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新世紀陰陽伝セルガイア

第三十話~鈴音の秘密~

前回のおさらい 

 雨降しきる深夜の河川敷で、見事巨大な魔物を倒すことに成功したエン。しかし今回の件も含めて失態の続いていたアザミを叱責し続けた事を、ついにハヤトにとがめられてしまう。そればかりか、憧れだった“除幽屋ナイトメアバスターズ”への入隊をも完全に拒否されてしまった。そして雨の中エンはただ一人現場に佇み、帰路に着くバスターズの背中を無言で見送るのだった……。 


第三十話~鈴音の秘密~ 


◆由比ヶ浜・海岸にて 

 河川敷での戦いを終え一夜明け、放課後エンは由比ヶ浜の海岸で砂浜に腰を下ろしていた。エンはこの場所から見える景色を好み、一人になりたい時や思い詰めた時など事ある度にここへとやって来る。そして、潮騒の音を聴きながらボソボソと独り言を呟くのだ。それが彼の心を整えるやり方だった……。今日もエンはここに訪れ、昨日の出来事に対して気持ちの整理をつけようと物思いにふけっていた。 

(確かにハヤトさんの言うと通りだよなぁ……。僕は陰陽師失格だ。自分の式神を信じてやれなかったんだ、バスターズに入れてもらえなくても当然だよね……) 

 
 こうして自分の非を認める一方、エンにはもう1つ確かな気持ちがあった。

(だけど、僕はどうしてもバスターズに入れて欲しかったんだ! 昔よりは力もついてきたし、あと少しかもって思えてたんだ! それなのにアザミが失敗ばっかするから! ……いや、でもやっぱり言いすぎだったかな……) 

 
 そんな事を思いつつ、エンはさざ波の聴こえる虚空の彼方を見つめて呟いた。

「アザミ……どこにいるの? ……謝りたいよ」

 親友を亡くし、バスターズに見限られ、どこかへ飛んでいったアザミも戻らない。彼は今、孤独だった。……と、そこへある人物が現れた。 


「……いかにも“悩める少年”といった感じじゃのぉ」

「あ、ばっちゃ!!」

 それは八雲だった。彼女はエンがまだ幼い頃から彼の事を気にかけており、さらにはナイトメアバスターズとも繋がりのある老婆である。エンがこの場所にいるのもお見通しだった。

「バンから話は聞いておるよ。ハヤトにこっ酷く叱られたようじゃな?」 


「うん……。もうバスターズにはもう入れてもらえないって……」 


「ああ、それも聞いておるよ。……辛かったのぉ」 


「……」

 ヤクモのその言葉を聴いて、エンは少し涙ぐんだ。 


「じゃがなエン。あの二人と共に闘う事だけが白毫使いとなったお主にできることではない筈じゃろ? 違うか?」 


「ばっちゃ……。確かにそうかもしれない……。でも僕は……!」 

 
 『僕は陰陽師失格だ』。エンがそう言いかけた瞬間、ヤクモはそれを遮った。 


「エン。今日ワシはな“オヌシに”頼みがあってここに来たんじゃ」 


「……頼み?」 

 
 その言葉の裏からただならぬ事態を察したエンは、ヤクモの言葉に対して耳をそばだてた。 


「実はの。滅多に現れることのない魔物達がここ最近頻繁に出現するようになったその理由が分かったかもしれんのじゃ……」 


「えぇっつ!?」 

「そこでオヌシに1つ質問がある。これまでの魔物との戦いで、バスターズやオヌシ以外にかなりの頻度で事件に関わっていた人物に心当たりは無いかの?」 

「え……そんな人いたかな……?」

 ヤクモの言葉を聞いたエンは、今までの戦いを思い返した。するとある人物の顔が思い浮び、途端に思わず声を上げた。

「え? 夜野さん!?」

 それは、エンが密かに想いを寄せる女の子。クラスメートの夜野鈴音の顔だった。

「やはりな……。これで確信した」 


「え!? どういう事!? マイトの葬儀の時は現場に来てたし、トンネルの時は魔物に飲み込まれた! 廃墟で鏡に吸い込まれた時もそうだし、直接関わった訳じゃないけど矢部の踏み切りの事件のときも夜野さんから来た手紙がきっかけだった! でも魔物の事件と夜野さんに一体何の関係が!?」

