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新世紀陰陽伝セルガイア

第二十三話~魍魎の巣~

前回のおさらい
 
 ナイトメアバスターズへの入隊を強く希望するエンは、その心の内をハヤトに訴える。ハヤトは、エンには不可能と分かった上で入隊へのある条件を提示する。それは『自分の力で“式神”を出現させてみろ』というものだった。エン自身もできないと分かりつつ試しに呪文を唱えてみる……。すると、一同の予想を裏切り蝶の式神が姿を現す。エンはそれにアザミと名を付けた。そしてその後すぐ、バスターズの事務所の警報装置が鳴り響く。それは魔物の出現を知らせるものだった……。エンはアザミを引き連れ、現場に向かうバスターズの後を追うのだった……。

第二十三話~魍魎の巣~


◆とあるアパート大家宅にて

「それは気の毒だったな……」

「はい……。ようやく入居者も埋まった矢先だというのに、何でこんな……」
 
 事務所でのひと悶着を終えた後、バスターズは魔物の反応があったアパートの大家宅に赴き聞き込みを行っていた。
 
 バンが訪ねる。

「大家さん……事実を話してください。本当はここ、曰く付き物件ではありませんか……?」

「……いいえ」

「……」

 黙り込む大家に対してハヤトも質問する。

「いや、ここでは何かしらあったはず。そうでなければ俺たちは今日ここには来ていない……。何かほんの僅かでも……」

「と言われましても、本当に以前は何もなかったんです! 困りましたね……。申し訳ありませんがもうこれ以上お話できることはありません。私も事後処理がありますので今日のところはどうぞお引き取りください……」

「……」
 
 そして、そんなやり取りを天井裏からこっそりと覗き見る四つの目があった……。エンとアザミだ。

「ヌシさまー。これ、なにちて~んのっ?」

(しーっ! 静かに! バレちゃうよ……)
 
 相変わらずバスターズへの同行が許されていないエンは、こうしていつものように勝手に後を追い、こうしてコッソリと事の成り行きを観察していた……。
 はたして一同がなぜこのアパート大家宅へと訪れることになったのか。それは数刻前の事だった。

◆某木造アパート
 
 魔物の反応を追い現地へと急行したナイトメアバスターズ。そこには複数の緊急車両が停まり物騒な雰囲気を醸し出していた。

「ここだな」

「……ああ」
 
 そこは木造二階建てのアパートの前だった。警察官が何者かに聞き込みを行い、その周りを囲むように多くの野次馬がひしめいていた。その光景を見るや否や即座に現場を特定した二人。まずは野次馬に聞き込みを開始すべく、人だかりへと向かって行った。
 そしてその二人に遅れながら、セルガイアの能力を駆使して建物の屋根を足蹴に跳躍を繰り返しアザミと共にやって来たエンも、近くの民家の屋根の上からバスターズの様子を伺うことにした。

「うーん……。ここだと二人の姿は見えるけど会話が聞こえないなぁ。アザミ……お願いなんだけど、ちょっと近くで聞いてきてくれないかな?」

「わかった! てつだってやる!」
 
 そう言うと、アザミは主人であるエンに気に入られたい気持ちで意気込んだ。そして光の筋を描きながらバスターズの居る方へと、気づかれぬよう近づいて行った。そしてエンは自分がちゃんと式神を携え使役している感覚に淡い高揚感を覚えていた。
 
 野次馬への聞き込みを開始したバスターズ。話によると、どうやら101号室のスエナガという人間が首をくくって亡くなったとの事だった……。そして更に耳寄りな情報を入手する。それはこのアパートが昔から地元でも有名な曰く付き物件だということだった。

「やっぱりな、これは俺たちの案件だ」

 そう言うハヤトに対してバンが疑問を投げ掛けた。

「しかし、昔から曰く付きの物件だとしたらなぜ今になって俺たちのセンサーが魔物の気を感知したんだ?」

「……。よし、聞き込みを続けよう」
 
 そう言うと二人は再び野次馬から話を聞き出すことにした。
 
 深堀りしていくと、どうやらこのアパートでは昔から自殺者が後を絶たなかったらしい。だが、最近大家が変わってからというものぴったりとそれは止み、ようやく人も集まり満室になった矢先にこの事件が起きたのだと言う……。そして、今警察が聞き込みをしている男性がその新しい大家だということが判明した。
 
