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新世紀陰陽伝セルガイア

NEW第四十八話~有識者の知恵~

前回のおさらい

 震災によって大地から出現した謎の巨塔。そこから発せられる只ならぬ邪気を感じ取ったハヤトは、「地震の謎が塔に隠されている」というバンの最期の言葉を信じてそこに登る。内部では小型の魔物の群に襲われるも、なんとか全て倒しきり、塔の最上階へとたどり着いた。最上階の部屋は仕掛け扉になっていた。この謎を解き、ハヤトは中へと侵入。すると、突然背後から一人の男が現れる。その男は「歴史学者の御手洗信次(みたらいしんじ)」と名乗り、ハヤトに対し「この場にたどり着ける白毫使いを、ずっと待っていた」と伝えるのだった……。


第四十八話~有識者の知恵~


「いやー。ずっと待ってましたよ。この塔を登り詰め、この扉を開けられる者が現れるのを……感謝しますよ。白毫使い殿……」
 ミタライと名乗る男は、白毫使い、つまりセルガイアのことを知っている様子だった。
「お前、なぜ白毫使いを……?」
「そりゃー伝説や伝承に詳しい歴史学者ですからねぇ。それぐらいのこと当然ですよ」
「そうなのか……」
「ところであなた、この塔の謎を探りに来たんでしょ? 此度の震災の原因を究明しようと……」
 その通りだ。そこまでお見通しか。本当に何者なのだろうこの男。
「ああ、そうだ」
「でしたら話が早い! 是非ともわたくしに、いや、この震災をこれ以上引き起こさないために力を貸してください! わたくしはこの塔について……いや、今回の地震について色々と知っているのですよ!」
「何だって!?」
 通常の文献には一切載っていないような、白毫使いの事も知っているぐらいだ。ミタライの言っていることは本当なのかもしれない。だとしたら、ひとまず話しは聞いてみる価値があるのではないだろうか……。
 俺はミタライの言葉に耳を傾けた。
「いいですか? まずはこの絵を見てください!」
 ミタライはいちいち大袈裟な動きで語りかけてくる。
「こ、これは……」
 俺は、先ほどまでミタライが見ていた薬師如来の像の膝元にあった、大きな一枚絵の前に案内される。
 するとそこには、大きな日本地図と、その背景に巨大なナマズの絵が描かれていた。
「凄いでしょ!? あなたのおかげでこの絵を発見できたのです! 今回の地震の元凶はね、かつてタケミカヅチの神に封印されたとされている、このオオナマズなんですよ!」
「何だって!?」
 驚いた。まさかそんなおとぎ話じみたことが本当にあるのだろうか……。
 いや、自分に宿っているセルガイアだって十分おとぎ話みたいなものだ。このまま信じて話を聞いてみよう。
「いいですか!? このオオナマズは、この国を海の底に沈没させる程の力を持った巨大な魔物なのです!」
 魔物か……。普通の人間なら存在すら信じられないであろうその単語をもさらっと口にした。
 いよいよこの男何者なのだろう。しかし、そこまで知っているのならやはり信じられそうだ。
「神が人類に怒りを露にしているのか。はたまた自然の成り行きなのか。理由は分かりません……。しかし、その元凶が今、本格的に目覚めようとしているのです!」
「目覚めようとって……まさか、あの地震で目覚めた訳じゃないのか!?」
「ええ。あれは余震に過ぎませんよ」
「何だって!? あれが……余震!?」
 二万人以上の被災者を出したあの地震が、余震だって!? 俺はめまいを覚えて狼狽えた。
「だからこそ、このオオナマズを何としても滅ぼさなければ、この国は滅んでしまうのですよ!」
 いよいよ一大事だ。どうやら俺は、織戸零との一件以来、久々に大きな危機に直面していたようだ。
「しかし、わたくしの予想は当たりました! 白毫使いであるあなたがここに現れた! だからこそこの地図を発見することができたのですよ!」
 ミタライは地図を指差し大きく喜びを露にした。
 しかし、このオオナマズの描かれた地図に重要な意味があるのだろうか……。確かに、この塔に仕掛け付きの扉まで施し厳重に保管されていたとは言え……。
「いいですか! この地図にはこのオオナマズが封印されている場所が描かれているのです!」
 そういう事か。
「ここですよここ! いやーようやく分かりました! 千葉県! 香取神宮!」
 ミタライは地図に描かれた赤い丸印を指差し、相当喜んでいる。しかし、かなりの有識者と思われる彼でも、オオナマズの居場所は今まで分からなかったのだろうか。それに、オオナマズは震源地にいるのではないのだろうか……?
「まだ目覚めていないオオナマズは、居場所を突き止められぬよう、自身が封印されている場所から地脈を伝って今回の地震を発生させました。地震の元凶がオオナマズであることは突き止めたのですが、その居場所までは分からなかった」
 なるほど……。
「それに、オオナマズの封印に使われたとされる『要石(かなめいし)』がある場所は全国に四ヵ所。その内のどれがオオナマズ封印の地であるか、あらゆる文献を読んでも特定することができずにいたのです」
 そういうことか……。だんだんと話が見えてきた気がする。だからこそ、この部屋、この地図は重要だったのだ。
「ええ。しかし、魔物を倒し、仕掛けを開き、ここへたどり着けるのは『限られた白毫使い』のみ。それを知ったわたくしは、数日間粘って、その人物が現れるのを待ったのです」
 そうか。それが俺だったと……。
「愛ゆえの粘り勝ちです! こうしてアナタは現れた! ありがとう! ありがとう!」
 ミタライは物凄い圧力でブンブンと握手をしてきた。やはりその圧には若干引いてしまうのだが……この男のおかげで成すべきことが見えてきた。
 この塔はオオナマズを倒せる者、白毫使いを待っていた。つまり今回はこの、「オオナマズを倒すこと」が最大の目的なのだ!
「どうかわたくしに力を貸していただけませんか!? オオナマズを打ち倒し、この国を救っていただけませんか!?」
「ああ、もちろんだ!」
 ハヤトは二つ返事でそう答えた。そして、
「俺の名は宝蔵院隼斗(ほうぞういんはやと)。よろしく頼む」
 そう言って強く手を握り返した。

