前回のおさらい
戦闘不能状態のハヤトに代わり、バンと共に依頼の手紙に書かれてあったアパート到着するエン。調査対象である男に接触を試みるも、バンを一目見るや否や家の扉を閉められてしまう。仕方なく男が家から出るまで張り込みをすることになる。その為の買い出しから戻るエンは、道中の踏切りで人身事故の現場に遭遇する。そこで地元住民の会話から、バスターズが長年足取りを追いかけてきたという“織戸幸愛会”なる悪の宗教団体の名前を耳にするのだった……。
◆ブルバイソン・車中にて
コンビニへの買い出しから戻ったエンはバンの待つ車に飛び乗ると、帰り道で遭遇した出来事をありのまま語った。バンは冷静にその話を聞いた後、エンに対して「よくやった」と呟いた。スズネからの依頼の手紙を読んだ時点で『幸愛会』が絡んだ事件である事は明白だった……。しかし、現場とは少し離れた場所にある踏切りの事故現場でその名を口にする者が現れる事は想定外だった。ますます『幸愛会』が絡んでいる事が濃厚になってきた……。
バンは早速エンを引き連れ、エンから話のあった踏切りへと向かうため車のドアノブに手をかけた。その時だった。
「ちょっと待ってください！」
エンが咄嗟にバンを引き止めた。どうしたことかと尋ねるバン。どうやらエンは、張り込む人間が一時的にいなくなってしまうことを危惧したようだった。そんなエンに対し、バンは口の端をニヤリと傾けるとおもむろにポケットからスマホを取り出した……。
「え？ スマホって……。 まさか怪我人のハヤトさんに来てもらうんですか!?」
「違うよ……。ははっ、まあ見てなって」
そう言うとバンはスマホの画面に何やらお札のような画像を表示させた。そしてそこに向かって指で印を刻み始めた……。すると突然！ スマホの背面が膨らみ始めたかと思うと、それは可愛らしい二頭身の人型に変化したではないか！ そしてスマホの画面に表示されているお札がちょうど顔に貼りつく形になっており、それはまるで『キョンシー』そっくりの形をしている。
「え!? バンさんこれって!?」
「ははは！ これはな『デジタルキョンシー』！ 略して『デジキョン』だ！」
「デジキョン!?」
「これは俺が開発しているデジタル法具の中でも最高傑作と言っても過言じゃない代物だぞ！」
そう自慢げに語るバンの手の上で、デジキョンはゆらゆらと首を揺らしながら楽げに蠢いている。
「これって！ 勝手に動くんですか!?」
「そうだぞ～。まあいうなれば、人造の式神みたいなもんだな」
「ちょっとバンさん！ 凄すぎます!!!!」
式神、それは陰陽師が使役したとされる使い魔のようなものである。エンはもちろんその存在を知ってはいたが、それを自らの技術で生み出してしまうバンの能力に心底感動した！
「さて。ってな事で、しばらくの間コイツに見張りを頼むことにしよう。あの家から男が出てきたらこっちのケータイに合図が来るように設定したからな」
「わ、わかりました！」
そう言うとバンはデジキョンを車のダッシュボードの上に置いた。こうすれば周りには只の“ぬいぐるみ”にしか見えないだろう。そして二人は車を降り、現場の踏切りへと向かうのだった……。
◆JR矢部駅・踏切り
二人が現場に着くと、既に事故の処理は終わった様子で人もまばらになっていた。その光景を見たバンは「集中しやすくて都合がいいな」と呟くと、エンに踏切に向かって霊視をしてみるよう促した。霊感のないバンはハヤトがいない今、エンに頼むしかなかったのだ。
“集中しやすい”。確かにその通りだった。日常的に霊が見える体質のエンにとっては、人が多いとどれが霊であるか分かりずらいということもある。それにまだ昼ということもあり、集中して霊視をしないと見えずらい霊がいることも確かだった……。
エンはバンに言われた通り、踏切内の霊視を試みた。
「……」
集中するエン……。眼前の踏切り周辺に人影は無い……。しかし、ここで確実に死亡事故が起きていることを知っているエン。おそらく潜んでいる霊たちがいるに違いない。その霊たちにわずかでも何か聞き込みをおこなうことができればと、エンは神経を研ぎ澄ませた…。
すると間もなくの事だった。踏切りの真ん中に、まるで夏の陽炎の様にぼんやりと、白い服を身にまとった大人の女性と思わしきシルエットが浮かんで見え始めた。
「バンさん……見えてきましたよ……」
「いいぞ……そのまま続けてくれ……」
エンは更に神経を研ぎ澄ませるとその女性を注視した。すると……。
『ダメ……』
『こ……な……で……』
エンの脳内にラジオのノイズの様な音が聞こえ始めたかと思うと、その奥の方から霞むような声で女性の訴えが聞こえ始めたのだ。エンは慌てて聞き返す。
「な、何か伝えたいことがあるんですね!? あなたは誰です？ ここで度々起きている事故について……それから『織戸幸愛会』について……何か知っている事はありませんか……？」
そんなエンの問いかけに対し、再び女性が声を発し始めた……。
『ダメ……来ちゃ……けない……』
「……え……？」
『来ないで……ヒデキ……』
『伝えて……』
『幸愛会を……信じちゃ……いけない』
「え!? やっぱり、知ってるんですね!?」
エンが女性から深く事情を聞き出そうと声を大きくすると、それに合わせるかのように突然女性も声を荒げ、その声はエンの脳内全体に響き渡った！
『ヒデキさん！ 来ちゃダメ！』
「えっ!!!?」
そして、エンにひとしきり訴えると女性の霊は忽然と姿を消してしまった……。
「はぁ……はぁ……」
女性の剣幕nい動揺し息を切らすエン。そこにバンが近づき落ち着いた声で尋ねる。
「エン、大丈夫か？ 何かわかったか」
そんなバンに対し先ほどの女性からの訴えをありのまま話すエン。バンはその言葉を聞き推理を働かせると、「何となく全容が見えてきた」と言い放った。
「おそらく俺たちが張り込む男が、そのヒデキなんだろう……」
「!?」
「そしてエン……。お前が見たその女性の霊が、手紙に『最近亡くなった』と書かれていたヒデキの婚約者なんだろう……」
「!!!!」
「『幸愛会』の狙いが何なのかは分からない……。しかし一刻も早く会から足を洗わせないとあの男……近々命を落とすことになるかもしれん……」
「何ですって!?」
そして驚くエンに対し再び車に戻るように促した。……デジキョンからの通信はない。ということは男はまだ家から出ていないのだろう。既に日は傾き始めている。そしていよいよアパートの男、ヒデキに聞き込みするべく、二人による張り込みが始まるのだった。