前回のおさらい
あの世からの復活を果たしたバンとハヤト。目覚めた場所は幸愛会の敷地内の土の中だった。這い上がり辺りを見渡すと、洗脳された信者たちが人々を襲っていた。早速あの世で手に入れた「陰陽白毫(いんようびゃくごう)」の力で信者たちの洗脳を解いていく二人。バンはその戦いの最中、この「白毫」を呼び安くするため「セルガイア」と名を付けた。果たしてセルガイアを宿した二人の戦いはどうなるのだろう。二人は再び、幸愛会の建物へと乗り込んで行くのだった……。
幸愛会の建物に再び乗り込んだバンとハヤト。バンは一階のホールの扉を勢い良く開いた。
「レイ! どこにいる! 出てこい!」
ホール全体に響き渡る大声でけん制するハヤト。
するとレイは、幹部と思われる四人の男性に囲まれるようにステージ上に立っていた。
そこには白い布がかけられた寝台があり、そこにサトミを縛り付け、何やら呪文を唱えている。
そうか、サトミにセルガイアを宿そうとしているんだな! 何としても食い止めるぞ!
バンがそう思った途端、レイがこちらを睨み付けて叫んだ。
「何っ!? お前たちは殺した筈!」
ステージ上のレイに向かってバンは啖呵を切る。
「お前の野望を阻止する為に地獄から甦ったのさ!」
ちょっと格好つけすぎて逆にダサい気もするが、言っちゃったものはしょうがない。
セルガイアの武器、白毫神器でレイの方を指しながら思いっきり格好つける。
そんなバンとハヤトの姿にサトミも気がついたようだ。
寝台に鎖で縛られた状態で、苦しそうに顔だけこちらに向けて訴えてきた。
「二人とも来ちゃダメ! 逃げて! 母さんは普通の人間じゃないの!」
ああ。千手観音の言うことが真実ならそうだろうな。 バンはサトミに向かって言い返す。
「さ、さささ、サトミさん! し、ししし、知ってま……」
ダメだ! サトミに話しかけようとするとどうしても緊張でしどろもどろになってしまう! 我ながら情けない!
そんなバンに見兼ねた様子で、ハヤトが割って入ってきた。
「レイ! お前の企みは全部知っている! お前は邪眼使いなんだろ!? 道満復活は俺たちが止めさせてもらうぞ!」
レイもサトミも、「何故それを知っている」と思ったのだろう、目を丸くしながらこちらを見ている。
そしてレイは再び攻撃的な目付きになると、部下たちに指示を出した。
「そうはさせるか! もうすぐ私の望みが叶うのだ! お前たち! 殺れ!」
すると、部下たちは懐から拳銃を取り出し、こちらに向かって一斉に発砲してきた!
ホールに乾いた銃声が轟く! マズイ! たじろぎ目を瞑るバン!
……しかし、身体に弾の当たる衝撃は感じない。
何が起きたのかと目を開けると、目の前にハヤトが立っていた。
「ばーか。全部見えてんだよ!」
ハヤトはそう言うと握っていた手の平をレイに向かって開いて見せた。
すると、そこからパラパラと複数の銃弾が床に向かって落ちていった。
減速の能力が復活し、バンを庇ってくれたのだ。
「ハヤト。 ありがとう!」
「くそっ、これでまた暫く使えないな」
次にまた能力が使えるようになるまで間が空くことに対し、小声で惜しむハヤト。
その能力を目撃したレイたちは、唖然とした様子を見せた。
「まさかお前たち! 白毫使いか!?」
ハヤトが言い返す。
「その通りだ!」
その言葉に恐れをなしたのか、幹部の一人、眼鏡をかけたおかっぱの男が「ひぃ」と悲鳴を上げて逃げていった。
「くそ、こうなれば私が直々に相手だ! お前たち下がっていろ」
レイはそう言うと、幹部たちに下がるよう指示を出した。
そして額に紫色の邪眼を出現させる。更に、右手から紫色の鞭(ムチ)を顕現させこちらをけん制してきた。これが彼女の神器なのだろう。
邪眼使いは魔の気を孕んでいるため、神器で斬ることができるだろう。そしてもちろん相手の武器ももこちらに傷を負わせることができる……。
ここから先はいよいよ真剣勝負。
バンとハヤトは身構えた……。
すると突然! レイはその鞭を振るい二人に向かって攻撃を仕掛けてきた!
ステージからこちらまでかなりの距離がある。レイが手にしている鞭の長さはそこまで届く筈がない。
そう思われたのもつかの間、鞭はみるみるこちらに向かって伸びてくる!
「何だと!?」
バンもハヤトも驚いた。短かかった鞭がどうしてここまで!?
そう思っている間もなく、鞭は二人の身体にグルグルと巻き付いてきた!
「うおっ!」
二人の身体が鞭によって縛り上げられる!
その状態を見たレイは、腕に全身の体重を乗せるように、ステージに向かって一気に武器を引き寄せた!
