Now Loading...
新世紀陰陽伝セルガイア

第二十話~死ビトの誘い~

前回のおさらい
 
 バンに対しJR矢部駅に隣接する踏切りで多発する死亡事故の件を伝えたエンは、バンと共に早速その現場へと急行した。そこで、エンは以前死亡したと思われる女性の霊とコンタクトを取ることに成功する。しかし言葉少なげに語るその霊の情報からはさほど事件の全容は見えてこなかった。エンはその事を残念そうにバンに語る。するとバン曰く、「全容がつかめてきた、恐らく女の霊は依頼の男の婚約者だろう……」との事だった。はたしてこの事件との繋がりは何なのか……。そして、裏で糸を引いているであろう『織戸幸愛会』の企みとは果たして……。


第二十話~死ビトの誘い~



◆その夜・ブルバイソン車中にて
 
 夜遅く、人通りもまばらになってきたそんな折。エンとバンの二人はブルバイソンの車中から、男の家の扉が開くのを今か今かと固唾をのんで見つめていた。男は一体いつになれば外へと姿を見せるのだろうか……。しかし扉は一向に動くことのないまま、ただ時間だけが過ぎ去っていく。そして車内には、エンがボリボリとせんべいをかみ砕く音だけが鳴り響いていた。
 
 あまりにも動きがないため暇を持て余したエン。彼はバンに対し“見えてきた”という事件の全容を確かめてみることにした。

「バンさん、どうしてあの男の人……ヒデキさん……でしたっけ? このままだと命を落としかねないんです?」

「あぁ、俺の推理が正しければ夕方お前に話した通り、お前が会話した女性の霊はおそらく男の婚約者だ」

「……」

「そしてお前の話が正しければ、あの踏切りで立て続けに亡くなった人間は皆『幸愛会』のメンバーなんだよな?」

「あっ!」

「そうだ。おそらく男の婚約者も信者だったんだろう……。『幸愛会』の狙いが何なのかは分からんが、きっとあの男も命を狙われているに違いない……」

「確かに……そう考えればそうですね……」

「そして更に俺の推理が正しければ、男はどこかのタイミングであの踏切りに向かうだろう……」

「ど、どうしてです?」

「理由はさておきあの踏切り……『幸愛会』の信者を誘い殺してるんじゃないだろうか……?」

「!!!?」

 バンの話にエンが驚愕したその時だった。
 
 ガチャリ……
 
 ついに監視していた部屋の扉が開き、いよいよ男が外出した!

「バンさん!」

「おう!」

 二人は瞬間的に顔を見合わせると頷き合い、すぐさま車を後にし男の後を追うのだった……。

◆道中
 
 男は着の身着のままといった装いで、暗い夜道の中おぼつかない足取りで歩みを進めていた……。男に気づかれぬよう距離を保ちつつ尾行する二人。なんだか本当に探偵になった気分になり、いつもとは違った高揚感に包まれるエン。思わず口元がニヤつき、変な声が出そうになるのを必死にこらえつつ、バンにならうように男の後を付けて行った。そしてバンの予想した通り、男は駅の方向へと向かっていた……。電信柱の裏に隠れつつ「やはりな……」と小声を漏らすバン。そして二人は再び男の後を追って線路沿いの道を歩いて行った……。
 夜も大分遅い時間になり、時々過ぎていく電車の音だけが夜の闇を包み込んでいた……。

◆JR矢部駅踏切り
 
 いよいよ矢部駅に隣接する踏切りにたどり着いた男。彼はその踏切りの入り口で立ち止まると、暫くその場にただ立ち尽くしていた……。いったい何をしているのかと、エンとバンは男の様子を少し離れた場所から観察した。そして、それは突然の出来事だった。男が突然叫び始めた!

「神様お願だ! どうか彼女に会わせてくれよ! カナコに会わせてくれ! 俺は言われた通りにしてるんだ! こんなにもこんなにも毎日まいにち祈りをささげてるんだ! カナコを……カナコを返してくれよ!!!!」

 その光景に二人は喫驚した。
 男は叫びながら地面にひれ伏すと、何度も何度も踏切りに向かって頭を下げ始めたのだ!

「バンさん、あの人……普通じゃないです……!」

 そして男は叫びながら何度も頭を下げるだけでなく、いよいよその頭を地面に打ち付け始めた! そしてなんと額にいよいよ血が滲み始める程打ち付けているではないか!

「あぁ、正気の沙汰とは思えんな……」
 
 こうして二人がいよいよ男の奇行を止めに入ろうと地面を蹴ったその時だった!

