Now Loading...
新世紀陰陽伝セルガイア

第四十一話~白毫使いの戦い~

前回のおさらい

 
 常世にて、千手観音から織戸零の企みについて詳しく聞くことができたバンとハヤト。もしもその企み通りに事が運べば世界が崩壊するのだと言う。このままではマズイ! しかし白毫使いは一度だけなら甦ることができるらしい。バンとハヤトはレイの野望を阻止すべく、千手観音の力によって再び現世へと舞い戻るのだった……。


第四十一話~白毫使いの戦い~


 気が付くと、辺りは暗闇に包まれていた。

 苦しい! 千手観音の言葉が正しければ生き返った筈。

 だが、辺りは暗闇に包まれ呼吸が苦しい! 土の匂いが鼻を突く。

 バンはあまりの苦しさに、上と思わしき方向に向かって闇雲に手を伸ばした。

 すると「ボコッ」という音と共に、冷たい空気が手に触れた。

 恐らくここは土の中だ! 幸愛会の連中は、死んだバンたちを土に埋めたのだ!

 バンはそこから急いで這い上がった。

 身体中の土を払いながら辺りを見回すと、そこは庭園だった。そして少し離れた場所に幸愛会の建物が見える。

 恐らくここは敷地内の庭園なのだろう。バンたちを殺して敷地内に埋めて隠蔽しようとしたらしい。何て酷いことを……。

 そう思っていると突然足元が「ボコッ」と盛り上がり、何者かの手が現れた!

「うわあっ!」

 突然のホラー映画のような状況に驚き声を上げるバン。

 手の主はハヤトだった。

 ハヤトはバンと同じように土から這い上がり、土を払うと状況を確かめた。そしてバンに話しかけてくる。

「どうやら本当に生き返れたみたいだな」

「ああ、そのようだな」

 口の中に雑草の根が入り喋りづらい……。ぷっと吐き出す。

 一瞬、あの世での出来事は夢だったのではないかとも思った。

 だが、バンもハヤトも白毫の力で顕現させた武器をちゃんと握りしめている。

 やはりこれまでの出来事は夢ではないということだ。

 バンは、これから繰り広げられるであろう戦いに体を強張らせた。

 
 辺りは既に日が傾き始め、木々や街灯が長い影法師を落としている。

 講演が始まったのが13時。ということはそこから4時間くらいは経っているのではないか。

 信者たちはどうしただろう。既にレイの計画は進んでいる筈だ。

 急いで会場まで戻った方がいいだろうな……。そう思ったその時だった。

 「キャー」という女性の悲鳴が聞こえてきた。

 あわててその方向に駆けつけてみると、そこは敷地の外からほんの少し出た場所だった。

 女性が信者たちに襲われている! マズイ! このままではきっとあの女性は殺されてしまうだろう!

 バンとハヤトは慌てて女性に駆け寄ると、いよいよ信者たちに向かって武器を振りかざした!

 武器を当てたその瞬間、バンは思わず目を瞑る。人を斬る感触が伝わってくると思ったからだ。

 しかしそんなことはなかった。その手触りは空を斬っている感覚と何ら変わらない。

 そんな! 確かに斬りつけた筈なのに! バンは面食らった状態で斬り突けた信者に目をやった。

 するとその信者は、今まで自分の身に起きたことが全く分からない様子で辺りをキョロキョロ伺い始めたではないか。

「やったぞバン! 千手観音が言った通り、これで洗脳が解けるんだ!」

 ハヤトが斬りつけた信者たちも、皆一様にキョロキョロと辺りを伺い始めていた。

 武器は人の体をすり抜け、洗脳だけを解いたのだ。凄い……。

 助けられた女性はバンたちに礼を言うと、そそくさとその場から去っていった。

 この力は凄いぞ! これならサトミを助けられるかもしれない! そして世界を破滅の危機から救えるかもしれない! 今までサトミに守られてばかりだった自分が、人を守ることができたんだから!

 バンは僅かに自信が湧いて口元が綻んだ。

 そんなバンに向かってハヤトが言った。

「おい、あれを見ろ!」

 ハヤトは幸愛会の建物の方を指差している。

 何事かと思い振り向くと、大量の信者たちが次々と建物から現れ、四方八方に向かって進行しているではないか。

 信者たちの姿はまるでゾンビ映画の様相だ。

「ハヤト、マズイな。もう夕方だ。既に多くの人間が信者たちに殺されてるかもしれないぞ!」

「くそっ! レイの奴、命を何だと思ってる!」

 ハヤトは、とてつもなく悔しそうな表情を浮かべて歯を食い縛った。

 そして物凄い勢いで地面を蹴ると、幸愛会の方へ走り出す!

