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新世紀陰陽伝セルガイア

第三十二話~破魔の札~

前回のおさらい

 スズネに対し、その正体と魔物に狙われてしまう体質であることを伝え注意喚起するために彼女の屋敷へと向かったエン。しかし一体の魔物に先を越されてしまった。更にその戦いの中で、エンはあろうことかクラスメイトのキリヤに刃を突き立ててしまった! 更にそれを目撃したスズネに“人殺し”というレッテルを貼られてしまう。その後なんとか魔物にを倒すことに成功するエンだったが、自責の念に駆られた彼は拐われ気絶していたスズネに向かってサヨナラを告げるのだった……。


第三十二話~破魔の札~

 

◆由比ヶ浜・砂浜にて


「はぁ……」

 
 エンはまたこの場所を訪れていた。クラスメートでもあるスズネにさよならを告げた彼は学校にも行かず、この場所で不甲斐ない自分をひたすら悔い、戒め、遠く地平線の彼方を見つめながらひたすらタメ息をついていた……。


(これでいい、これでいいんだ……。僕には“あれ”を使う資格なんてないよ……)

 
 潮騒の音に紛れてエンが呟いた“あれ”とは一体何なのか。それを説明するには少し前に遡る必要がある……。


◆鎌倉市・八雲神社にて
 
 
 この日、ナイトメアバスターズのハヤトとバン、そしてエンの三人は、ヤクモの召集によって八雲神社を訪れていた。境内の一室にて畳に腰をかけ、訪れた三人を見つめるヤクモ。その目の前にはエンが座り、エンの右横にはバンが座っている。そしてハヤトは少し離れた位置で壁に背中を着け、腕組みをしたままうつむいていた……。


「よし、集まったの。……今日はおヌシ達に大事な話をする」

 
 ヤクモは三人に対してそう口を開くと上半身だけ後ろを振り返り、自らの後方からズズズと音を立てて一つの葛籠(つずら)を取り出した。そしてそれを差し出すとエンに見せつけた。すると、それを遠巻きに見ていたハヤトは明らかに驚いた様子でヤクモに言い放った。


「おいヤクモ! それは!!」

 
 その言葉を尻目にヤクモは葛籠の紐をスルスルとほどくとその蓋を開け、エンに対して中身を見せた。


「やっぱり!!」

 中の物に見当がついていたハヤトは思った通りと言わんばかりに声を張り上げた。
 葛籠に入っていたのは、神社等でよく目にする木札の様な形の物体だった。そしてそれを見て声を荒げるハヤトを遮るようにヤクモは語りだした。


「よいか……。先日も皆に話した通り、渡瀬ノ巫女の覚醒の日が近づき魔物現出の頻度が日に日に増しておる。そこでじゃ、この“破魔札(はまふだ)”をエンに授ける事とする!」

 それを聞いてハヤトは更に声を荒立たせた。

「ヤクモ! それは俺にも使いこなせなかった代物だぞ!? コイツになんて到底使いこなせるわけない!!」

「それは、やってみなければ分からんじゃろ……」

「……」

「それに、今後益々激化するであろう魔物との戦いに有効な一手があれば、お前達も少し安心できるのではないか?」

 
 そんなやり取りをするヤクモとハヤトの間に、ここで繰り広げられている事態が何なのか全く飲み込めずにポカンと口を開けていたエンが、ようやく小声で割って入った。


「あの……これって一体……?」

 
 すると、目の前の物体に目を落とすエンに対しヤクモが解説を始めた。

「よいか、これは破魔札と言っての、『幸福を感じながら命を落とした特殊能力者』が転身した代物じゃ」

 そんな物があるのかと、いつもなら驚愕のリアクションを取るであろうエン。しかしこの日のエンは反応が薄かった。その訳は分からなかったが、ヤクモは再び話を続けた。

「これには、青龍や朱雀といった十二天将の力が込められており、世界に十二個存在できると言われるておる代物じゃ……。そしてこれはその内の一つ、かつてオヌシと同じ“跳躍白毫”の使い手と言われておった源義経が自刃を逃れて転身した姿であり、『朱雀避口舌(すざくひこうぜつ)』という力が秘められておるのじゃよ」