バンとハヤトの身体が宙に浮く! ステージに引き寄せられる!
いよいよステージ上のレイが目の前に近づいてきたその瞬間! レイはその身を翻すと突然ステージに手を突いた! 何をしたのだ!?
そして次の瞬間、レイは鞭に新たなベクトルの力を加えて真下に引き下げた!
「うわぁっ!」
空中を進む身体の方向がいきなり変化し、脳が揺さぶられる!
そして二人の身体はステージの床に叩きつけられてしまった!
……だが、その衝撃は身体に伝わってこない。何が起きたのか呆気に取られていると、突如身体がステージにめり込んでいくではないか!
「何だこれは!?」
何と、レイが触れているステージがトランポリンのような弾力を持ったのだ!
次の瞬間! ステージはバンとハヤトの身体を弾いた! 再び身体が空中へと投げ出される二人!
無重力状態! 空中では為す術がない!
そして二人の身体はステージ上に吊り下げられている照明機材に叩きつけられてしまった!
バリンッ!!
照明器具のガラスが割れる!
「ぐはっ!」
くそっ! 叩きつけられた衝撃による鈍痛と、照明器具のガラスによる焼けるような痛みが身体を襲う!
そしてそれもつかの間! 二人の身体がステージに向かって落下する!
レイはステージに触れていた手を放す!
すると! バンもハヤトも、今度はステージに体を叩きつけられてしまった!
「ぐおっ!!」
床に転がる二人を見たレイは嘲笑する。
「ははははは! 見たか! これが私の、伸縮邪眼の力だ!」
そうか! これがレイの能力なのだ! 触れたものを伸縮素材に変えてしまう。 だから手にした鞭も、先程の距離まで届いたということか!
早速ダメージを喰らったバンとハヤト。痛みを堪えながら立ち上がる。
「くそっ……!」
その姿を見ながら、レイが高笑いをする。
「ふははは! 白毫使いと言えど、私を止めることはできんのだ! 我が宿願成就の時は近い!」
「そうはさせない!」
ハヤトはそう言ってレイに向かって攻撃を仕掛けていった!
二刀流の太刀筋がレイの身体を切り裂こうとする。だが、その攻撃をことごとくかわしていくレイ。
ブンブンと刀が空を切る音だけが虚しく響いてくる。
レイは相当な手練れのようだ。普段から訓練していたのだろう。動きに油断も隙もない。
それに比べてこちらは突然手に入れた能力だ。まだ思うように武器を使いこなせていないハヤトは攻撃を当てられずにいた……。
だが、レイがハヤトに気を取られている今なら、バンはレイに攻撃を加えることができるのではないか。
そう思ったバンは、ハヤトから譲り受けた御札に込められた減速の力で一気にレイの邪眼を破壊するべく攻撃を加えようと画策した。
そして御札の一枚を体に貼り付けようとしたその時だった!
「何をするつもりだ!」
しまった! レイに気づかれた! レイはバンに向かって鞭を伸ばしてきたかと思うと、一気に体が縛り上げられる。
「ふん。二対一とは卑怯な……」
バンは鞭に縛り上げられたままレイの元へと引き寄せられる!
そして次の瞬間! みぞおちを思い切り殴られてしまった!
「ぐはあっ!」
レイの拳がバンの体にめり込む!
今度はバンの体がレイの拳を包み込んだままゴムのように伸びてしまった!
そして次の瞬間、バンはその弾力に弾かれるように、再び元いたホールの入り口付近にある座席まで吹き飛ばされた!
「ぐあっ!」
座席の背もたれに腰を叩きつけられ、バンは苦痛に顔を歪める。
「くそっ……強い」
レイは勘も冴えているようだった。今度はハヤトの体を鞭で巻き取ると、自分の体にピタリと引き寄せた。
バンに邪眼を攻撃させまいと、ハヤトを盾にガードに入ったのだ。
これでは減速の力を使っても邪眼に攻撃が加えられない!
それに熱血の力を使えばハヤトにもダメージが入ってしまうではないか!
……だが、バンは思った。この隙に御札の力を使って、「サトミの救出に向かうこと」ならできるのではないか。
名案だ。そう思ったバンは瞬時に御札の一枚を体に貼り付けた!
周囲の時間が遅くなるのが分かった。ステージの照明に照らされた宙を舞う埃の数々が、その動きを遅くしている。
今しかない! バンは急ぎサトミの元へと向かった!
バンはサトミの寝かされている寝台のそばまで一気に間合いを詰めると、体を縛り上げている鎖を掴んで力を込めた。
熱血白毫の熱の力で鎖を断ち切る算段だ。
減速の力を使える時間も限られている。急がなければ。バンは思い切り両手に力を込める!
「うぉぉぉぉお!」
すると、パリンという音と共に思惑通り鎖が外れた!
「よし!」
バンはサトミの身体抱えると、元いた入口付近まで走った。
入口付近につくと、座席にサトミを座らせるバン。
やったぞ! 見事サトミを救出することに成功したのだ!
