前回のおさらい
魔物の反応を探知したナイトメアバスターズは、現場のアパートの大家に聞き込みを開始した。その様子を隠れながら見ていたエンだったが、引き連れていたアザミが突然バスターズと大家の目の前に現れその存在がバレてしまう。そして突然大家の腕時計を鷲掴みにしたアザミを止めに入るエンだったが、アザミは大家の違和感に気が付いたいた。なんと、大家本人が人間に擬態した魔物だったのである……。
◆大家宅にて
大家の正体は魔物だった!
『開眼っつ!!』
ハヤトとエンは、咄嗟にセルガイアを開眼させると白毫神器を構え臨戦態勢を取った! しかしその途端!
「うわぁっつ!」
ハヤト・エン・バンの三人が、同時に声を上げた! 何と三人は魔物が振りかざした大きな鎌のような腕に囚われてしまったのだ!
「あ! みんなっ!」
ピンチの状況に思わず焦るアザミ。
「コロシテヤル……コロシテヤル……」
そして魔物はそう呟きながら、三人を大きな腕で締め付けはじめた!
「しまった!」
ハヤトが叫ぶ。
「くつ……。まさか大家自身が魔物だったとは!」
バンも苦しそうに言葉を発し、それに返すようエンも口を挟む。
「じ……自分のアパートを、餌場にしようとしてたんですね……!」
キシャァァァ!!
そんな中、唯一魔物の攻撃を逃れたアザミは自らの主であるエンを助けたい一心で、魔物に対して啖呵を切った。
「や、やめてよー!!」
キシャァァ!
「きゃーっ!」
しかし彼女は怯え悲鳴を上げた!
「アザミ!」
そして次の瞬間! ついに魔物はアザミに向かって、三人を捉えていない方の鎌を振り上げ襲いかかった!
「アザミ避けて!」
咄嗟に叫ぶエン! そして魔物は空を切りながら巨大な鎌を振った!
ブンッ!!!!
「きゃぁ!」
間一髪避けたアザミだったが、魔物は再び鎌を持ち上げた!
「いや……いやぁぁぁああああ!」
「アザミーーー!」
すると、ついにアザミはパニックを起こし魔物を背にして逃げ出した!
「きゃぁぁあああ!!!!」
魔物はアザミの息の根を止めるべくその後を追い始める! 巨大な体でバキバキと音を立てながら家屋を破壊し、そしてついに屋外へと姿を現してしまった!
「……くそっ! エン! アザミに指示を出してくれ! 的確に誘導しないとヤツに街が破壊されてしまう!」
ハヤトがエンに対してそう叫んだ通り、右往左往しながら逃げるアザミを追いかける魔物はその動線上にあるあらゆる物をお構いなしに破壊していた! そして、その光景を目撃した多くの人間もまた魔物から逃れようと必死に走り出していた!
街中に怒号と悲鳴、そして破壊される建物の音が響いている。一刻も早くこの状況を打破しなければ多くの命が危ない! ハヤトは魔物の腕に掴まれ苦悶の表情を浮かべながらも、声を張り上げエンに指示を出す!
「おいエン! 式神は主(あるじ)であるお前の指示しか聞かないんだ! うまく操って人気(ひとけ)のない場所に魔物を誘導しろ!」
「は、はいっ!」
ハヤトに言われるがまま、エンはアザミの進行方向を道路や開けた場所に定めようと指示を飛ばした!
「アザミ! そっちじゃないよ! 左! 左に曲がって!」
「きゃーーー!」
ブン! ブン! バゴォッ! バゴォツ!!
しかしエンがいくら叫んでもその指示はパニック状態のアザミの耳に入らなかった! アザミは尚も混乱しながら辺りを飛び回っている!
「おいエン! しっかり指示を出してくれ!」
ハヤトに急かされ焦りを感じるエンは更に大きな声を張り上げアザミに指示を飛ばした!
「アザミーー! そっちじゃないよ今度は右だ! 右に行けーーっ!」
「きゃーーー!!」
ところがやはり指示は届かない!
「おいエン! 頼むよ!」
「や、やってます! でも通じないんです!」
「くそっ……俺には見えないがアザミの奴、完全にパニックに陥ってるようだな」
バンの言葉通り、アザミは完全に正気を失っていた! 小さな羽を懸命に羽ばたかせ、その身に迫る恐怖から逃れようとただただ必死になっていた!
「きゃーーーーー!!!!!!!!」
バゴォ! バゴッツ!
そして、アザミが逃げれば逃げるほど街は破壊されていった……。
「ハヤトさん、ごめんなさい……!」
「くそっ! 時計の違和感を見つけた時は感心したが、やっぱり“お前の”式神だな!」
「……」
「おいハヤト! こんな時にいがみ合っててもしょうがないだろ!」
「そうだな……。しかしどうするバン……」
「俺たちの他にこの状況を何とかできるものが居るとすれば……。……八雲か?」
「そうか! ばっちゃだ!」
「だが連絡が取れたところですぐには来られないだろ!」
確かにハヤトの言う通りだった。八雲神社からここまでは相当な距離がある……。再び頭を悩ませる一同はキリキリと締め付けられる魔物の腕の中で必死に打開策を練った……。
「……まて、他に一つだけ方法があるぞ」
そしてついにバンが他の策を思いつき、自らの隣で魔物に締め付けられているエンに対して指示を出した。
「おいエン」
「は、はい……」
「俺の袴のポケットから……スマホ……取れないか」
「えっ!? でもばっちゃに連絡しても……」
エンがそう言った途端、バンの作戦を理解したハヤトが「成る程な」と呟いた。そして、バンはエンに袴からスマホを取り出すよう催促した。エンにはバン考えが分からなかったが、彼の言葉を信じてすぐさま彼の袴へと手を伸ばした。
「バンさん! ありましたよスマホ! 今触ってます!」
「よし……そのまま取り出せるか!?」
「はい!」
エンは言われるがままそのスマホを握りしめると袴から取り出した! その瞬間だった!
