前回のおさらい
遂に織戸零と対峙するバンとハヤト。レイは邪眼の能力を使って二人に襲いかかってくる! その最中、捕らわれていたサトミの救出に成功したバンだったが……レイは強かった。二人はレイの凶刃に打ちのめされる。そしてサトミは再び幹部たちによって捕らわれてしまう。その後レイはエレベーターに乗り込み建物の屋上へと向かった。このままでは再び儀式が進行し、世界が滅びてしまうかもしれない! バンとハヤトは傷付いた体の痛みを堪えながら、急ぎレイの後を追いかける!
レイの後を追いかけて、ビルの屋上を目指す俺とハヤト。
エレベーターは全てレイの幹部たちによって稼働が止められている。
外階段を使うしかない!
千里眼で行き先が見通せるハヤトを頼りに、俺も外階段に通じる扉へと急ぐ。
見つけた! あの扉だ!
息を切らす俺たちの眼前に、簡略化された階段のマークが描かれた白い鉄の扉が現れた。
その扉の丸いドアノブを先に掴んだのはハヤトだった。
ガチャガチャと無造作にドアノブを回すハヤト。
しかし施錠されていて開けられない様子だ。
「くそっ!」
蹴ってみてもびくともしない扉に、ハヤトは苛立っている。
だが、そのとき俺はふとあることに気がついた。ここは俺のセルガイアの能力が使えそうだ!
俺は扉の前のハヤトをどけると、ドアノブの上に付いている鍵穴の、シリンダー横に右手を当てがった。そしてセルガイアが現れている額に意識を集中させる。
すると俺の手の平が赤熱し、扉はその手の形にオレンジ色の光の枠だけを残して融解し始めた!
「シュゥ」という音と共に煙が上がった。扉の向こうに手が入り、冷たい風が肌に触れる。
やったぞ!
俺はそのまま、扉の向こうにあるサムターンを回して一気に扉を開く!
開いた! 左手側に外階段がある!
俺は喜びを噛みしめる。
ハヤトはそんな俺の肩をポンと叩き、一足先に階段を駆け上がった。
「あっ、待てハヤト!」
俺もその後を追って、階段を駆け上がる。
辺りはすっかり暗くなっていた。
息を切らしながら駆け上がると、眼下に煌びやかな夜景が広がった。
この景色をのんびりと、サトミと一緒に眺めることができたらどれ程幸せだろう……。
しかし今は、目の隅に映り込むこの景色をまじまじと見ている場合ではない!
このままではサトミが邪悪な儀式の人柱にされて、世界が滅びてしまうかもしれないのだ!
カツンカツンと鉄を蹴る音を立て、持てる力の限りを尽くして全速力で駆け上がる!
急げ! 急がねば!
その焦りが背中を押したのだろうか。恐らく30階はあったであろうこのビルを、不思議と体力が尽きることなく一気に駆け上がることができた。
荒い呼吸のまま最後の一段を蹴り上がると、俺はいよいよ屋上の様子を目の当たりにした。
そこはヘリポートだった。奥には高さ2メートル程の機械のポッドが設置されておりそこからはタコの足の様に太いケーブルが幾重にも重なり伸びている。そしてレイは、不気味な笑みを浮かべながら、ポッドの様に付いているコントロールパネルを操作していた。
ポッドには覗き窓が付いていて、そこから緑色の光が漏れている。そしてその奥を良く見ると……サトミだ! サトミがいる!
ポッドは何かの液体で満たされて、その中で酸素マスクと思わしき物を付けたサトミが苦しそうな表情を浮かべている。
「レイ! やめろ!」
ハヤトが叫んだ。
「来たか、お前たち……。だが儀式は既に最終段階に突入している! この装置でサトミに陰陽白毫(いんようびゃくごう)を植え付けることが完了すれば、信者達が集めた禍御霊(まがみたま)が一斉にこの装置に集まってくる! そうなればサトミが人柱となって天空に時空の穴を空け、そこからいよいよ道満様が蘇るのだ!!」
レイは高笑いをすると、俺たちに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「そうはさせない!」
そんなレイに向かってハヤトが飛びかかった!
だが! ハヤトはレイが振るったムチによって再び体を絡め取られ、身動きが取れなくなってしまった!
「く、くそっ!」
ハヤトは全く動けない様子で唇を噛み締めている。
「ハヤト!」
「ハハハハ! さあ、時は来た! 蘇れ、蘆屋道満!!」
そしてレイは、ポッドに付いているキーボードのエンターキーをタップした!
すると機械から八方に緑色の光が漏れ出し、覗き窓の奥は泡で満たされサトミの姿が隠れてしまう。
マズイ! これが本当に儀式の最終段階なのだろう! 今すぐこの装置を止めなければ!
俺は焦りながらも装置を止める術を思案する!
電源を供給しているであろうあのケーブルを引き抜けば……。ダメだ! そんなことをしたらサトミは閉じ込められたまま酸素が供給されなくなって溺れてしまう可能性が高い! それなら、力ずくで扉をこじ開けてやる!