「よいかエン、これからオヌシに重要な話をするぞ……」

 そう言って普段とは違う凄みを見せたヤクモの表情に対し、エンはゴクリと生唾を飲んだ。 


「よいか、オヌシの知るその夜野鈴音という人物は、『渡良瀬ノ巫女』なのじゃ」

「わたらせの……みこ……?」

 陰陽師やその手の知識に精通しているエンだったが、その言葉には聞き覚えが無かった。エンはヤクモの話に尚のこと耳をそばだて聞き入った。

「渡良瀬ノ巫女は白毫使い(びゃくごうつかい)と対をなすと言っても過言ではない程の重要人物じゃ……。代々受け継がれる“巫女の舞い”には白毫使いの力を増大させる力がある!」

「え!?」

「それだけではない。彼女に流れる巫女の血にはな、自らの寿命の半分と引き換えに『死者を甦らせる事ができる』力を持っておるのじゃ」

「何だって!?」

「魔物共は恐らくな、彼女のその“血”を狙っておるのじゃ」

「!?」

 エンは驚いた。自分のよく知る、想い人であるスズネによもやそんな力があろうとは……。そして解せなかった。何故魔物がスズネの血を狙っているのだろうか……。そしてなぜ“今”、彼女は狙われ始めたのか……。

「よいか、魔物共は”人間として”再び現世に甦りたいのじゃ……」

「えっ!? でもそんな事ができるなら、それって良いことなんじや!? 夜野さんの寿命が削られるなんて絶対に嫌だけど、魔物が人間に戻れる手段があったなんて!」

「いいやよく考えてみろ。悪霊になる程の人間が、更に実態を持つに至るまで憎悪を膨らませた存在が魔物じゃよ? そんな人間が再び現世に甦れば、何をしでかすやら分かったものではない……」

「あっ……」

「……よいか。死人には死人の行くべき世界がある。それが世の理(ことわり)じゃ。摂理を乱してはならん。むしろ、本来封印することしかできぬその魔物を滅ぼし、しかるべき場所へと誘うことのできる白毫使いこそ、理想の戦い方をしておるのじゃ」

「なる程ね……。でもどうして最近になって?」

「それはな、巫女は7の倍数の年齢で能力増幅するのじゃが、14歳の時初めてその能力が顕現する。 エンよ……彼女はもうすぐ14になるのじゃろ?」 


「……そうだ。そうだよ! 夜野さんもうすぐ誕生日だ!」 

「その為じゃよ。それを察して魔物共は頻繁に現れ始めたのじゃ!」 


「それじゃ誕生日が来ちゃったら!?」 


「察した通りじゃ。今より更に魔物が頻出するようになるじゃろう……。そして更に彼女はその血を狙われる!」 


「!? でもちょっと待ってよ! どうしてそんな重要なことを夜野さんは知らないの!?」 


「実はの……。夜野家のしきたりで、その力が顕現し正式な巫女となる儀式を受ける14歳までは、その事実を伝えることは伏せられておるのじゃ。それまでは学校と自宅を行き来するだけの文字通り箱入り娘として育てられる。そして、万が一の時は陰陽師の付き人が守護しておるという訳じゃ」 


「あ、会ったことあるよ。あの運転手さんだ! ……でも待って。だとしたらどうしてばっちゃは言いに行かないの!? 一刻も早く伝えないと!」 


「それがの……。話すと長くなるんじゃが、ワシゃ夜野家に断絶されておっての……。あの家の敷居をくぐれないのじゃ……。」

「……え?」 


「そこで“オヌシに”頼みがある! 今すぐ彼女にこの事実を伝えてくれ。そしてもうひとつ。巫女の血は白毫使いが四尺(1m)以内にいる時にその効力を発揮する。白毫使い使いとしてこれから先、身命を賭して彼女を護るのじゃ!」

 それを聞いたエンは瞬く間にその場を後にし、スズネの屋敷へとひた走るのだった! 


つづく!

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