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新世紀陰陽伝セルガイア

第四十五話~灼熱の拳~

前回のおさらい

 バンはレイによって造られた人造人間だった。その事実にショックを受けるバンだったが、母であるレイの悪行を何としても食い止めたいという想いが沸き上がった。するとそこに、幹部が操縦する一機のヘリが近付いてくる。レイは逃げる気だ。バンとハヤトは応戦するが、ヘリのレイまで攻撃が届かない。バンはセルガイアの能力で両腕から高温を発し、ヘリの機器を熱暴走させようと考えた。しかし、それが叶う程の温度が出せずに頭を抱えるバン。その時! 幹部の一人が、バンたちに向けてロケットランチャーを発射するのだった!

第四十五話~灼熱の拳~

「危ない!」

 ハヤトが叫ぶ! 遂に幹部の一人がこちらに向かってロケットランチャーを発射したのだ!

 たが、俺は逃げることなくヘリに向かって走り出す!

「馬鹿! 逃げろバン!」

 ハヤトの呼び掛けを無視して疾走する!

 そしてついに! 凄まじい爆音が鳴り響きロケット弾が着弾した!

「バーーーーーーン!!」

 キーンという耳鳴りの隙間からハヤトの叫び声が聞こえた。

 ヘリポートに爆煙が立ち上る……。

 僅かな静寂の後、俺は消えゆく煙の中で立ち上がる。

 俺は間一髪で弾を避け、ヘリポートの隅に見つけた「鳥の巣」を保護したのだ。

 バンは身を屈めながら、巣に残されていた卵に傷一つ付いていないことを確認すると安堵のため息をつく。

 そう、俺はこのために、あえてヘリの方へと走ったのだ。


 するとそこへハヤトが駆けつけ、俺の方へ身を寄せてきた。
「バン……お前まさかこの為に?」
「あぁ。間に合って良かった……」
 俺のその一言を聞くと、ハヤトは立ち上がりこう言った。
「バン。俺はずっとお前のことを勘違いしてた。『命の重さも分からない奴』なんて言って悪かったな……」
「ハヤト……」
 まさかハヤトの口から「悪かったな」なんて聞く日がくるなんて……。俺はこのとき、ハヤトと出会って初めて、ようやく心が通じ会った気がした。
「バン。ここは俺がやる。サトミを守って下がってろ……」
 そしてハヤトはそう言うと、真剣な表情でヘリの方へと向かって走り出した。
 何か策でもあるのだろうか?
 ここは言われた通りにハヤトに任せ、サトミを介抱しに向かおう。そう思った時だった。
 幹部の一人がハヤトに向かって再びロケットランチャーを放ったのだ!
 一発! 二発!
 次々に放たれるロケット弾!
 立ち上る爆煙!
 だが、ハヤトは減速の能力を使っているのだろう、凄まじいスピードでそれを避けて行った!
 ところがだった……。
 三発目が放たれた丁度そのとき、能力の発動時間が切れたのか、ロケット弾はハヤトの真横に着弾してしまった!
「ぐはあぁっ!」
「ハヤトーーーー!!」
 爆炎に身を焼かれ、吹き飛ばされるハヤト! 地面に体を打ち付けてゴロゴロと転がっていく。
「ハヤト!」
 俺はハヤトに駆け寄った。
「ハヤト! ハヤト大丈夫か!?」
 倒れるハヤトの身体を抱き抱える。
「バ…バン……」
 目を反らしたかった。ハヤトの右半身が焼けただれ、しゃべることも、呼吸をするのもやっとの状態と思われた……。
「ハヤト! しっかりしろ!」
 俺はハヤトのその状態を信じたくなかった。このままでは死んでしまう……。そしてそうなれば、いよいよ今度こそ蘇ることはできないのだ。
「バン……すまない……。俺はここまでみたいだ……」

