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新世紀陰陽伝セルガイア

第二十六話~死の淵の少女~

前回のおさらい
 
 魔物出現のシグナルを受信したナイトメアバスターズとエンたち四人が夜遅くにたどり着いたのは、とある山間部であった。しかし、たどり着いたころにはすでに魔物の反応は消え去っていた。辺りをくまなく調査する一同……。すると再び魔物出現のシグナルを受信する。急ぎその現場へ駆けつけるとそこには、深夜に大声を発しながら只ならぬ雰囲気を放っている三人の人間だった。その三人に事情を聞くため声をかけると、そのうちの一人が一同を近くにある自宅へと案内した。そこは周りの大自然とは不釣合いな西洋風の大邸宅であった……。


第二十六話~死の淵の少女~


◆山間の邸宅にて

「うわーすごーい……」
 
 邸宅の内部の様子に圧倒され、アザミが思わずそう呟いた。雷鳴轟く深夜の豪邸に案内された一同。家の主が扉を開くと正面には大きな人型の彫刻。その両隣には上階へと続く湾曲した階段があった。そして雷の閃光によって時折り映し出されるそれらの陰影は、これから起きるであろう不穏な出来事を助長しているかのように思わせた……。

「うん、いかにもって雰囲気だね……」
 
 アザミに対してそんな言葉を返しながら、エンはごくりと生唾を飲み込んだ。
 そんな中この邸宅の主は、執事が気を失っている主の娘を部屋に寝かしに行ったのを見届けると、一同を自らの部屋へと案内した。

「それでは、こちらへどうぞ」

◆邸宅の主の部屋
 
 通された部屋には西洋風のアンティークなどがずらりと並んでいた。おそらく主の趣味のコレクションなのだろう……。数多くの見慣れない品々に目を奪われ、ポカンと口を開くアザミとエン。

「……これ、なんだろ?」

「あぁっ! ダメだよ触っちゃ!」
 
 そんなやり取りをしながらエンはバスターズの二人と共に席に腰掛けた。執事は三人の前に紅茶のカップを並べ始める。

「すみません、緑茶ありますか?」

「コラ、わがまま言うんじゃない」
 
 根っからの緑茶好きのエンだったが、バンに叱責されてしまった。

「いえいえ、少々お待ちください」

 だが、執事は愛想よくエンのリクエストに応えてくれた。
 そして三人が出されたお茶に口を付けると、いよいよ主が事の成り行きを話し始めた……。
 
 主の名は『西園寺悟(さいおんじさとる)』と言った。その名からも豪族の血筋を引いているという事は容易に想像がついたが実際に相当な金持ちらしい。買い取った山にこの家を建てたのはここ最近との事だった。

「それで、ここに越して来てから娘さんの様子がおかしいと……」

 そう尋ねるハヤトに対して主であるサトルが返答する。

「そうなんです……。娘は香織(かおり)と言います。最近毎夜毎夜、まるで夢遊病の様に突然部屋から抜け出したかと思うと外の鉄橋に向かって行って、川に飛び込もうとするんです……」

 一同はその言葉に吃驚した。サトルにバンが聞き返す。

「……。香織さん、何か悩み事があるんじゃないんですか? これまで似たような事は?」

「そうですね……。確かにあの子ももう15歳……。悩みが無いかと言えば嘘になるのかもしれません。ですがこんな事、ここに越してくるまでありませんでしたよ……」

「そうですか……」

 ここで再びハヤトが探りを入れる。

「じゃあ、他に何か心当たりは?」

「それが無いから困っているんです……。医者に診せても全く異常なし。処方された薬も効果なし。一体娘はどうしてしまったんでしょう……」

「……」
 
 ここまでの情報では、正直バスターズにもその実態をつかむことができずハヤトもバンも腕組みをしたままうつむいてしまった。
 するとそんな一同を見た主は、日頃のうっぷんを晴らすようにだんだんと愚痴をこぼし始めた。

「しかしウチの娘には困ったもんです。昔から“幽霊が見える”とか何とかおかしな事を言って、最近ではこうして川に身を投げようとしているにも関わらず『そんなの知らない!』なんて言って全部私のせいにしてくるんですよ! 気が触れたとしか思えません! これじゃ将来一流企業の御曹司に嫁にいかせられないですよ全く……」
 
 するとその時だった。

『お嬢さん! おやめください!』
 
 邸宅中に大きな声が響き渡った! 執事だ! その慌てた様子の声に只ならぬ気配を感じ取った一同はすぐさま部屋を後にした!

