前回のおさらい
いつものように陰陽庵へと訪れるエン。その入り口で郵便局員からナイトメア・バスターズ宛の手紙を受け取ると、そこにはエンが想いを寄せるクラスメイト“夜野鈴音”の名が…。そして、それは紛れもなくバスターズへの依頼の手紙であった。慌てて店内へと駆け込むエンが目にしたのは、戦いで傷ついたハヤトの姿が…。こうしてエンはバンと二人、手紙の依頼現場へと向かうことになった。手紙にはバスターズが長年追いかけてきた秘密結社“織戸幸愛会(おりとこうあいかい)”の文字があった…。
◆数カ月前 JR横浜線 矢部駅踏切り
カーンカーンカーン…
電車が迫る…。
終電間際、二つの遮断機がゆっくりとバーを降ろす中、線路内に立ち尽くした一人の女性は微動だにしなかった…。
ついにその女性の存在に気が付いた人間がとっさに列車の緊急停止ボタンを押す!女性の目前まで迫る列車がブレーキをかけ減速する!
…しかし、時すでに遅し。次の瞬間鈍い音を立て列車は女性を跳ね飛ばし、辺りに悲鳴が木霊した…。
付近にいた男がにやりと笑うと姿を消した…。その男の首には“赤い傷”があった…。
◆現在 ナイトメアバスターズ車内
スズネからの手紙に書かれていた、“音信不通となっている親戚”の住所を目指し車を回すバン。初めて憧れのバスターズの車の助手席に座ることができたエンは密かに大興奮し、呼吸も鼻息交じりだ…。そして、現地も近づいてきた頃、エンはバンに対しある質問を投げかけた。
エン 「ところでバンさん…。“織戸幸愛会”って何ですか…?」
バンはその質問に対しおもむろに険しい表情を浮かべると、その質問に答えた。
“織戸幸愛会”それは、『愛』をテーマに掲げた新興宗教団体。一時期、テレビでも取り上げられるほどのカリスマ教祖だった“織戸零(おりとれい)”を筆頭に全国規模で広まった人気宗教団体だった。
エン 「え?そんなに人気だったんですか?…そんな団体初めて知りました…。」
バン 「ああ、お前が生まれる前に解体されているからな…俺たちが“織戸零”を倒したために…。」
エン「!?」
あまりの衝撃に言葉を失うエン。それをしり目に再びバンが語り始めた。
バン 「『愛』をテーマにした人気宗教団体…。そんなもんは表向きだった…。ヤツらの裏の顔は、『蘆屋道満』復活を目論む悪の秘密結社だった。」
エン 「!?蘆屋道満!!…安倍晴明のライバルだったって言われてる…あの…?」
バン 「そうだ…。」
陰陽師に詳しいエンは、昔から道満の存在を知っていた。しかし、まさかその人物を復活させようともくろむ秘密結社が存在しようとはつゆとも思っていなかった。
バン 「お前も知っていると思うが、史実にも謳われている通り蘆屋道満は悪の陰陽師だった…。平安時代に魔物の軍勢を率いて世界を我が物にしようと暗躍したらしい…。」
エン 「え?…世界を我が物にって…そこまでは知らない…。」
バン 「そうだろうな…そんな記録は残っていないからな…。」
エン 「…。」
バン 「織戸会のたくらみを知ったのは俺たちがまだ高校生の頃…。同じクラスだったハヤトとセミナーに参加した時だった…。」
エン 「え!?2人ってクラスメイトだったんだ!」
バン 「腐れ縁ってやつだ。とにかく俺たちはその現場でたくらみを知り、道満に関する真実を知った。そしてその時、セルガイアが覚醒したんだ…。」
エン 「そうだったんだ…。」
バン 「しかし織戸零を倒した後、会は解体されたはずなんだ…。」
エン 「そっか…ならなぜその名前が今…?」
バン 「あぁ、恐らくまだ『道満復活』を目論み暗躍している人間がいるんだろう…。俺たちは時折流れてくる噂だけを頼りに、その計画を完全阻止するために長年活動してきたんだ。」
エン 「…そうだったんだ…。でも、それなら今回の件で一歩近づけるかもしれませんね!」
バン 「ああ!…悪いがエン、今日はハヤトの代わりによろしく頼むよ…。」
エン 「はい!」
ひとしきり会話をしているといよいよ現場が近づき、バンは車の速度を落とした…。
◆現地 アパート
バタン!
