前回のおさらい
魔物出現のシグナルを受信したナイトメアバスターズとエンたち4人が、夜遅くにたどり着いたのはとある山間部であった。しかし、たどり着いたころにはすでに魔物の反応は消え去っていた。辺りをくまなく調査する一同…。すると再び魔物出現のシグナルを受信する。急ぎその現場へ駆けつけるとそこには、大声を発しながら只ならぬ雰囲気を放っている3人の人間だった。その3人に事情を聴くため声をかけると、そのうちの一人が一同を近くにある自宅へと案内した。そこは周りの大自然とは不釣合いな西洋風の大邸宅であった…。
◆山間の邸宅にて
アザミ「うわー、すごーい…」
雷鳴轟く深夜の豪邸に案内された一同。家の主が扉を開くと、正面には大きな人型の像とその両隣に上階へと続く湾曲した階段があった。そして雷の閃光によって時折り映し出されるそれらの陰影は、これから起きるであろう不穏な出来事を助長しているかのように思わせた…。
エン 「うん、いかにもって雰囲気だね…。」
アザミにそんな言葉を返しながら、エンはごくりと生唾を飲み込んだ。
そして、主は執事が気を失っている娘を部屋に寝かしに行くのを見届けると、一同を自らの部屋へと案内した。
主 「それでは、こちらへどうぞ…。」
◆邸宅の主の部屋
通された部屋には西洋風のアンティークなどがずらりと並んでいた。おそらく主の趣味のコレクションなのだろう…。数多くの見慣れない品々に目を奪われ、ポカンと口を開くアザミとエン。
アザミ 「…これ、なんだろ?」
エン 「あぁ!ダメだよ触っちゃ!」
そんなやり取りをしながらバスターズの二人と共に席に腰掛けた。執事は三人の前に紅茶のカップを並べ始める。
エン 「すみません、緑茶ありますか?」
バン 「コラ、わがまま言うんじゃない。」
執事 「いえいえ、少々お待ちください。」
三人が出されたお茶に口を付けると、いよいよ主が事の成り行きを話し始めた…。
主の名は『西園寺悟(さいおんじさとる)』と言った。その名からも豪族の血筋を引いているという事は容易に想像がついたが相当な金持ちらしい。買い取った山にこの家を建てたのはここ最近との事だった…。
ハヤト 「それで、ここに越して来てから娘さんの様子がおかしいと…。」
悟 「そうなんです…。娘は香織(かおり)と言います。最近毎夜毎夜、まるで夢遊病の様に突然部屋から抜け出したかと思うと外の鉄橋に向かって行って、川に飛び込もうとするんです!!」
一同 「!?」
バン 「…。香織さん、何か悩み事があるんじゃないんですか?今まで似たようなことは?」
悟 「そうですね…。確かにあの子ももう15歳…悩みが無いかと言えば嘘になるのかもしれません…。ですがこんなこと、ここに越してくるまでありませんでしたよ…。」
バン 「そうですか…。」
ハヤト 「じゃあ、他に何か心当たりは?」
悟 「それが無いから困っているんです…。医者に診せても全く異常なし。処方された薬も効果なし…。いったい、娘はどうしてしまったんでしょう…。」
一同 「…。」
ここまでの情報では、正直バスターズにもその実態をつかむことができず腕組みをしたままうつむいた。するとそんな一同を見た主は、日頃のうっぷんを晴らすようにだんだんと愚痴をこぼし始めた。
悟 「しかしウチの娘には困ったもんです。昔から“幽霊が見える”とか何とかおかしな事を言って、最近ではこうして川に身を投げようとしているにも関わらず“そんなの知らない!”なんて言って全部私のせいにしてくるんですよ!?気が触れたとしか思えません!これじゃ将来一流企業の御曹司に嫁にいかせられないですよ全く…。」
するとその時だった。
『お嬢さん!おやめください!!』
執事の声だ!!邸宅中に響き渡る大声に一同はすぐさま部屋を後にした。
◆娘の部屋
一同が声のする方に向かうと、そこは主の娘の部屋だった。
執事 「おやめくださいおやめください!どうか目を覚まして!!」
ベットから抜け出し、恐らくまたあの橋に向かおうとしている少女の身体を必死に止めようとする執事がいた。
