Now Loading...
新世紀陰陽伝セルガイア

第十八話~冥界の踏切り~

前回のおさらい
 
 いつものように陰陽庵へと訪れるエン。その入り口で郵便局員からナイトメア・バスターズ宛の手紙を受け取ると、そこにはエンが想いを寄せるクラスメイト“夜野鈴音”の名が……。そして、それは紛れもなくバスターズへの依頼の手紙であった。慌てて店内へと駆け込むエンが目にしたのは、戦いで傷ついたハヤトの姿だった。こうしてエンはバンと二人、手紙の依頼現場へと向かうことになった。手紙にはバスターズが長年追いかけてきた悪の宗教団体『織戸幸愛会(おりとこうあいかい)』の文字が書かれていた……。


第十八話~冥界の踏切り~


◆数カ月前 JR横浜線 矢部駅踏切り
 
 カーンカーンカーン…
 
 踏み切りに電車が迫る……。
 終電間際、二つの遮断機がゆっくりとそのバーを降ろす中、線路内に立ち尽くした一人の女性は微動だにせずそこにいた……。
 暫く経ち、いよいよその女性の存在に気が付く人間が現れた。その人物は女性の危険を察知し、咄嗟に列車の緊急停止ボタンを押す! 女性の目前まで迫る列車がブレーキをかけ減速する!
 
 ……しかし、時すでに遅かった。次の瞬間、鈍い音を立て列車は女性を跳ね飛ばし、辺りに悲鳴が木霊した……。
 
 そしてその現場付近にいた一人の男が突如にやりとほくそ笑んだかと思うと、踵を返してその場から姿を消して行った。その男の首にはぐるりと一周『赤い傷』があった……。

◆現在 ブルバイソン・車内 
 
 スズネからの手紙に書かれていた、“音信不通となっている親戚”の住所を目指し車を回すバン。初めて憧れのバスターズの車・ブルバイソンの助手席に座ることができたエンは密かに大興奮し、呼吸も鼻息交りだった……。
 暫くして、手紙に書かれていた現地に近づいてきた頃、エンはバンに対しある質問を投げかけた。

「ところでバンさん……。『織戸幸愛会』って何なんですか……?」
 
 バンはその質問に対しおもむろに険しい表情を浮かべると、その質問に返答し始めた。
 
 『織戸幸愛会』。それは、『愛』をテーマに掲げた新興宗教団体である。一時期テレビでも取り上げられるほどのカリスマ教祖だった『織戸零(おりとれい)』を筆頭に、全国規模で広まった人気の宗教団体だった。

「え? そんなに人気だったんですか? ……でもそんな団体初めて知りました……」

「ああ、お前が生まれるずっと前に解体されているからな……俺たちが『織戸零』を倒した為に……」

「え!?」

 あまりの衝撃に言葉を失うエン。そんな彼をよそに再びバンが語り始めた。

「『愛』をテーマにした人気宗教団体……。そんなもんは表向きだった……。ヤツらの裏の顔は、『蘆屋道満』復活を目論む悪の秘密結社だったんだ」

「えぇっ!? 蘆屋道満!? ……あの伝説の陰陽師、安倍晴明のライバルだったって言われてる、あの……?」

「そうだ……」
 
 陰陽師に詳しいエンは昔から、バンの口からでた蘆屋道満のという名を知っていた。しかし、まさかその人物を復活させようともくろむ秘密結社が存在するなどとは、つゆとも思っていなかった。

「お前も知ってると思うが、史実にも謳われている通り蘆屋道満は悪の陰陽師だった……。そして平安時代に魔物の軍勢を率いて世界を我が物にしようと暗躍したらしい……」

「え? 世界を我が物にって……。僕、そんな話は知らないです……」

「そうだろうな……そんな記録は表立っては残っていないからな……」

 自分の知らない陰陽師の裏の歴史がある……。エンはあまりの衝撃に言葉を詰まらせていた。

「織戸会の企みを知ったのは、俺たちがまだ高校生の頃……。同じクラスだったハヤトと幸愛会のセミナーに参加した時だった……」

「え!? 待ってください! 二人ってクラスメイトだったんですか!?」

「まぁ腐れ縁ってやつだ。とにかく俺たちはその現場で組織の企みを知り、道満に関する真実を知ったんだ。そしてその時、セルガイアの力と出会ったんだ」

「そうだったんですね……」

「しかし織戸零を倒した後、会は解体されたはずなんだ……」

「そっか……なら何でその名前が今?」

「あぁ、恐らくまだ『道満復活』を目論み暗躍している人間がいるんだろうな……。俺たちは時折流れてくる噂だけを頼りに、その計画を完全阻止するため長年活動してきたんだ」