バンは気を良くした。
今までサトミに守られてばかりいたバンが、とうとうサトミを守ることができたのだ!
顔が綻ぶ。
……そして、どうやらまだ御札の効力は残っているようだ。
ここでバンは一つあることを思い付いた。
普段は緊張して話せない事も、この減速の力が働いている今なら、しどろもどろにならずに言えるのではないだろうか……。
よし、ちょっとだけならいいだろう! 告白の練習だ!
「サトミ……。俺は今まで君に守られてばかりだった。でもこの力があれば、俺はこれから先も君のことを、誰かを守っていけるかもしれない……」
よしいいぞ! やっぱりしどろもどろにならない! 減速の力を使っている今なら、この言葉は早送りの動画のようにしかサトミに届かない筈なのだ! そう思うと緊張しないで話せるぞ!
「だから、俺と、付き合ってくれないか!? 俺はずっと君の事がす……好き……」
そこまで言った瞬間だった!
突然レイの鞭が体に巻き付いてきた!
しまった! 減速の力が解けたのだ! 告白の練習に気を取られて油断していた!
バンは再びステージに引き寄せられ、今度はステージに後方の壁に思い切り体を叩き付けられる!
「ぐはぁっ!!」
くそっ! かなりのダメージだ! 内蔵が飛び出そうな程の苦痛が全身を襲う!
バンは壁を滑るようにステージへと落下する。
ダメだ。痛すぎる。立ち上がろうにも力が入らない。
そんな中、再びハヤトがレイに攻撃を仕掛ける。
一振り、二降りと刀を振りかざしていくハヤトの姿が目に写る。
しかしやはり攻撃は当たっていない。
レイは素早い身のこなしでハヤトの攻撃をことごとく避け続けている。
そして、ハヤトが次の一撃を加えようとしたその瞬間! レイは振りかざしたハヤトの腕に掴みかかった!
すると、ハヤトの腕がゴムのようにレイの腕に巻き付いていくではないか!
「しまった!」
グルグルと、レイの腕にハヤトの腕が巻き付いていく!
そしてレイはその反動を活かし、ハヤトの体を空中でグルグルとぶん回す!
二転三転とぶん回した直後、レイはハヤトの体を思い切りステージの床に叩き付けた!
「ぐはぁっつ!!」
ただ床に叩き付けられるのとは違う、何倍ものダメージがハヤトの体を襲っているようだった。
苦悶の表情を浮かべながら、ハヤトもバンと同じように地面に伏してしまった。
レイはそんなハヤトを踏みつけ、高笑いをしてきた。
「ははははは! 弱い! 白毫使い二人がかりでも歯が立たんのか! 笑止! 相手にならん! お前たちなど私が直後殺す必要は無いようだな……」
バンはやっとの思いで立ち上がるも、大きなダメージに攻撃を仕掛けることができない……。悔しいが、ぐうの音もでない。
そしてハヤトも同じような状況なのだろう……。苦痛に顔を歪めている。
「お前たち! 儀式を最終段階に進めるぞ!」
レイがそう言い放った方向に目をやるバン。
すると、助け出したサトミが再び幹部の一人に拘束され、ホール入口の扉からどこかへとさらわれてしまったではないか!
そして、レイ自身はステージの奥へと進んでいったかと思うと、懐から小さなリモコンを取り出した。
そして壁の中央にそのリモコンを向けるとスイッチを押した。
すると、壁が開いた。どうやらエレベーターのようだ!
レイはそこに乗り込むと扉を閉めた。
空かさず追いかけようとするバンだったが時既に遅し。エレベーターの扉は固く閉ざされてしまった。
「くそ! どこへ向かった!?」
エレベーターの壁を叩くバン。スイッチのようなものも見当たらず、その扉を開けることができない。
恐らくあのリモコンが無いと開けることはできないのだろう。
しまった……。折角サトミを救い出したのに……。
だが悔やんでいる暇はない。きっとこうしている間にも道満復活の為の儀式は進行してしまうのだろう。
バンはハヤトに向かって叫んだ。
「ハヤト! レイたちはどこへ向かった!? 千里眼で確かめてくれ!」
そんな力があることを信じていなかったバンだが今は違う。ハヤトの力を借りかった。
ハヤトはバンの言葉を受け、こめかみに指をあてがうと集中する素振りを見せた。
そして次の瞬間。
「見えたぞ! 屋上だ! サトミは何か大きな機械に入れられようとしている!」
ハヤトはそう語った。
屋上か! しかし、ハヤトの千里眼によると、他のエレベーターも稼働停止していて使えないらしい……。
なす術無しか。そう思ったが、ハヤト曰くどうやら外階段があるらしい!
まだ道はあるのだ!
バンとハヤトは痛む体にムチ打ちながら、屋上に向かう為に外階段のある扉へと急ぐのだった!
つづく!
【第四十一話へ】 【一覧へ】 【第四十三話へ】