 ここでミタライが再び語りかけてきた。
 曰く、オオナマズを倒すには、セルガイアの武器ではなく「布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)」と呼ばれる霊剣が必要とのこと。
 聞いたことがある。神話に登場する霊剣だ。それが本当に存在しているらしい。
 そしてそれを扱えるのもまた白毫使いだけ。だからこそ俺の力を借りたいようだ。
 しかし、その在り処が分からないという……。
 それなら、もしかしたら「あの人物」なら、何か知っているかもしれない。俺には心当たりがある。
 俺はその人物の元へと向かうため、ミタライをバイクの後ろに股がらせるとエンジンを轟かせた……。
 
 日が落ち暗くなる頃、着いたのは鎌倉市にある八雲神社だった。

 「あの人物」とはヤクモのことだ。
 俺はナイトメアバスターズとして活躍するようになってから、この神社の女神主であるヤクモと知り合い、事ある毎に彼女を頼りにしていた。
 境内で俺とミタライを出迎えるヤクモ。
「よう来たの。分かっておる、此度の震災の事じゃろ? まあ上がりなさい」
 流石はヤクモ、話が早そうだ。
 俺は境内の一室に腰掛け、出されたお茶を啜りながら、これまでの経緯とミタライのことを紹介した。
 バンが亡くなったことを残念がるヤクモ。やはり彼女も、バンの死に際の訴えに応えて欲しいと頭を下げてきた。
 もちろんそのつもりだ。
 だが、ミタライに教えられた布都御魂剣のありかが分からないのだ。
 ミタライはもの凄い勢いでヤクモに対し、「何か知りませんか!?」と、至近距離に顔を近づけながらそう訪ねた。
 ヤクモが若干引いているのがひしひしと伝わってきたが、こんな答えが返ってきた。
「ああ、知っておるよ」
「本当ですか!? 教えて下さい! 今すぐに!」
 ミタライは鼻息の音が聞こえてきそうな程に興奮している様子だった。
「お、おぉ。……それはな、世界最古の白毫神器じゃよ」
 ヤクモは困った表情で、額に汗を一筋滴しながらそう言った。
「世界最古の神器だって?」
 まさか、そんな物が存在しているのか!?
「そうじゃ。白毫使いの始祖と言える人物が用いておった神器のことじゃ。うむ、ちょうど良い機会じゃ。オヌシたちにその霊剣のこと、そして白毫使いの成り立ちについて教えてやろうではないか」
 霊剣についてのみならず、俺たち白毫使いの始祖まで知れるとはありがたい。大いに語っていただこう。
 こうして、ヤクモは神妙な面持ちで語り始めた。
 