 二人は大家の事情聴取が終わるのを待ち、頃合いを見計らって声をかけた。

「すまない……。ちょっといいか?」

「な、何です?」

「我々探偵事務所の者ですが、ちょっとお話を……」

「はぁ。今警察に散々話したところです……。私も疲れていますので、申し訳ありませんが今日のところはお引き取り願えますか……?」
 
 どうやらすんなり話ができそうにない。そこでハヤトは鎌をかけてみることにした……。

「……そうか。まあいいがところでこの物件、前から曰く付きだったらしいな。何か心霊現象がかかわってるんじゃないか?」

「なっ!?」
 
 すると、明らかに大家は動揺を見せた。

(やっぱりな……)

 と、バンが内心で呟く。そして動揺しながら大家が答える。

「そ、その手の話は人聞きが悪い! また妙な噂でも立てられたら……。ちょっと場所を移しましょう……」
 
 ハヤトとバンは互いに目くばせすると、言われるがまま大家の家へと案内された。そして、アザミから事の成り行きを聴いたエンもその後を追うのだった。

◆大家宅

「いやぁ困りましたね……。それはあくまで噂でして……」
 
 大家の名は金崎(かねざき)。眼鏡をかけてスラっとしており、見るからに物腰の柔らかそうな40代くらいの男性だった。

「なら、今回の件以前には何も無かったと」

「えぇ……。私が新しい大家になってリフォームするまでかなりのボロアパートでしたからね。確かに『あそこはお化けが出る』なんて話があることは聞いていましたが……。しかし実際には事故物件でもありませんし正直風評被害ですよ……」

「……それは気の毒だったな……」

「はい……。懸命に働きかけてようやく入居者も埋まった矢先だというのに何でこんな……」

「……」

「しかし探偵さん……。さっきから気になっていたんですが、今回の件とアパートが曰く付きと噂されていることに何か関係でもあるんですか?」

「……ここまできたら本当の事を話すが、俺たちは“こういう者”だ」
 
 そう言うと、ハヤトは大家にバスターズの名刺を手渡した……。

「あ! 最近噂の……」

(はぁ……。エンのおかげでやっぱりまだまだ噂は広まったままか……)

「大家さん……。私が独自に開発したセンサーに不穏な反応があったんです。だらかここに来ました。その風評と今回の件、無関係とは思えないんです。大家さん、事実を話してください。本当はここ、曰く付きだったんですよね……? これに関してかつてから困窮していたのなら、我々はあなたを助けたい。それにこのままいけば次の部屋、次の部屋へと不幸が連鎖していってしまうかもしれない……。話して頂けませんか?」
 
 ところがだった。バスターズがどんなに聞き出そうとしても、大家の返答は変わらなかった。それに嘘をついているような素振りもない。バスターズは少しばかり頭を抱え始めていた……。
 
 そんなやり取りを天井裏の換気口から覗き見ていたエンは自分の存在がバレないよう、ボリュームの大きなアザミの声を抑えるのに必死だった。

(耳元で話してくれたら聞こえるからさ! 静かにしててね!)

「わかった!」

(しーっ!)
 
 幸いなことにバスターズと大家の会話にその声はかき消され、下の三人には聞こえていないようだった。

(でもおかしいよね……。センサーには確かに反応もあって、僕もかすかに魔物の気配を感じてる。それなのに、大家さんが嘘を言っているようにも思えない……。今回の事件はちょっと厄介かもね……。)

(え? そうなの? むずかちくないよ?)

「えっ!?」
 
 アザミの突然の意外な返事に、エンは思わず声を上げてしまった! 空かさず口を手で覆うエン。
 幸い下の部屋の三人は一瞬天井を見上げるも、エンの存在には気付かなかった。

(ちょっとアザミ! どういうこ……)

「あははは」
 
 すると、疑問を投げかけるエンをしり目に突然アザミが換気口の隙間を通り抜けて大家目掛けて飛んで行ってしまったではないか!

