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新世紀陰陽伝セルガイア

第二十八話~式神の本分~

前回のあらすじ

 カオリを魔物の脅威から救うため、元々魔物が封印されていた石碑の代わりに彼女の部屋に、バンが造ったお札を貼りつけたナイトメアバスターズ。これにて今回の件は戦うことなく魔物を封じることに成功したかと思われた。しかしその思惑はもろくも崩れ去る。アザミがバスターズと共に貼り付けた“謎のお札”のせいで、バンのお札が正常に作動しなかったのだ! 再びカオリは夢遊病のような状態となって部屋を抜け出し、川へとその身を投げるべく、その上にかかる鉄橋へと向かって行ってしまうのだった!


第二十八話~式神の本分~


◆鉄橋
 
 雷鳴轟き、次第に雨脚も強くなる暗闇の中……。鉄橋を照らす街路灯のオレンジ色の光だけが今にもそこから身を投げようとするカオリの姿を映し出していた。一刻も早く彼女を救わなければ! ハヤトは一足先に彼女の元へと辿り着くと、その体を後方から羽交い絞めにした。
 ところがだった! カオリは少女のそれとは思われぬ程の怪力でハヤトの制止を振り切ろうともがいた! その力は凄まじく、油断すればハヤトもろとも川底へと転落してしまうかと思われる程だった。このままではマズい! そう思ったハヤトは彼女を正気に戻そうと再び陰陽術を施した。だが、なんとその術が効かない! 未だ実態の掴めぬ今回の魔物の力は強大なようだ。恐らく近くに潜んでいるのだろうが、もはやこれ以上は”セルガイアの力で本体に攻撃を加えない限り”対処できそうもなかった。そんな二人を救うべく、バンとエンも現場へと足を急がせていた……。

◆邸宅・カオリの部屋にて
 
 一方その頃、もぬけの空となったカオリの部屋に只一人戻った者が居た。アザミだ。彼女は自分が貼ったお札によって事態が悪化してしまった事に罪悪感を抱きつつ、”ある違和感”を覚えここに戻ってきていた。それは、“このお札がいったい何なのか”という疑問だった。自分はエンが落としたお札を貼っただけ。確実に魔物封印に貢献できたと思っていた。しかし現状は違った。実態の掴めない魔物は再び、どこからともなく確実にカオリを死の淵へといざなっている……。「どうちて……なんで……」アザミはそう呟きながらハラハラと羽ばたき、自らが貼り付けたお札に近づいて行った。そしてとうとうそのお札に近づきそれを手に取ろうとした。……その時だった。

パァァァ……
 
 お札がほの明るい光を発したかと思うと、なんとそれが細かい光の粒となってアザミの身体へと吸収されたのだ。

「これ、やっぱりアタチのなんだ……」
 
 アザミはそのお札に見覚えなど全くなかった。しかし、この出来事によってそれが自分の所有物だったという事が確実なものとなった。やはりこの事態を引き起こしてしまったのは自分……。その事にアザミは深い悲しみを覚えた。
 
 アザミはうつむき呟いた。「ヌシさま……ごめん……。みんな……ごめん……」。彼女はどうすれば皆に許してもらえるのか……。彼女の頬を伝って一筋のしずくが零れ落ちた。
 ……するとその時だった! アザミの脳裏にある情景が浮かんできた。それは、鉄橋の上でハヤトとバン、そしてエンが今にも川へと落ちそうになるカオリを必死に引き上げようとしている姿だった! そう、今まさに橋の上では、遅れてたどり着いたエン達もカオリを救出しようと渾身の力を込めて彼女の身体を引き上げようとしている最中だったのだ。
 ところが、三人がかりでもカオリの身体を引き上げることが叶わずにいた。恐らく各々の力など関係ない……魔物の強大な霊力が香織を川の底へと引きずり込もうとしているのだ!

「ヌシさま!」
 
 自分の過失によって引き起こされた事態だったが嘆いている場合ではない! 自分の主のピンチを察したアザミはすぐさま現場へと急行した!

◆鉄橋
 
 現場では三人に加え、娘の後を追いかけたどり着いたサトルもカオリを助けようと必死に彼女の身体を引き上げようとしていた。

「カオリ! カオリ! 目を覚ましなさい‼ もういい加減にするんだ!」
 
 悟は未だにカオリの症状がただの夢遊病だと思っているようだった。しかし最早そんなことはどうでもいい。各々の目的は同じ、カオリをこの窮地から救う事なのだ。

「うぉぉぉぉ……!」
 
 一同は渾身の力で彼女を引き上げようとするも、その体はいよいよ橋の欄干から上半身が飛び出し、遂に頭は完全に下を向いてしまった!

「くっ………何としても……助ける……ぞっ‼」

 豪雨と汗でぐっしょりと濡れた体から水しぶきを上げながら、ハヤトは更に力を込めた!

「は……はい……!」

 そんなハヤトの姿に鼓舞されたエンもまた更にその手に力を込める!

「ぐぐぐぐぐぐ……!」
 
 しかし、彼女の身体はまるで強力な磁石に引き寄せられるかの如く、徐々に、徐々にと川底に向かって落ちようとしていた!
 
ズズ……ズズズ……
 
 引き上げようとする一同の足が地面を滑る……。豪雨と汗でカオリを掴む手も滑る……! とうとうカオリの身体はその大半が橋よりも外に出てしまった! 先ほどまでは腕や上半身を持っていた一同も、ついにはカオリの足首しか掴めない状態にまで陥っていた。

(ま……マズい……)

 四人がかりでどんなに力を込めようとカオリは川へと引きずり込まれそうになっていく……。この状況にいよいよエンは焦った。このままでは全員まとめて川底へと落ちてしまう! そう思われたその時だった‼

「えっ⁉」
 
 なんと突然! カオリの身体が軽くなったのだ!

「アザミっ‼」
 
 そう、アザミが加勢し皆と共にカオリを引き上げようとしていたのだ!

「なっ⁉ この力は……?」
 
 ハヤトは驚愕した、セルガイアの能力者が二人いても引き上げることができなかったカオリの身体。そこにアザミが加わったことで一気に軽くなったのだ。ハヤトはアザミの想定外の霊力に驚きを見せつつ、この状況に好機を見出し皆に声をかけた!

「よし今だ! 一気に引き上げるぞ!」
 
 だが、その時だった。

「アザミ! どうして来んだよ‼ 『余計な事はするな』ってあれ程言ったじゃないか! どっか行っててよ!」
 
 なんとエンはアザミの助太刀を、真っ向から拒否したのである!

「っ‼ ヌシさま……」

 その言葉を聞いたアザミは一瞬驚きの表情を浮かべたかと思うとすぐさま顔をグシャグシャにして涙を流した。そしてカオリを支えていた手をスッと離すと再びどこかへ飛んで行ってしまった。
 その途端! 再び香織の身体が川底へと物凄い力で引き寄せられた!

「うわっつ!」
 
 そして一同はその勢いに耐えきれず、何とカオリ遂に川底めがけて真っ逆さまに転落してしまうのだった!

つづく‼

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