこの目で見て、そして知ってるぞ!」

「……」

「自分の不幸は笑い飛ばし、他人の不幸に涙を流す。例え無謀と分かっていても、例え自分がダメだったとしてもその力で他人を助けたい!! ……それが“お前”だったんじゃないのか!?」

「……」

「……とにかく、俺は伝えるべき事は伝えたぞ。この後どうするかはお前次第だ。さて、俺はアザミの元へ向かうぞ……」

 バンはそう言うと“ある物”をエンの足元めがけて放り投げ、素早くその場を後にした。
 ……エンは暫く固まっていたが、我に返ると足元に落ちた“ある物”を手に取った。それは折り畳まれた地図だった。マジックで書き込まれた赤い丸は、アザミの居場所を指し示していた。

◆数刻後・とある山奥の廃墟にて

 人里離れた山奥の、朽ちたコンクリートむき出しの廃墟をバックに、バスターズのハヤトとバンは魔物に襲わるアザミを救うため必死の攻防を繰り広げていた。
 魔物は3mはあろうかという巨体の持ち主で、赤い甲冑を来た武者のような格好をしている……。顔には御札の様な物が貼り付けられており、その向こうの表情を伺い知ることはできない。手には一振りの巨大な太刀が握りしめられ、廃墟の壁を薙ぎ倒しながら三人に襲いかかっていた。逃げ惑うアザミと苦戦するバスターズ……。しかし、アザミがこの魔物に襲われている理由は定かではなかった……。
 その戦いの最中であった。

「きゃぁぁああっ!!」

 アザミが悲鳴を上げた! 遂に魔物の巨大な手の中に捕らえらてしまったのだ!

「アザミーーー!!」

 その時だった。

「アザミを放せーーーーっっっつ!!!!」

 その声と共に何者かが上空より飛来し、アザミを握りしめる魔物の片腕を一刀両断叩き斬った!! その姿を見たハヤトは小声で呟く。

「……エン……」

 そう、すんでのところで遂にエンが駆けつけたのである!!

「来たか!!」と、バンは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
 地に降り立ったエンは、斬り落とした魔物の手の中からすかさずアザミの体を引きずり出す! ……しかし、アザミは目を瞑ったままその呼び掛けに答えることはなかった……。


グギャォォオオオオ!!

 
 そして片腕を失った魔物は次の標的をエンに定めた!! その時だった!!


「よくもアザミを……!!!!」


 魔物を眼前に捕らえたエンの手には、ヤクモから託された“破魔札”が握りしめられていた!! エンは覚悟を決めたのである! 
 彼は近くに落ちていた木の枝を拾うと、それを口に頬張り一気に力強く噛み締めた!! そしてその姿を目の当たりにしたハヤトが叫ぶ!

「あいつ……まさか!!」

 すると、エンは左手の篭手に付いている突起物に手を掛け、渾身の力を込めてそれを引き出した!!


「ぐぉぉぉぉおおおおああああっつ!!!!」

 
 エンの身体全体に未だかつて味わったことのない程の激痛が駆け巡る!! しかし、魔物に対する怒りはその痛みなど遥かに凌駕していた!!


「ぉぉおおおおおおああああっつ!!!!!!!!」

 そして遂にその突起物を限界まで引き抜くと、自らの篭手に“破魔札”を勢いよく装着した!!
 
 ……するとどうした事だろう、右手に掲げた刀には、みるみる赤い輝きを放つ梵字が刻まれていくではないか!! そして


「てやぁっつ!!」

 
 と叫んで勢いをつけたエンは跳躍の能力で一気に天高く舞い上がる!!

「うぉぉぉぉおおおおお!!」


 そして、刀の刃を地面に向けるとそれを足蹴にし、地上で待ち構える魔物に対してキックの姿勢で急降下した!!


『必っ殺っつ!! 朱雀避口舌(すざくひこうぜつ)!!』


 エンの背後には伝説の聖獣、『朱雀』の姿が浮かび上がっていた!! そして!


ズガーーーーーーーーン!!

 
 凄まじい爆炎と共に魔物に向かって急降下したエンは、粉塵を撒き散らしながら再びその場に姿を表した。……彼は見事魔物を打ち倒したのであった。


◆少し経ち


「はぁ……はぁ……」

 
 疲労し、肩で息をするエンに向かってバンが声をかけた。


「はっはっは!! やっぱりな! 来ると思ったぞ!!」

 
 しかしエンはその言葉を聞かず、すぐさま地面に倒れるアザミに向かって行くと膝を付いて泣き崩れた。


「アザミ……。アザミごめんよ……ごめん!!」

 
 声にならない声を上げ泣きじゃくるエン。彼の口からはもうそれ以上の言葉は出てこなかった……。その時だった。


「ヌシ……さま……」

「……アザミ? ……アザミっ!!」

 
 アザミが息を吹き替えしたのだ!!


