前回のおさらい
蘆屋道満を蘇らせる儀式の最終段階の為、額に白毫を植え付けるための実験ポッドに取り込まれたサトミ。だが、バンは機転を利かせ、何とか彼女の救出に成功する。ところがその後レイの口から衝撃の事実が明かされる。バンがレイの息子であると……。
「よくぞ戻って来た! 我が息子よ!」
「!?」
俺はレイの言っている意味が分からず困惑した。息子だって? 一体どういうことだ!? 母はとっくの昔に死んだはず!
「……いいわ。どういうことか教えてあげる」
すると、レイは俺の疑問に答えるようにその真相を語り始めた。
「私はかつて幹部の一人から譲り受けた一冊の古文書の中で、『蘆屋道満復活に関する記述』と『陰陽白毫に関する記述』を発見した……。私はそれに心奪われた。私は道満を復活させるため、自らを実験体として白毫を植え付けようと目論んだ。だが実験は失敗。闇の白毫を宿した邪眼使いとなってしまった。どうも心に闇があってはダメらしいな……。そこで私は、自らの遺伝子から人工的に赤子を作り、実験ポッドの中でその子に白毫の開眼を促した……。そして実験は成功! 緑色の白毫を宿した白毫使いが誕生したのだ」
「まっ……まさかそれが……!?」
「そうよ。その通り。あなたは私が造ったの」
何だって!? あり得ない……。まさか自分がレイによって造られた人造人間だというのか!?
「嘘だ……そんなの嘘だ!」
信じたくはなかった。だからこそ言い返した。
しかしレイは続ける。
「嘘ではないわ。じゃああなた……自分の母親の顔を知っているの?」
「!!」
言い返せない。確かに俺は父から、「母は死んだ」としか聞かされていただけだった。写真など見たこともない……。
「そんな……。母さんは死んだんだ……。だから俺はあの機械を造って声を聞こうとしてたんだ……。なのに……なのに……アンタが母さんだって?」
「そうよ」
「そんな……」
俺は言葉を失った。何も言い返せない。母さんは死んでいる訳じゃなかったから、俺が造ったあの機械は作動しなかったのか……。
それに、ハヤトのように修行していなかったのにセルガイアが開眼したのは、俺が元々白毫使いだったからなのか……。
全てに合点がいく。
となると、今まで自分がしてきたことは無駄だったことになる……。機械工作を必死に学んできたのは母親の声を聞くためでもあったのに……。母はよりにもよって悪事を企むような人物、「織戸零」だったなんて……。
ショックにうつむく俺に向かってレイが続ける。
「ある日、実験ポッドに入っていたあなたが何者かによって奪われた。きっとそれがあなたを育てた父親ね」
「そんな……。父さん……そういうことだったのかよ」
「私は実験体の中で唯一成功したあなたを失い、一時は絶望した。でもね。娘のサトミにも能力者としての才があることを見出だしたの」
「だから今日、俺の代わりにサトミを実験ポッドに入れたのか!?」
「その通りよ! それをあなたに阻止されて、またしても目の前が真っ暗になったわ!」
「……」
「でもね、あなたは戻ってきた! 白毫使いがいれば、まだ希望が潰えたわけではない!」
レイは恐ろしげな笑顔を見せると、俺に向かってこう言った。
「さあ戻りなさい! 私の息子よ!」
だが俺は、溶岩のように沸々と煮えたぎる想いをレイに向かって言い返す。
「…………戻ってたまるか! 永遠の命を得るために人の命を犠牲にするような卑劣な奴を、母だとも思わない! レイ、お前の野望は俺が止めて見せる!」
今ここで俺の目的は完全に変わった。既にサトミの救出は叶ったのだ。今度はレイの野望を阻止することに全力を尽くす! そう心に誓った。認めたくないが、それが自分の母親と言うなら尚更だ!
その時だった。
満月を背景に、屋上に一機のヘリが近づいてきた。
「レイ様! お逃げ下さい! ポッドが破壊された今、一時体制を整えるより他ありません!」
幹部の一人がヘリのドアを開けて、身を乗り出すように叫んでいる。
そして彼は、ヘリからレイに向かって梯子を下ろしてきた。
逃げる気だ! そうはさせるか! 俺は武器を構える。
バタバタという轟音と凄まじい風圧にたじろぐ俺とハヤト。
そんな中、レイはいよいよヘリから降ろされた梯子を手に取った!
マズイ! このままでは逃げられてしまう!
俺たちはレイの逃亡を阻止すべく、神器を振りかざして彼女に立ち向かって行った!
俺は高鳴る鼓動と共に両脚に力を込め、逃亡を図るレイを全速力で追いかける!
だが、レイはハシゴにぶら下がりながら鞭を振るって俺たちをけん制してきた!
鞭の先にはナイフのような刃物が付いており、レイによって振り回されるそれを神器で防ぐことで精一杯だった。
ガキンガキンという金属音が鳴り響き、神器で防ぐ俺の手にその振動が伝わってくる。
ダメだ! 俺もハヤトも、鞭の間合いが広くてレイに近付けない!
そうこうしている内に、ヘリはハシゴにレイをぶら下げたまま上昇を開始してしまう!
「くそっ! 逃がすか!」
俺は咄嗟に、両手をヘリに向けて血管を赤熱させた!
「まさか、ヘリの機器を熱暴走させる気か!?」
レイの言う通りだった。俺はセルガイアの能力でヘリに向かって高熱を送り、機器を熱暴走させて墜落させようと考えたのだ!
「うぉぉおお!」
両腕にありったけの力を込める!
だが……レイはそんな俺を嘲笑う。
「はっ! その程度の熱がここまで届くわけないだろう! そんなことでヘリにダメージなど入らぬわ!」
「くっ……くそぉっ……」
俺は両腕に全力を込めるも、既に上昇を始めたヘリにまで高熱が伝わっていないようだった。
そうしている内にレイはハシゴを登り、ヘリの内部へと乗り込んでしまった。
マズイ! せめて足止めだけでも……!
俺はそう思ってより一層両腕に力を込める!
その時だった。
「バン! 見ろ!」
ハヤトが叫んだ! ヘリの内部を指差している。
何事かと目を凝らして見ると、幹部の一人がこちらに向かってロケットランチャーを構えているではないか!
これはヤバい……。いくらセルガイアがあってもそんなもの撃たれたら防ぎようがないぞ。
そう考えていると側にハヤトがやってきた。そして俺の肩を掴みながら矢継ぎ早にこう言ってきた。
「おいバン。『サトミを助ける』っていう目的はひとまず達したんだ、俺たちもサトミを連れて、ここは一旦引こう!」
確かにその通りだと思った。
だが、今ここでレイを……母を止めなければ、また多くの人間の命が奪われてしまうかもしれない。
俺はハヤトの言葉を押し退けて、再び両腕に力を込める。
そこで、俺はふと「あること」に気がついた。
そしてヘリがいる方向へと走り出す!
その時だった。ハヤトが叫ぶ。
「危ないっ!」
いよいよ幹部の一人によってロケットランチャーが発射されてしまったのだ!
つづく!
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