「バカ野郎! 諦めるな!」
「いや……俺はもう助からない……」
 ハヤトはヒューヒューという声にならない声で、俺に心の内を伝えてくる。

「バン……頼む……。もうお前しかいない……。レイの野望を止めてくれ……。お前を……信じてる……」
 そしてハヤトはゆっくりと息を引き取った……。
「ハヤト……ハヤトぉぉぉぉぉおおおお!!」
 ようやく分かり会えたと思ったのに……! 良き友になれるかと思ったのに……!
 俺は沸き上がる怒りと悲しみの感情に身を委ねるように、ヘリに向かって両手を伸ばす!
「レイぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!」
 凄まじい力が沸き上がる。
 全身が赤熱し、大気が歪む!
「何だ!? この輝きは!?」
 赤熱する俺の身体を見たレイが驚きの声を上げている。
 あまりの熱さに素早く扉を閉めたレイだったが、俺の灼熱の拳はついにヘリの装甲に影響を与え始めた!
 要所要所が融解を始め、飛行が安定していない!
 このままいけばヘリは墜落するはず!
 俺は更に全身に力を込めた!
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
 すると、レイはあまりの熱さに顔を歪めながら再びヘリの扉を開け、そしてこちらに手伸ばしてきた!
 その瞬間だった!
「お母さん!」
 サトミの声。 
 そうだ、いくら悪事を企んだ人間とは言え、レイはサトミの……そして俺の母なのだ……。
 邪眼さえ破壊できればレイの野望は阻止できる!
 命までは奪う必要はない。そう思った。 
 俺はここで能力の行使を止め、レイに向かって背中に忍ばせていたマジックアームを伸ばした!
 レイもその気持ちを察したのか、バンに向かって鞭を伸ばしてきた……。
 あと僅か……鞭とマジックアームが触れ合うと思われたその刹那!
 ガキンという鈍い音がして、ヘリのプロペラが機体から断裂した! 俺の能力で脆くなっていたのだろう。
 そしてプロペラはあろうことかサトミに向かって、回転ノコギリの様に飛んでいく!
「さ、サトミさん!」
 俺は咄嗟にサトミのいる場所に駆けつけ、彼女の身体を抱き抱えた!
 …………!!
 間一髪だった。 
 プロペラは、サトミを抱える俺の背後をかするように通りすぎ、ビルの下へと落下していった。
 そして、レイを乗せたヘリも地上へと落下する。
 辺りに爆音が轟き、辺りの夜空が赤く染まった……。

 俺はビルの縁まで駆けて行った。
 そこから下を見下ろすと、ヘリは炎上しながら黒煙を吹き上げていた。 
 そして、街中を徘徊していた信者たちは洗脳が解けた様子で不思議そうにキョロキョロと辺りを見回していた。
 戦いは終わったのだ……。
 だが、俺はレイの命を、ハヤトの命を救うことはできなかった……。
 世界は救えたのかもしれない……。
 しかし手放しでは喜べない……。
 今、俺の心に日は差していなかった……。
 足取り重く、眉を下げながら、屋上の隅で壁にもたれて座り込んでいるサトミの側へと近づいて行く……。
「サトミさん……」
 レイの命を救えなかった自分が申し訳なく、不甲斐なく思った。
 サトミにその想いを伝えたい……。
 しかしきっとまたしどろもどろになってしまうだろう。
 俺は、ハヤトから受け取った「力転符」をポケットから取り出すと、暫くそれを見つめた……。
 これを使えば……。
 だが、俺はそれを手のひらで丸めると再びポケットにしまった。
 そして拳を握りしめると、意を決してサトミに直接話しかけた。
「……サトミさん。無事で良かった……。でも……やっぱり俺には無理だ! 俺は、この力があれば、君や誰かのことを守れるんじゃないか……そう思ったんだ……。だけど、それどころか、結局俺は君の母さんやハヤトの命を守れなかった! すまない! 本当にすまない! ……こんな俺じゃ、これから先もきっとまた君に守られてばかりになるんだろうな……」
「大道寺君……」
「俺は、俺は本当は君のことが――! ……だけど、俺にはここから先を言える資格なんてないんだよな……。それでも、これだけは言わせて欲しい……。本当に無事で良かった……。どうか、どうかこれから先、幸せになってほしい……」
「大道寺君……」
 それを聞いたサトミは、涙をこぼしながら俺に向かって飛び付いてきた。
「いいの……ありがとう。大道寺君」
 俺はサトミに強く抱きしめられる……。