「アザミ! 良かった……よかった……」

 今度は打って変わって喜びの涙を流すエン。

「ヌシさま……きてくれた。うれしい……ありがとう……」

「アザミぃ……」

 エンはアザミの小さな体を力一杯抱き締めた。


「アザミ、大丈夫? 怪我してない!?」

「ヌシさま……あのね……」

 アザミはそこまで言うと先程の疲れきった表情を一変させ、突然元気いっぱいこう言った!

「あはは! ぜーんぜんだいじょうぶだよっ!』

「えっ!!!?」


 突然満面の笑顔を見せるアザミに違和感を覚えたエンは、不意に後ろを振り返った。するとエンの目の前に先ほど倒した魔物の顔に張り付いていた御札がヒラヒラと地面に落ちてきた。


「え? ……もしかして……」

 何となく訳を察したエンに対し、バンが話しかけた。

「ははは、バレちまったか!」


 そう、魔物はバンが作り出したデジタル法具によって写しだられた只のフォログラムだったのだ。


「……バンさん、何だよもぉー!」

 エンは一気にホッとして、涙でグチャグチャな顔に微笑みを浮かべながら、バンの体をポンと叩いた。

「ははは!! しかし来るとは思っていたが、まさかハヤトにもできなかった“破魔札”を使いこなすとは、お見それしたぞおみそれしたぞ!」 

「あたちのヌシさまやっぱりすごーい!」

 エンは照れ臭そうにしながらバンに語りかける。

「もぉー。本当にバンさんってお節介焼きなんですね。でも、ありがとうございます。ありがとうございます!」

 そう言いながら頭を下げたエン。すると、バンが意外な言葉を発した。

「いやエン。……今回は俺じゃないんだ」

「……え?」

「アイツだよ」

 
 バンはそう言うと、少し離れた位置で壁にもたれ掛かりながら腕組みをしているハヤトに目線をやった。


「えっ!? ハヤトさん!?」

 ハヤトはやはり無言で佇んでいたが。その表情は少し微笑んでいるように見えた。そしてバンが続ける。

「……エン。俺たちが与えた最後のチャンス……掴んでくれてありがとう」

「バンさん……ハヤトさん……」

 エンは再び涙ぐみ、二人に対して深々と頭を下げるのだった……。


 
 そんな一同に対して、おもむろにアザミが口を開いた。


「ねぇねぇみんな……ちょっとアタチのところにきてくれない?」

 
 疑問に思うも、エンとハヤトは言われるがままアザミに近づいた。そして、アザミの姿が見えないバンもエンとハヤトの誘導でその輪に参加した。


「いーい、いくよ?」

 
 そう言うとアザミは全員の体に手を触れた……。その瞬間だった!!


「!!!?」

 
 一同は驚いた! 先ほどまで居た山奥の廃墟の光景が打って代わり、辺り一面“あざみの花”が咲き乱れる花畑に変わったではないか!!

「ヌシさま、あたちきがついたの。いったことあるところなら、どこでもすぐいけるの」

「え!? すごい……」

「アタチね、むかしからこのばしょがすきなんだ……」

 一同は辺り一面を見渡した。今までの魔物退治の喧騒など嘘だったかのような静けさに包まれ、それはそれは心が洗われるような美しい景色だった……。そんな風景を見つめながら、アザミの目には涙が浮かんでいた。

「ヌシさま……アタチこんなことができるんだよ……だから……だから……ヌシさまのそばにいたいよ……。いたいよ……」

 そう良いながらエンにすり寄った。そして、そんなアザミに対し、エンも大粒の涙を浮かべながら語りかけた。


「アザミ……。アザミごめんよ……。僕がバカだった。 今までキミにしてきた事、掛けた言葉……全部ぜんぶ謝るよ。アザミ……。当たり前じゃないか!! そんな力が無くたって、これからは僕のそばにいて欲しい……。だってキミは“僕の式神”なんだから……」

 そして二人は寄り添い泣き合った。


 
 暫くして、そんな二人にハヤトが口を開いた。


「エン。俺はまだお前をバスターズの一員として認めた訳じゃない……」

「……そうですよね……」

「だがな、今のお前に頼みがある。……俺たちの次の戦いに、是非とも同行して欲しい」

「えっ!?」

 
 まさかハヤトがバスターズの仕事への同行を許可するとは思ってもみなかったエン。


「い、いいんですか……!?」

「あぁ、頼む」

 
 そう発したハヤトは重々しい雰囲気に包まれていた。エンはそんな姿をみて唾を飲み込むと、ハヤトの言葉に耳をそば立てた。


「ヤクモから重大な情報が入った」

「……」

「俺たちがずっと追い続けてきた因縁の相手、折戸幸愛会の幹部“御手洗(みたらい)”の足取りが掴めたそうだ……」

「!!!!」

 ここへきていよいよ、今までの戦いの影で暗躍していた“闇の組織”の情報が飛び込んできたのだ。物語は今、新たな局面を迎えようとしていた……。

つづく!!

【第三十二話へ】 【一覧へ】 【第三十四話へ】