悟 「全くどうしたって言うんだ!もういい加減にしなさい!!」
エン 「危ないです!離れて!!」
主が娘に駆け寄ろうとするのを阻止するエンの横を通り過ぎ、ハヤトは再び外で行った呪術を少女に施した。
ハヤト 「ソワカっつ!!」
ハヤトが掛け声をかけると再び少女は脱力し、ふらふらと地面に手をついた。そこへすかさずハヤトがその体を支えると、ベッドに再び横たわらせた。
悟 「凄い…またしても…。」
ハヤト 「ふう…。」
悟 「しかし本当に一体どうなってるんだ!?お願いだから何とかしてくれ!」
悟がそう言うと、娘がうっすらと目を開けた。
悟 「香織っ!」
香織 「…パパ…。」
香織はまるで今までの事は何も知らないと言った素振りであたりをキョロキョロと見まわした。
香織 「え…誰…?」
悟 「この人たちは名医だ!さっきもお前のひどい夢遊病を止めてくださったんだ!きっとこの病気を治して…」
悟がそう言いかけた途端だった。
香織 「もういい加減にして!!」
一同 「!?」
香織 「どうしてわかってくれないの!?全部パパのせいじゃない!」
悟 「また何という事を!!」
香織 「だからあれほどここに家を建てないでって言ったじゃない!!どうしていつまでも私のいう事を信じてくれないの!?私のは夢遊病なんかじゃない!!これは悪霊の仕業なんだよ!?」
バスターズ 「!!」
その言葉を聴くと、バンは空かさず霊気を探るカウンターを取り出すとそれを振りかざし、部屋中を調べ始めた。
悟 「全くいい加減にしなさい!いつまでもおとぎ話を信じおって!」
香織 「おとぎ話なんかじゃないってば!!お願いだから信じてよ!これは医者じゃ治せないんだよ!!」
エン 「(えーーちょっと一体何が起きてるのーー???)」
困惑するエンをしり目に、バンが口を開く。
バン 「ハヤト、このクローゼットの中から微弱な霊的反応がある。」
ハヤト 「…。」
バンの言葉を聞き、すぐさまそのクローゼットを霊視するハヤト。
ハヤト 「…確かに感じるが…霊が居る訳じゃなさそうだな…。」
確かにその通りだった。エンもその場所を霊視してみたが、そこに霊の姿は見えなかった。
香織 「もういい加減にして!話にならない!」
悟 「お前こそいい加減にしなさい!この医者のいう事を聞いて、今度こそ病気を…」
そんな二人のやり取りを見たハヤトは、バンに耳打ちする。
ハヤト 「(どうやら娘さんと話した方がよさそうだな。)」
バン 「(そのようだ。)」
ハヤト 「おいアンタ。」
悟 「?」
ハヤト 「ちょっと外してくれるか?娘さんと話がしたい。」
悟 「私はいちゃいかんのか!?」
ハヤト 「いや、その間に頼みがある。この家の設計図か、土地に関する資料があったら持ってきてほしい。」
悟 「!?それと病気と何か関係あるのか?!」
ハヤト 「あぁ、どこぞの国ではその土地の土壌の影響で毒ガスが発生したという一例もある。今はアンタの娘だけで済んでいるかもしれないが、急がないとその身も危ないかもしれないぞ…。」
悟 「!?」
その話を聞いた悟は一目散にその場を後にした。
先ほどまでの喧騒が治まり、訪れた静けさの中一同はようやく娘本人から話を聞ける状態となった。
香織 「医者ならお帰りください。私のこれは病気ではありませんから。」
ハヤト 「香織さんと言ったか。キミはさっき悪霊の仕業と言っていたな。」
香織 「あなたもバカにするんですね!」
ハヤト 「いいや、俺たちは医者じゃない。悪霊退治のプロフェッショナルだ。キミの話、信じるよ。」
香織 「!?」
その言葉を聞くと香織は動揺を見せた。
香織 「本当なの?…証拠は??」
香織の言葉に、ハヤトはこう切り返した。
ハヤト 「…キミにも、コイツが見えてるな?」
アザミ 「ほやぁ?」
ハヤトはエンの肩の辺りで羽ばたいているアザミを指さした。
エン 「(そうかなるほど!!)」
香織 「!!あなたにも見えてるんですね…。よかった…。ようやく話の分かる人に会えた…。」
そういうと香織の頬を、一筋のしずくが伝って落ちた。
つづく