 やりきれない想いに、俺も涙が溢れてきた。



 ……すると突然、後方からパチパチと、何者かの拍手が響いてきた。
 俺は何事かと思い振り返る。
「……はっ、ハヤト!?」 
 何とハヤトが、悠然と両手を叩いて佇んでいるではないか!
「バン! 良くやったありがとう! レイの命は救えなかったのは残念だが、お前はサトミを、世界を救ったんだ!」
「いや、ちょっと待て! お前死んだんじゃ!?」
「ははっ、さっきのあれはな、俺の『幻影』だよ」
 ハヤトは口の端を上げながら、片手に挟んだ人型の御札をピラピラと揺らて見せつけてきた。
 あれはハヤトの陰陽術だったのだ!
「ハヤト! おまっ! 余計なこと思わせやがって!」
 俺は涙声でハヤトを軽く小突いた。
「お? 本当に余計だったか? お前、あの方が力入ったろ?」
 あれは、ハヤトが俺の感情を高ぶらせ、能力を底上げするための演出だったのだ。
 ……良かった! 心底安堵した!
「この野郎っ!」
 俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔を両手で拭うと、満面の笑みを浮かべながらハヤトに抱きついた。
「……なあバン」
「何だハヤト?」
「お前に頼みがあるんだ」
「何だよ」
「これから先、お前の力を貸してくれないか? 今まで俺が隠れてやってきた心霊探偵業を、一緒にやっていってほしいんだ」
「お、俺が? お前と一緒に?」
「ああ。今までお前を毛嫌いしてて悪かった。でも、お前のメカニックの技術と『セルガイア』の力があればきっと心強いだろう」
「ハヤト……」
「それに、一度一緒にあの世を見た仲だしな」
 ハヤトはそう言うと、ニヤリと笑いながら右手を差し出してきた。
「バン……。よろしく頼めるか?」
 その言葉に、俺も右手を差し出しこう答えた。
「ああ! 俺で良ければ、よろしく頼む!」
 俺はハヤトの手を強く握り返した。
 こうしてここに、ナイトメア・バスターズが誕生したのである……。

 ◆

「そんなことがあったんですね……」
 車中でバンさんの話に聞き入っていた僕は、正直なところあまりの情報量の多さに頭の処理が追い付いていなかった。
「そうだエン。これが世に言う『幸愛会による集団殺人事件』の全貌だ」
 バンさんはそう言ったけど、僕にはそんな事件聞き覚えがない。
「『幸愛会による集団殺人事件』……?」
「ああ、たまにニュースで特集が組まれたりしてるだろ?」
「いや、僕ん家テレビ無くて……」
「おっと、そうだったな」
「しかし二人は一度死んでて、バンさんも白毫使いだったなんて」
「ああ、だが俺はハヤトと違って修行を重ねたわけじゃないからなんだろうな。自分の都合で開眼させるのが難しいんだよ」
「そうだったんですね。あと、まさかバンさんが『人造人間』だったなんて……」
「ああ、それに関しては俺も未だに驚きだ」
「ですよねぇ……」
 そこまで話すと、僕はあることに気がついた。
「あれ? ちょっと待ってください? 幸愛会のことと、バスターズ結成の話しは分かりましたが、肝心の『ミタライ』の話が一個も出てきませんでしたよ!?」
 それに対して再びバンさんが答える。
「ああ。確かにそうだが、奴を語る上では幸愛会の話はしておかないといけなかったからな」
「そうなんですね」
「奴と俺たちの間に直接の因縁が生まれたのは、それからずっと後の話。去年起きた『大地震』の時に始まったんだ」
「あ! もしかして、僕が大事にしてたオカルティカに載ってた、オオナマズを退治した時の話ですか?」
「その通りだ。だがあれには雑誌に載っていない……つまりお前が知らない裏話があるんだよ」
 そこまで聞いた僕は身を乗り出して、バンさんの言葉を遮るように興奮しながら言葉を返した。
「聞きたいです!! もう今すぐ聞かせて下さい!!」
「ははっ。分かったよ。だが、この話はハヤトの方が詳しいんじゃないか?」
 バンさんはそう言うと、運転席から助手席のハヤトさんに向かって視線を送った。
「ああ、そうだな。ここから先は俺が話そう」
 ハヤトさんは腕組みしながらそう言うと、神妙な面持ちで、今度はバンさんに代わって語り始めた……。

つづく

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