「バンさん待ってください! あれ!」

「ん!?」
 
 踏切内に漂う不穏な邪気を感じ取ったエンがバンを制止した。そしてエンはその場所に目を凝らした! ……すると、踏切内の中心部の上空が黒い粒子の渦を巻き、その中からぼんやりとエンが昼間目撃したと思われる女性の霊が出現したではないか。

「あれは!」
 
 そして暫くその光景を見ていると、女性の霊を中心に多くの霊が姿を見せ始めた……。おそらくここで起きた死亡事故の犠牲者達の霊であろう。重たい空気が渦巻く中、中心の女性の霊が男に向かって手招きを始めたではないか!

「か、カナコ……!」
 
 男は女性の霊に向かって涙を流しながら、嬉しそうに線路内に立ち入って行った。

 「えっ!? 幽霊が見えてるの!?」

 女性の霊が見えていると思われる男に、エンは驚愕した。そう、通常はエンのように霊感の無い人間に霊は見えないからだ……。

「あの人霊感が強いんでしょうか?」

 その問いに対してバンが返答した。

「いや待てよ……エンあれが男の婚約者か……?」

「はい! 本当に婚約者かは分かりませんが、昼間見た女性に間違いありません!!」

 しかし、バンの言葉が表す裏の意味を察したエンが、すぐさまバンに返答した。

「ちょっと待ってください……。あの霊がバンさんにも見えてるってことは……。あれは魔物!?」
 
 エンが察した通りだった! それはヒデキの婚約者の姿を模した魔物だったのだ! 本当の彼女の霊を隠すかのように、多くの怨霊が彼女の周りを取り囲んでるのだった。そして、その怨霊と女性の姿だけはエンにしか見えていないようだった。
 涙を流しながら「来ないで」と、必死に訴える女性の霊は怨霊たちに姿を隠され、男は魔物が化けて女の手招きに誘われるように、ゆっくりと線路内に立ち入って行った……。そしてその時だった!
 
 カーンカーンカーン
 
 男が踏切りの中心部にたどり着いたとき、ついに遮断機が電車の到来を告げ始めたのだ!

「マズい!」

 エンは思わずそう叫んだ! このままでは男は列車に跳ねられてしまう! 男が魔物に騙され誘い込まれているということを悟ったエンとバンは、男を連れ戻すために勢い良く線路内へと駆け込んだ!
 
カーンカーンカーンカーン

 列車が近づく中いよいよ男に接触する二人!

「おいやめろ! 戻るんだ!」

「電車が来てます! 早くここから出ましょう!」
 
 そういうと二人は男を羽交い絞めにし、線路内から脱出すべく男を誘導しようとした! 
 ……しかし男は渾身の力を込めて二人の意向を拒絶した!

「やめろ! 俺はやっとカナコに会えたんだ! やめろ! 放せっつ!」
 
 そんな男を必死に線路内から脱出させるべく渾身の力を込める二人!
 
カーンカーンカーンカーン
 
 しかし電車は徐々に近づいてくる! そしてついに遮断機も降りてしまった! 
 バンは咄嗟にエンに向かって叫ぶ!

「エン! 緊急停止ボタンだ!」
 
 力の強いバンは少しでも線路の中心から男を遠ざけようと必死になり、その間にエンに踏切りにある緊急停止ボタンを押すよう指示を出した!

「は、はい! 『開眼っつ!!』」
 
 そう言うとエンはセルガイアを開眼させ、跳躍の能力で力強く地面を蹴ると緊急停止ボタンまで一気に跳躍した!
 
 ……ところがだった……。
 
 ガンっつ!!

「えっ!?」
 
 なんとエンは見えない壁のようなものに弾かれ、遮断機より外に出ることができずはじき返されてしまったではないか!

「くそっ!」
 
 地面に体を打ち付けてしまったエンだったが、痛みをこらえてすぐさまこんどは反対側の遮断機に向かって跳躍した!
 
 ガンっつ!

「そんな!!!?」
 
 しかしやはり踏切り内から出られない! その光景を見たバンも遮断機に向かって行くと外に出ようと試みた。ところが! どうやら踏切内に結界が張られているようだった。どんなに力強く叩いてみても、まるで見えない壁に遮れれているかの如く踏切内から出ることができなかった! 更に今は終電間際の時間帯。利用客の少ない駅の踏切り付近には運悪く誰一人いなかった! ……そして!
 
 ファーン! キキーーーーーーーッツ!
 
 いよいよ一同の目前にまで近づいてきた列車がこちらの存在に気が付くと、警笛を鳴らしながらブレーキをかけた! 絶体絶命かと思われたがバンはすぐさまエンに別の指示を飛ばす!

「エン! 遮断機だ! 遮断機を壊せ!」

「その手があったか」と、エンは遮断機に向かって攻撃を加えようとした!
 ……だが時すでに遅し。列車はもう三人の目前へと迫っているのだった!!!!


つづく!

【第十九話へ】 【一覧へ】 【第二十一話へ】