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新世紀陰陽伝セルガイア

第十九話~踏切りからの声~

前回のおさらい
 戦闘不能状態のハヤトに代わり、バンと共に怪異が待ち受けるであろう現地に到着するエン。調査対象である男に接触を試みるも、バンを一目見るや否や家の扉を閉められてしまう。仕方なく男が家から出るまで張り込みをすることになる。その為の買い出しから戻るエンは、道中の踏切りで人身事故の現場に遭遇する。そこで地元住民の会話から、バスターズが長年足取りを追いかけてきたという“織戸幸愛会”なる宗教団体の名前を耳にするのだった…。

第十九話~踏切りからの声~

◆ブルバイソン・車中にて
 買い出しから戻ったエンはバンの待つ車に飛び乗ると、帰り道で遭遇した出来事をありのまま語った。バンはその話を冷静に聴いた後、エンに対して「よくやった」と呟いた。スズネからの依頼の手紙を読んだ時点で“幸愛会”が絡んだ事件になることは明白だった…。しかし、現場とは少し離れた場所にある踏切りの事故現場でその名前を口にする者が現れる事は想定外だった…。バンは早速エンを引き連れ、その踏切りへと向かおうと車のドアノブに手をかけた。
エン 「ちょっと待って!」
 と、エンがとっさにバンを呼び止めた。どうしたことかと尋ねるバン。どうやらエンは、張り込む人間が一時的にいなくなってしまうことを危惧したようだ。そんなエンに対し、バンは口の端をニヤリと傾けるとおもむろにポケットからスマホを取り出した…。
エン 「え?スマホって…。まさかハヤトさんに来てもらうんですか!?」
バン 「違うよ…。ははっ、まあ見てなって…。」
 そう言うとバンはスマホの画面にお札のような画像を表示させ、そこに向かって何やら印を刻み始めた…。すると突然!スマホの背面が膨らみ始めたかと思うと、それは可愛らしい二頭身の人型に変化したではないか!そしてスマホの画面に表示されているお札がちょうど顔に貼りつく形になっており、それはまるで“キョンシー”そっくりだ!
エン 「え!?バンさんこれって…!?」
バン 「ははは!これはな“デジタルキョンシー”!略して“デジキョン”だ!!」
エン 「デジキョン!!」
バン 「これは俺が開発してるデジタル法具の中でも最高傑作と言っても過言じゃない代物だぞ!」
 そう自慢げに語るバンの手の上で、デジキョンは楽しそうに蠢いている…。
エン 「これって!勝手に動くの!?」
バン 「そうだぞー。まあいうなれば、人口の式神みたいなもんだな。」
エン 「ちょっと!!バンさん凄すぎます!!」
 式神、それは陰陽師が使役したとされる使い魔のようなもの…。エンはもちろんその存在を知ってはいたが、それを自らの技術で生み出してしまうバンの能力に心底感動した!
バン 「って事で、しばらくの間コイツに見張りを頼むことにしよう。あの家から男が出てきたら、こっちのケータイに合図が来るように設定したからな。」
エン 「わ、わかりました!」
 そう言うとバンはデジキョンを車のダッシュボードの上に置いた…。こうすれば周りにはただのぬいぐるみにしか見えないだろう。そして二人は車を降り、現場の踏切りへと向かうのだった。
◆JR矢部駅踏切り
 二人が現場に着くと既に事故の処理は終わったようで、人もまばらになっていた。その光景を見たバンは「集中しやすくて都合がいいな」と呟くと、エンに踏切に向かって霊視をしてみるよう促した。霊感のないバンはハヤトがいない今、エンに頼むしかなかった。
 “集中しやすい”…。たしかにその通りだった。日常的に霊が見える体質のエンにとっては、人が多いとどれが霊であるか分かりずらいということもある。それにまだ昼ということもあり、集中して霊視をしないと見えずらい霊がいることも確かだった…。
 エンはバンに言われた通り、踏切内の霊視を試みた…。
エン 「……。」
 踏切り周辺に人影はない…。しかし、ここで確実に死亡事故が起きていることを知っているエン。おそらく潜んでいる霊たちがいるに違いない。その霊たちにわずかでも何か聞き込みをおこなうことができればと、エンは神経を研ぎ澄ませた…。
 すると、それから間もなくの事だった。踏切りの真ん中に、まるで夏の陽炎の様にぼんやりと、白い服を身にまとった大人の女性と思わしきシルエットが浮かんで見え始めた。
エン 「バンさん…見えてきました…。」
バン 「いいぞ…そのまま続けてくれ…。」 
 エンは更に神経を研ぎ澄ませると、その女性を注視した…。すると…。
『ダメ……』
『こ…な…で……』
 そんな訴えが聞こえ始めた。
エン 「な、なにか伝えたいことがあるんですね!?あなたは誰です!?ここで度々起きている事故について…それから“織戸幸愛会”について…何か知っていることはありませんか…?」
 そんなエンの問いかけに対し、再び女性が声を発し始めた…。
『ダメ…来ちゃ…けない…』
エン 「…え…?」
『来ないで……ヒデキ…』
『伝えて…』
『幸愛会を…信じちゃ…いけない』
エン 「え!?やっぱり、知ってるんですね!!」
 エンが女性から深く事情を聞き出そうと声を大きくすると、それに合わせるかのように突然女性も声を荒げ、その声はエンの脳内全体に響き渡った!
『ヒデキさん!!来ちゃダメ!!』
エン 「!?」
 そして、そう訴えると女性は姿を消してしまった…。
エン 「はぁ…はぁ…」
 動揺し息を切らすエンにバンが近づき、落ち着いた声で尋ねる。
バン 「エン、大丈夫か…。何かわかったか?」
 そんなバンに対し先ほどの女性からの訴えをありのまま話すエン。バンはその言葉を聞き推理を働かせると、「何となく全容が見えてきたぞ…」と言い放った。
バン 「おそらく俺たちが張り込む男がそのヒデキなんだろう…。」
エン 「!」
バン 「そしてエン…、お前が見たその女性の霊が、最近亡くなったっていうヒデキの婚約者だ…。」
エン 「!!」
バン 「“幸愛会”のねらいが何なのかは分からない…。しかし一刻も早く退会させないとあの男…近々命を落とすことになるかもしれない…。」
エン 「!!?」
 そして驚くエンに対し再び車に戻るように促した。
 デジキョンからの通信はない…。ということは男はまだ家から出ていないのだろう…。すでに日は傾き始めている。そしていよいよ、二人による張り込みが始まるのだった。

つづく