バン 「よし、着いたぞ…。」
車から降りると、二人はその住所へと歩き向かった。現場はJR横浜線・矢部駅付近にある少し古めかしい木造アパートの1階。階段したの薄暗い扉が、2人を待ち構えていた。
バンは付き添いに子どもがいると怪しまれると考えエンに少し遠くで待つよう指示すると、静かにインターホンを鳴らした。
……。
暫しの静寂が訪れた。住人はいないのか…。そう思われるも、バンは暫く扉の前で待機した。その様子を遠くから固唾をのんで見守るエン。だが、あまりに反応がないため、地面にしゃがみながらバンとその前の扉を眺めた…。そして、バンがもう一度インターホンを押そうとしたその時だった。
ガチャリ…。
扉が開き、瘦せ型の男性が顔をのぞかせた…。
エン 「(やった!バンさん頑張って!)」
エンは心の中でエールを送る。
男 「どちら様です…?」
出てきた男は恐らく30代後半と思われる。ボロボロの服を身にまとい、鼻をつく悪臭を放っていた…。そんな男に対し、バンはしかめ面になるのを堪えて話しかけた。
バン 「夜野鈴音に言われて来たんだ。少し話を…。」
バタン!
しかし、バンが切り出した途端勢いよく扉を閉められてしまった…。仕方なしに踵を返すと、駐車場の砂利をザクザクと踏み鳴らしながらとエンの元へと引き返すバン。
エン 「ちょっとバンさん!」
直ぐに引き返してきた彼に対し、慌てて声をかけるエン。ところがバンは落ち着きをはらってエンに切り返した。
バン 「いや、大丈夫だ。男の風貌だけじゃなく、戸の隙間から生活の片りんを垣間見ることができた…。エン、俺に考えがある…。」
そう言うと、おもむろに財布を取り出すバン。きょとんとした顔で見つめるエンに対し、お金を手渡し指示を出す。
バン 「エン、あいつが出てくるまで張り込みだ。コンビニでなんか買ってきてくれ。」
エン 「は、はい!」
バンは、男の部屋をのぞいた瞬間、散乱したコンビニ弁当のごみを目撃していた。おそらく自炊はしていない。必ず男は買い出しの為に家を出るタイミングがある。そう考え、その時が来るのを待ち構えることにしたのだった…。
◆付近コンビニにて
バンに言われた通りコンビニで買い出しをするエン。普段おばさんからお小遣いなどもらえないエンは、資金内でいかに好きなものが買えるか熟考しながら店内をうろついた。しかも、これからまるで探偵のようなことができるのかと思うと、もうワクワクが止まらなかった。
そして暫く買い物を楽しんだエンは、店内を後にした。その手にしたビニール袋には、結局大好物のお茶と煎餅がたくさん詰め込まれていた。
エン 「さて、急いで戻らないと!」
そう言うと、バンの待つ車へと足を急がせた…。
その道中だった…。男の家付近の矢部駅にある踏切りが見えてきた頃、何やらその周辺が物々しい雰囲気に包まれていることを発見する。そこには消防車や救急車が止まり、多くの人が押しかけていた…。
エン 「(来たときは何もなかったのに…。)」
エンはふいにその光景が気になり、現場で会話をしているおばさんたちに話しかけてみた…。
エン 「あの…何があったんですか?」
おばさん 「いやねぇ…この踏切りでまた死亡事故ですって。」
エン 「え!?」
おばさん 「しかもここ数カ月立て続けなのよ。もうこれで8人目!」
エン 「何ですって!?」
エンは驚愕した。そして、再び内内の会話に戻るおばさんたちの口から出てきた言葉に対し、エンは更に驚愕した。
おばさん 「しかし不思議よね~。また“織戸会”の信者だったんですってよ…。」
エン 「!?」
この踏切りの人身事故と、織戸幸愛会とに繋がりがあることを察知したエンはその事実を伝えるため、すぐさまバンの待つ車へと駆けていくのだった…。
つづく!