「そうだったんですね……。でも、それなら今回の件でその組織に一歩近づけるかもしれませんね!」

「ああ! ……悪いがエン、今日はハヤトの代わりによろしく頼むよ」

「は、はい!」
 
 ひとしきり会話をしているといよいよ現場が目前にまで近づき、バンは車の速度を落としていった……。

◆現地 とあるアパート

 現地に到着し、車を止めるバン。

「よし、着いたぞ……」
 
 車から降りると、バンとエンは手紙に書かれていた住所へと向かい歩いた。
 現場はJR横浜線・矢部(やべ)駅付近にある、少し古めかしい木造アパートの1階だ。階段下の薄暗い扉が二人の到着をを待ち構えていた。
 バンは側に子どもがいると怪しまれると考え、エンには少し遠くで待つよう指示出した。そして静かにインターホンを鳴らした。

ピンポーン

 ……。しかし、中から物音が聞こえない。暫しの静寂が訪れた。住人はいないのか……。そう思われたが、バンは暫く扉の前で待機した。
 その様子を遠くから固唾をのんで見守るエン。だが、長時間反応がない……。エンは少し待つことに疲れ、地面にしゃがみながらバンとその前の扉を眺めていた……。
 そして、バンがもう一度インターホンを押そうとしたその時だった。

ガチャリ……
 
 待ったかいがあった。その扉は開き、中から瘦せ型の男性が顔をのぞかせた……。

(やったぞ! バンさん頑張って!)

 エンは心の中でエールを送った。
 
 突然現れた見ず知らずの男を不信に思い、怪訝な表情を浮かべながらやせ形のその男性が口を開いた。

「どちら様です……?」
 
 出てきた男は恐らく30代後半と思われる。ボロボロの服を身にまとい、ツーンと鼻をつく悪臭を放っていた……。そんな男に対し、バンはしかめ面になるのを堪えて話しかけた。

「夜野鈴音に言われて来たんだ。少し話を……」

バタン!
 
 ところがバンがそう切り出した途端、勢いよく扉を閉められてしまった……。仕方なしに踵を返すと駐車場の砂利をザクザクと踏み鳴らしながら、バンはエンの元へと引き返した。

「ちょっとバンさん!?」

 すぐに引き返してきた彼に対し、慌てて声をかけるエン。ところがバンは落ち着きをはらってエンに切り返した。

「いや、大丈夫だ。これでいい。男の風貌だけじゃなく、戸の隙間から生活の片りんを垣間見ることができた……。エン、俺に考えがある」
 
 そう言うと、おもむろに財布を取り出すバン。きょとんとした顔で見つめるエンに対し、お金を手渡し指示を出す。

「よしエン、あいつが出てくるまで張り込みだ。コンビニでなんか買ってきてくれ」

「は、はい!」

 バンは男の部屋を覗いた瞬間、散乱したコンビニ弁当のゴミを目撃していた。おそらく自炊はしていない。必ず男は買い出しの為に家を出るタイミングがある。そう考え、その時が来るのを待ち構えることにしたのだった……。

◆付近のコンビニにて
 
 バンに言われた通りコンビニで買い出しをするエン。育ての親であるおばさんからお小遣いなど滅多に貰えないエンは、資金内でいかに好きなものを多く買えるか熟考しながら店内をうろついた。しかも、これからまるで探偵のようなことができるのかと思うと、何だかワクワクが止まらなかった。
 
 そして暫く買い物を楽しんだエンは店内を後にした。手にしたビニール袋には、結局大好物のお茶と煎餅がたくさん詰め込まれていた。

「さて、急いで戻らないと!」
 
 そう言うとバンの待つ車へとその足を急がせた……。
 その道中の出来事だった……。男のアパート付近の矢部駅にある踏切りが見えてきた頃、何やらその周辺が物々しい雰囲気に包まれていることを発見する。そこには消防車や救急車が停車し多くの人が押しかけていた。

(あれ?行く時には何もなかったのに……)
 
 エンはふいにその光景が気になり、現場で会話をしている数人のおばさん達に話しかけてみた……。

「あの……何があったんですか?」

「いやねぇ……この踏切りで“また”死亡事故ですって」

「え!?」

「しかもここ数カ月立て続けなのよ。もうこれで八人目よ!?」

「何ですって!?」
 
 エンは驚愕した。そして、再び内内の会話に戻るおばさんたちの口から出てきた言葉に対し、エンは更に驚愕した。

「しかし不思議よね~。また“幸愛会”の信者だったんですってよ……」

「不思議ねぇ……」

「え!? 幸愛会っ!?」
 
 この踏切りの人身事故と、織戸幸愛会とに繋がりがあることを察知したエンはその事実を伝えるため、バンの車へと急ぐのだった……。

つづく!

【第十七話へ】 【一覧へ】 【第十九話へ】