「あっ! ちょっと!」

 そして、とうとうエンの存在がハヤトに見つかってしまった!

「あ! おまっ! また勝手に……!」

「あ、あははは……」
 
 そして、そんなやり取りなどお構いなしといった様子で、アザミは突然大家の腕時計にしがみついた! そしてそれを力いっぱい引っ張り始めたではないか!

「な! 何ですかこれは!? 引っ張らないでください!」

 エンもあわててアザミを止めようとする。

「ちょ、ちょっと何やってんのアザミ!!」

「んぐぐぐ……」
 
 大家は突然現れた小さな妖精に驚きを隠せない様子で取り乱しながら驚きの表情を浮かべ、腕時計から妖精を振りほどいて欲しい様子でキョロキョロと周りの人間を見渡した。しかしアザミは大家の動きもエンの言葉を気にすることなく、尚更必死に大家の腕時計を引っ張った。

「ち、ちょっと! 誰か! 何なんですこれは! やめさせてくださいよ!」

「ご、ごめんなさいね! すぐに止めさせますので……! ちょっとアザミ!」

「んぎぎぎぎぎ……」
 
 しかしアザミは大家から腕時計を引き剥がそうとするのを止めようとしない。
 
 そんな光景を見ていたハヤトはあることに気が付くと突然大家の腕を鷲掴みにした!

「ちょっと! 何ですか!」
 
 そして、その腕から思い切り腕時計を引きちぎった!

「痛っつ! ちょっとあなた何て事を!」
 
 あまりに唐突な出来事に驚きつつ声を荒げる大家。ハヤトはそんな大家から奪った時計の裏を見るなり、それを大家に付きつけながら言葉を返した。

「おい……これは一体どういう事だ」

「!?」
 
 そこにはローマ字で『SUENAGA』と書かれていた。

「え!? これって……」

 エンは思わず声を上げた。そしてバンが口を開く。
 
「スエナガ……。確か、アパートで自殺した人間もスエナガだったよな!?」

「おい大家……。これ、アンタのじゃないだろ」

「っつ! ……」

「図星のようだな……。おいアザミ! おまえ本当に“エンの式神”か? お手柄じゃないか。こんな微弱な邪気を感じ取るとは……」

「えへへ」

「え!? ちょっと待ってください! お手柄っていったいどういう……」

「おい大家。アンタやっぱり何か隠してるんだろ……」

「い、いやだな! そんなこと……」

「これは自殺した人間の物だよな? なんでアンタが持ってるんだ……?」

「……」

「それに、そもそも普通の人間に式神は見えないはずだ! なのにアンタ、明らかにアザミの事が見えている素振りだったよな!」

「っ!!!!」

「そ、そうか! 確かにそうですよね!」

 そこにバンが口を挟む。

「ほう、エンの式神……なかなか優秀みたいだな」

 それに対して得意気な表情をうかべるアザミ。

「えへへ」

 そんなやり取りの中、大家は口をつぐむんでうつむいていた。

 「……」

「さあ、白状したらどうだ。アンタ一体何を隠してる!!」
 
 ハヤトが強い口調で恫喝したその時だった。大家は首を傾け俯くと、突然肩を震わせながらクスクスと笑い声を上げ始めた。

『ククク……。あーあ、しくじったなぁ……。いい時計だと思ったから奪ったのに……』

 大家の口調のあまりの豹変ぶりに驚く一同。

『クソどもが……。せっかくこの体に擬態して、人間を食う為に恰好の餌場を造り上げたっていうのに。厄介な連中に捕まっちまったな……』

バキ……バキバキッ……
 
 そして大家はそう呟くと、突然その身体から鈍い音を発しつつ、膨れ上がるように見る見るうちに巨大化していった! そして彼は高さ3メートル程の巨大なカマキリの様な魔物の姿へと変貌を遂げたのだった!

つづく!

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