「あっ、おいハヤト!」

 あまりの早さに遅れを取って、バンもその背中を追った。

 
 幸愛会の建物からワラワラと出てくる信者たち。その一人に向かって二振りの長刀で斬りかかるハヤト!

 彼はまた一人洗脳を解くことに成功する。

 だがバンは思った。信者たちの数が多すぎる。このペースで戦っていては、あっという間に信者たちは敷地の外へと出てしまうだろう。

 すると次の瞬間! ハヤトが目にも止まらぬスピードで動いたかと思うと、約20人程の洗脳が一気に解けた!

「陰陽白毫(いんようびゃくごう)の力か!?」

 どうやらそのようだ。ハヤトは白毫の力で周囲の時間を遅らせ、その隙に多くの信者たちの洗脳を一気に解いたようだった。

 だが、信者たちは途切れることなく建物から出てくる。キリがない!

 ハヤトは再び白毫の力で信者たちを止めようと、額に力を込めている。しかし。

「くそっ! この力、連続では使えないのか!」

 何だって!? 次に使えるようになるまで時間がかかるのか! そうこうしている間にも次々と信者たちが建物から出て来る!

 バンは咄嗟に自分の白毫の力を使った!

 両腕に力を込め、血をたぎらせ、それを信者たちの方向へと向ける!

 高温に目の前の空気が歪む。だが不思議と自分は熱くない。これもこの力の成せる技なのだろう。

 バンは前方に伸ばした両腕に更なる力を込めた!

 すると、信者たちの動きが止まった! 思惑通りに熱がっているようだ! 

 しめた! バンはそのまま高熱を帯びた腕を動かし、信者たちを一ヶ所に誘導していった。

「バン……いいぞ……」

 ハヤトが感心した様子で呟く。

 バンはうまい具合に、信者たちを一ヶ所に円形にまとめて見せた。

「ハヤト! 今だやれっ!」

 バンのその合図をきっかけに、ハヤトは一気に信者たちの洗脳を解いていった。

 
 見事、二人は建物から出てくる信者たちの洗脳を全て解くことに成功した。

 戦いに一段落つき、ハアハアと息を切らしながらバンもハヤトも地面に腰を下ろした。ちょっと小休憩。

 バンはあることを思いつきハヤトに提案してみる。

「ハアハア……なあハヤト。『陰陽白毫』って呼びづらくないか?」

「ハアハア……なんだよいきなり」

「『セルガイア』なんてどうだ?」

「は?」

「『大地』、つまり『ガイア』から出てきた光。そしてそれを飲み込んだ俺たちに現れた新たな『細胞』、つまり『セル』。だから『セルガイア』!」

 我ながら良いネーミングじゃないか? これなら呼びやすい!

「はっ、どうだっていい」

 くそっ。気にも止めないか。

 まあいい。バンは勝手にこの名前で呼ばせてもらうことにした。

 こうして息を整えていると、今度はハヤトが話しかけてきた。

「バン、受け取れ」

 そう言って突然、バンに向かって何かを投げてきた。

 何だこれは? 手の平より少し大きい長方形の桐の箱……。

 バンはおもむろに開けてみる。するとそこには赤い文字が刻まれた三枚の白い御札が入っていた。

「何だよこれ」

「それは『力転符』つって、一時的に相手の得意なことを他人に与えられる効果を持った御札だ。そこに俺の『減速の力』を込めておいた。いざというときに使え。身体に貼り付ければ一時的に俺の能力が使える筈だ」

 何だって!? まさか毎日いがみ合ってたハヤトが俺のために!? バンは強烈な感動を覚えた。……しかし。

「勘違いするな。俺は別にお前を認めた訳じゃない。俺は何としてもレイの野望を阻止したい。でもお前の最大の目的は『サトミの救出』なんだろ? 足手まといにはなるなってことだ」

 た、確かにそれもあるが、バンだってレイを止めたい気持ちは同じだ。けっ! ツンデレみたいに言うな! さっきの感動を返してくれ!

 ……そうこうしている内に呼吸が整ってきた。こうしている間にも、既に街中にいる信者たちは人を殺して回っているだろう。一刻も早くレイの『邪眼』をこの武器で破壊しなければ!

 バンとハヤトは腰を上げると、再び幸愛会の建物に乗り込んで行くのだった。


つづく!


【第四十話へ】 【一覧へ】 【第四十二話へ】