グギャオー!
「!?」
突然の魔物の大きな揺れに耐えかね、不覚にもエンがそのスマホを手から滑らせてしまったではないか!
「しまった!!」
スマホは宙を舞った……。そしてそのまま地面に落ちていく……。残されたただ一つの打開策が自らの手から逃れてしまった。エンの目の前が真っ暗になる。……しかしその瞬間だった!
バシッ!
「えっ!?」
なんと宙を舞っていたスマホがハヤトの手の中に瞬間移動しているではないか!
「俺の能力を忘れてもらっちゃ困るな」
「ハヤトさん!」
そう、ハヤトは自らのセルガイアの能力“減速”の力で時を遅らせ、落ち行くスマホをキャッチしたのだった!
「よしバン、やるぞ!」
「頼んだ!」
そう言ってバンにアイコンタクトを飛ばしたハヤトは素早くスマホを操作すると、それは“デジタルキョンシー”へと姿を変えたのだった!
「あっ! デジキョンだ!」
そして、デジキョンはハヤトの手からスルリと抜け出すと地面に着地。どこかへと向かって走って行った。
「え!? 待ってください! どっか行っちゃいましたよ!?」
「まあ見てなって……」
バンが得意気げに語ったその時だった。
ブロロロロ……
どこからともなくエンジン音が鳴り響く。
「あ! ブルバイソンだ!」
そう、街を破壊する魔物に向かって、バスターズの愛車であるブルバイソンがとてつもないスピードで向かって来たのだ! そしてそのブルバイソンのダッシュボードの上にはデジキョンがめり込むように鎮座していた!
「まさか、デジキョンがあれを!?」
「そうだ! デジキョンのオートドライブだ! 凄いだろ!?」
「はいっ!」
そして、ブルバイソンはそのまま凄まじい勢いで魔物へと突っ込んでいった!
グギャオオッツ!
その勢いで、見事三人は魔物の腕から逃れることに成功したのだった!
「やったーーーーっつ!」
脱出に成功し喜ぶエン。しかし動きを止め、巨大な体を横たわらせた魔物ではあったが、安心するのはまだ早い。魔物はセルガイアの武器でしか倒せないのだ!
そして魔物は危機を察知し、再びその体を素早く起こすと三人めがけて突っ込んできた!
ギャオォォ!
ところがその瞬間だった! 突如魔物の巨体が空中に浮かび上がるとそのまま動きを停止させたではないか!
「そうか! ブルバイソンの結界だ!」
なんとデジキョンが再び自動操縦でブルバイソンを操り、車体後部のモジュールを展開することで結界を張り魔物の動きを封じ込めたのだ!
「そんなことまでできるんですね!」
「デジキョンは俺の自信作って言ったろ! さあ二人とも! 後は頼んだぞっ!」
『了解っつ!』
ズババババッツ!!!!
こうして、ついに魔物は二人の刃によって葬られたのであった……。
◆静寂が訪れて
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返り、一同はその場に佇んでいた……。確かに魔物には打ち勝つも、破壊された街は惨憺たる光景だった。
そんな状況の中、エンは地面に伏しながらシクシクと涙を流すアザミの姿を発見し、彼女のもとへと近づいて行った……。
「アザミ……大丈夫?」
「ヌシさま……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「アザミ……」
涙を流す彼女を見て、エンは自らのかつての事件の出来事を思い出しながら励ましの言葉を投げかけた。
「アザミ、初めての失敗だよね……。次しないようにすればいいんだよ……。だから、また一緒に頑張ろう!」
「ヌシさまぁ……。うわぁぁぁああん!」
ヌシであるエンに嫌われてしまったと思っていたアザミはエンの言葉を聞いた途端、今度は安堵の涙を流すのだった。そしてその光景を、ナイトメアバスターズの二人は無言で見つめていた……。
幸い今回の事件で死者が出ることはなかった。
◆それから数週間が過ぎ
ナイトメアバスターズはそれからも幾度となく魔物の事件に遭遇した。そしてこれまでのように相も変わらずバスターズの二人に内緒で同行するエンだったが、ひとつ以前と明らかに違うことがあった。それは、アザミが行く先々で何度も何度も大きなトラブルを巻き起こすという事だった。この日も何とか戦いを終え事件を解決させた一同だったが、エンは再びハヤトにこう言われてしまう。
「やっぱり、さすが“お前の”式神だな!」
言われたエンは「とほほ……」と言わんばかりにガックリ肩を落とした。
そして、始めのうちは寛容だったエンも次第にアザミに苛立ちを見せ始めた…。
そしてある日の事、ついに彼はアザミに対してこんな言葉を放ってしまう。
「アザミ……。悪いけど、“次はないからね”……」
「うん……わかった……」
アザミ自身はこの事実を心底悔しく思っていた。『ヌシであるエンの為に何としても活躍したい助けたい!』。式神としての当然の想いが果たせず、持ち前の天真爛漫さも徐々に失われつつあった……。
そんなやり取りをしていると、バンのGPSからサイレンが鳴り響く。魔物だ! 一同は休む暇もなく次の現場へと足を運ぶのであった……。
つづく
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