俺はポッドの目の前まで走ると、扉に付いた取っ手を力の限り引っ張った!
「うぉぉぉぉぉぉおおおおっ!」
思い切り歯を食いしばって腕に全身の力を込めてみても、扉はびくともしない。
レイは俺を嘲笑する。
「はっ、そんなことで開くわけがなかろう」
くそっ! それなら道は一つ。この装置を破壊するより他はない!
俺はセルガイアの能力で血管を高温にたぎらせると、ポッドに両手を押し付けた! これで装置を融解してやる!
ところがだった、装置は赤熱するものの、形が崩れることなく融解していかない。
焦る俺に向かってレイが告げる。
「ほぉ。血管を熱する能力者か、面白い。だが無駄だ。そのポッドは希少金属イリジウムでできている。容易く融解するような代物ではないわ」
くそっ! 外階段へ通ずる扉を溶かしたときは、確か鉄の扉だった。鉄の融点は1500度程。だがイリジウムの融点は確か2500度位だ! この能力にもう少し温度を加える手だてはないのだろうか!?
そう思ったその時!
『あぁぁぁぁあ!』
ポッドの中からブクブクという泡の音と共に、くぐもった悲鳴が聞こえてきた!
「サトミ!」
時間がない!
だが、ここで俺は妙案を思い付く。
「この能力では」ダメかもしれない……。でも、ハヤトの能力と組み合わせればあるいは……!
俺はポケットから2枚目の「力転符」を取り出すと、それを胸元に貼り付けた。
……周囲の時間が遅くなる……。その間俺の動きは早くなる。
この特殊な時空の中で、俺は再び両手を赤熱させた!
そしてポッドに対して全力を込めて、連続拳を叩き込む!
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」
灼熱の百裂拳だ!
両手の拳に痛みが走るがそんなことは構っていられない!
サトミを救うため、世界を救うため、俺はポッドを殴り続けた!
そして暫くの後、周囲の時間が元に戻る。
その瞬間だった! 「ガン!」というけたたましい音と共にポッドに穴が開き、中から液体が漏れだした!
レイは驚きを隠せぬ様子でビクリと跳ね上がる。
「何だと!? 何が起きた!?」
俺は勇んで答える!
「俺の灼熱の拳を素早く連続で叩き込むことで、そこに摩擦熱をプラスしたんだ! 更に、打撃を一点に集中させることで素材を破壊しやすくしたのさ!」
「やるじゃないかバン!」
ハヤトは感心した様子でそう言ってきた。
「キサマぁぁあ!」
そしてレイは血相を変えて悔しがっている。
俺は素早くポッドに開いた穴から中へと侵入すると、そこから競泳水着のような物をまとったサトミを引きずり出して両手に抱き抱えた!
両腕にサトミの鼓動が伝わる。良かった! 生きている!
額にセルガイアが現れている様子もない。間に合ったのだ!
「大道寺くん……。ありが……とう」
礼を告げてきたサトミだったが、まだ意識がもうろうとしているようだ。足元がふらつき立ち上がることができない様子。
「い、いや、きき気にしないで。は、ははは早くここからににに逃げましょう!」
くそっ! こんなときでもしどろもどろになってしまう! だが今はそんなことより、一刻も早くサトミを安全な場所へ! ……そう思ったその時だった!
「キサマ何ということをしてくれた!」
激昂したレイが俺たちに向かって襲いかかってきた!
「うわっ!」
俺は思わず抱えていたサトミを手放してしまった!
「きやぁっ!」
サトミはゴロゴロと地面を転がっていく!
思わず俺はサトミの方へと手を伸ばす!
幸いなことにサトミは、レイの鞭から逃れたハヤトに抱き抱えられて助かった。
ハヤトはサトミをヘリポートの隅に寝かせて介抱し始めた。
良かった。一安心だ。
だが、その時俺はバンレイにのし掛かられ、全身を地面に押し付けられて身動きが取れない状態になっていた!
「この儀式を行うためにどれ程の歳月をかけたと思っている!!」
レイは顔を真っ赤にして怒りを露にしている。
そして俺は強い力で首を閉められる!
苦しい……。もう死んでも蘇れないぞ……。
だが、至近距離にいる今がチャンスだ! 後はレイの額の邪眼さえ破壊できれば信者たち全員の洗脳も解けるはず!
俺は拳を握りしめると、レイの額を殴り付けようと振りかぶった。
その刹那。レイは至近距離で俺のセルガイアを目の当たりにすると、突然こんなことを呟いた。
「ん? この白毫……まさか!?」
そして次の瞬間! 何を思ったかレイは突然俺のことを投げ飛ばした!
「ぐはぁっ!」
地面に叩きつけられる。
そしてレイは素早い動きで俺から距離を取ると、突然高笑いを始める。
一体どうしたというのだ!?
「ははははは! そうか、そうであったか! 私の野望はまだ潰えていないということだな!」
「レイ……何を言っている!」
俺は地面に片膝を付いたままレイに向かってそう切り返す。
するとレイは驚愕の言葉を発した。
「よくぞ戻って来た! 我が息子よ!」
「なっ!?」
つづく!
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