「布都御魂剣。またの名を直刀黒漆平文大刀拵(ちょくとうくろうるしひょうもんたちこしらえ)。日本神話に登場する、3m程の長さを誇る霊剣じゃ。そして、それは実在する……」
 ヤクモ曰く、遥か昔、神話の時代、この世界は混沌に満ちていたらしい。
 魔物が蹂躙するその世界で、人間たちは縮こまって細々と暮らしていたそうだ。
 しかしあるとき、一人のマレビトが現れた。
 マレビトとは何らかの代償と引き換えに特殊能力が使える人間のことだ。
 その者は「己の記憶と引き換えに、書き記したことが現実になる」という能力を持っていた。
 そしてその者は魔物を滅ぼすため、あることを紙に書き記した。
 それは、『神話の世界から猛き者、「タケミカヅチノカミ」が現れて魔物を一掃する』というものだった。
 すると、タケミカヅチノカミは本当に現れた。
 そして手にした神刀を用いて魔物たちを切り裂いていった。
 オオナマズを含め数々の魔物を討伐していったタケミカヅチは、葦原中国、つまり今の日本を平定した。
 しかし、最後の魔物を倒す頃にはタケミカヅチも大いに傷つき、この世界に身を留めることが困難となっていた。
 そこでタケミカヅチは人々に対し、「相応しき者現れしとき、その者に我が力と武器を授けよう。我はこの武器を光に変え、大地に与えこの地を去らん」、そう言い残し姿を消していった……。
 やがて時が経ち、神武天皇が天下平定のため高千穂から東征の旅に出た。
 ある時、大阪での戦いで大きな被害を受けた一行は進路を南へと変え、「熊野の村」へと辿り着く。
 そこで、「熊野の荒ぶる神」と呼ばれていた巨大な熊型の魔物と遭遇。
 一行はその邪気に当てられ、気を失って倒れてしまう。
 すると熊野のタカクラジという男がやって来て、神武天皇に「光の玉」を差し出した。
 神武天皇がその「光の玉」について訪ねると、タカクラジは「不思議な夢を見た」のだと言う。
「その夢とはこうです。アマテラスオオミカミとタカギノカミがタケミカヅチを呼び出し『葦原中国が騒がしく我が御子達が苦しんでいるから、葦原中国を平定したなんじが降りて助けてあげなさい』と仰います。するとタケミカヅチノカミは『自分が降りずともその国を平定した剣の分御霊(わけみたま)さえあれば事足ります』とお答えになる。そして『タカクラジの倉にその分御霊を大地より顕現させるので、目が覚めたら倉にある光の玉を神武天皇の元へと運びなさい』と天啓を受けました。そしてその通り早朝目覚めて倉に向かうと、その夢のお告げの通りに『光の玉』があったのです」
 タカクラジはそう語った。
 その言葉を信じた神武天皇が光の玉を受け取ると、それは神武天皇の口の中へと飛び込んだ。
 すると、額には黄金に輝く第三の眼が出現し、手にはこれまた黄金に輝く長刀が握られていた。
 世界最古の白毫使いの誕生である。
 そしてその長刀こそが、布都御魂剣なのである。
 神武天皇はその力と霊剣を用いて熊型の魔物を一刀両断叩き斬る。
 邪気に当てられた一行もみるみる正気を取り戻し、再び神武天皇は旅を続けることができるようになったのだ。
 その後、神武天皇は東へと進みながら、次々と迫り来る魔物を討伐していった。
 そして天下を治め、神武天皇は初代天皇となったのだという……。

「これが、セルガイアの成り立ちと、布都御霊剣の経緯か……」
 深く聞き入っていた俺は、よく理解して頷いた。
「そうじゃ。そして神武天皇の死後、彼の白毫神器である布都御霊剣は、強大な霊力によりその形を留めたまま、ある場所へと奉納されたのじゃ」
「ど、どこなんですそれは!?」
 ミタライが前のめりに質問する。
「それはな、茨城県、鹿島神宮じゃよ」
「鹿島神宮ですって!?」
 その場所を聞いたミタライは、意外そうな表情でそう言った。
「そこにあるのは知っていますが、あれはレプリカなのではないですか!?」
「おぉ、よく知っておるのぉ。確かに、あそこで一般開放されている布都御霊はレプリカじゃ。しかし、本物もまたあの場所に眠っておるのじゃよ」
「そうなんですね!」
 これで、オオナマズを倒すための武器の在り処が判明した。
 しかしもう夜遅い。
 俺はミタライと共に、この八雲神社で一泊させて貰うことにした。夜が明けたら出発だ。
 目指すは茨城県、「鹿島神宮」――。

つづく

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