◆娘の部屋
 
 一同が声のする方に向かうと、そこは主の娘の部屋だった。サトルが慌てて部屋の戸を開くと、そこにはベットから抜け出し、恐らくまたあの橋に向かおうとしている少女の身体を執事が必死に止めようとしていた。

「おやめくださいおやめください! お嬢様どうか目を覚まして!」

 そんな光景にサトルが声を荒げる。
 
「全くどうしたって言うんだカオリ! もういい加減にしなさい!」

 娘に駆け寄ろうとするサトル。その行く手をエンが制止する。

「危ないです! 離れて!」
 
 そしてハヤトがそんな二人の横を通り過ぎ、再び外で行った呪術を少女に施した。

「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」
 
 ハヤトが掛け声をかけると再び少女は脱力し、ふらふらと地面に手をついた。そこへすかさずハヤトがその体を支えると、ベッドに再び横たわらせた。

「凄い……またしても……」

 感心するサトル。

「しかし本当に一体どうなってるんだ⁉ お願いだから何とかしてくれ!」
 
 サトルがバスターズに向かってそう言った時、娘がうっすらと目を開いた。

「……香織!」

「……パパ……」
 
 香織はまるで今までの事は何も知らないと言った素振りであたりをキョロキョロと見まわした。

「え……この人たち……誰……?」

「この人たちは名医だ! さっきもお前のひどい夢遊病を止めてくださったんだ! きっとこの病気を治して……」
 
 悟がそう言いかけた途端だった。

「もういい加減にしてよ!」

 その娘のあまりの剣幕に驚く一同。そして娘は更に声を荒げた。

「どうしてわかってくれないの⁉ 全部パパのせいじゃない!」

「また! 何という事を!」

「だからあれほどここに家を建てないでって言ったじゃない! どうしていつまでも私のいう事を信じてくれないの⁉ 私は夢遊病なんかじゃない! これは悪霊の仕業なんだよ⁉」

 娘はやはり霊的な力を備えている。バスターズはそう悟った。そしてカオリのその言葉を聴くと、バンが空かさず霊気を探るカウンターを取り出し、振りかざしながら部屋中を調べ始めた。

「全くいい加減にしなさい! いつまでもおとぎ話を信じおって!」

「おとぎ話なんかじゃないってば! お願いだから信じてよ! これは医者じゃ治せないんだよ⁉」

(えー⁉ ちょっと一体何が起きてるのー⁉)
 
 困惑するエンをしり目に、バンが口を開く。

「ハヤト、このクローゼットの中から微弱な霊的反応がある」

「……?」
 
 バンの言葉を聞き、すぐさまそのクローゼットを霊視するハヤト。

「ああ……確かに感じるが……霊が居る訳じゃなさそうだな……」
 
 確かにその通りだった。エンもその場所を霊視してみたが、そこに霊の姿は見えなかった。

「もういい加減にして! 話にならない!」

「お前こそいい加減にしなさい! この医者のいう事を聞いて、今度こそ病気を……」
 
 そんな二人のやり取りを見たハヤトは、バンに耳打ちする。

(どうやら主より、娘さんと話した方がよさそうだな)

(そのようだ)

 そしてバンと意見を合わせると、ハヤトはサトルに話しかけた。

「おいアンタ」

「な、何です?」

「ちょっと外してくれるか? 娘さんと直接話がしたい」

「ん? 私はいちゃいかんのか?」

「いや、その間に頼みがあるんだ。この家の設計図か、土地に関する資料があったら持って来て欲しい」

「⁉ それと病気と何か関係あるのか?」

「あぁ、どこぞの国ではその土地の土壌の影響で『有毒ガス』が発生し多数の死者が出たという一例もある。今はアンタの娘だけで済んでいるかもしれないが、急がないとその身も危ないかもしれないぞ……」

「⁉」
 
 その話を聞いた悟は一目散にその場を後にした。
 先ほどまでの喧騒が治まり、訪れた静けさの中一同はようやく娘本人から話を聞ける状態となった。

「……医者ならお帰りください。私のこれは病気ではありませんから」

 そんなカオリにハヤトが優しい口調で語り掛ける。

「香織さんと言ったか。キミはさっき悪霊の仕業と言っていたな?」

「あなたもバカにするんですね!」

「いいや。キミのその言葉を信じて本当の事を話そう……。俺たちは医者じゃない。悪霊退治のプロフェッショナルだ。キミの話、信じるよ」

「⁉」
 
 その言葉を聞くと香織は動揺を見せた。

「本当なの? ……証拠は?」
 
 香織の言葉に、ハヤトはこう切り返した。

「……キミにも、コイツが見えてるな?」

 ハヤトはエンの肩の辺りで羽ばたいているアザミを指さした。

「ほやぁ?」

 突然指を指されてポカンとするアザミ。だが、それが何を指しているのか直ぐに分かった手をポンと叩きながらエン頷いた。

(そうか成る程!)

 そしてカオリはようやく不安そうな表情を和らげた。

「‼ あなたにも見えてるんですね! 良かった……。ようやく話の分かる人に会えた……」
 
 そう言って僅かに微笑みを浮かべた彼女の頬に、一筋のしずくが伝い落ちた。

つづく

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