「よしつね……すざく……ひこうぜつ……」

「これを使いこなせた白毫使いは、魔物に対して強力な技を発動できるようになる」

 そう言うヤクモのその言葉を、バンがエンにも分かりやすいよう咀嚼して伝える。

「まぁ、要は“必殺技”が使えるようになるって感じだな」

「必殺技……」

 エンが好きそうなワードである。しかしやはり反応が薄い……。いつもと違うエンの反応を機敏に察知したバンは様子をうかがった。


「何だエン? 珍しく反応が薄いじゃないか」

 しかしエンは黙り込んでいる。そこへハヤト割り入る。

「だがコイツを発動させる為には白毫使いの武具、まあお前で言うところの篭手に装着しなきゃならないが……」

 そしてヤクモが続ける。

「その際、言葉では形容しがたい程の“壮絶な痛み”を伴うのじゃ……」

 つまり、そう簡単に“必殺技”は使えないという事だった。そしてそれに対しかつて装着を試みたことのあるハヤトは再び声を荒げて訴えた

「あの耐えがたい痛み、俺にだって無理だったんだ! エンには到底できっこない!」

 ……そんなやり取りの最中、実の所エンは上の空だった。先日の出来事を思い出し、不甲斐ない自分を恥じ、友人達に申し訳ない気持ちで一杯で、ただただ眉間にシワを寄せていた……。
 色々な事が頭を駆け巡っていたが、中でもとりわけ『キリヤの身体を刃で貫いてしまった』罪悪感は相当なものであった……。幸いキリヤは命に別状は無く病院に担ぎ込まれていた。しかし、そこへ見舞いに行ったエンは彼がこのまま『植物人間』になってしまう可能性があることを聞かされ更なるショックを受けていた……。そして今、正直この場に居る面々の言葉は、彼の耳には断片的にしか入ってこなかったのである。


「……エン? どうした? 聞いておるか?」

 ヤクモもあからさまに上の空のエンに気がつき声をかけた。

「あ、ごめんなさい……」

 しかし帰ってきたのはその言葉だけだった。

「とにかくじゃ、ワシはお前にこれを授ける。どうか使いこなせるよう精進して欲しい。そしてあらゆる魔物を倒し、渡瀬ノ巫女を白毫使いとして護りぬいて欲しいのじゃ!」

 それに対しハヤトが語気を強めて反論した。

「ハッ! そんなもの無くても、エンがいなくても、これまで通り俺たちだけでやっていける! 魔物から人を救うのは俺とバンの仕事だ!」

「まったく……相変わらず頑固じゃのぉ……」

「とにかく俺は反対だ。コイツには破魔札を使える、資質も資格もない!」

「……」

 一同は黙り込み、室内に静寂が訪れた……。そして僅かな沈黙の後、エンは破魔札をヤクモの方へと手で押し戻してこう答えた。


「……ばっちゃ、ごめんなさい。……ハヤトさんの言う通り僕にはこれを使う資格はありません……」

「!!」

 一同は驚いた。これまでのエンであれば二つ返事でそのアイテムを受け取っていたであろう。ところがこの日の彼は一同の予想に反し、それを突き返したのである。

「いや、ハヤトさんの言う通り、僕はもう“白毫使い”として戦う資格もないんです……! 今までご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした……」

 そう言ってエンはスッと立ち上がると踵を返し、皆に顔を見せることなくうつむいたまま、ぐっと拳を握りしめてその場を後にしたのだった……。


◆現在・由比ヶ浜にて

 
 そういう経緯でエンは由比ヶ浜に訪れ、自分を情けなく思い独り言を呟きながら、ひたすら自分を戒めているのだった……。
 頭の中をここ最近の出来事がぐるぐると駆け巡り、そのどれもがエンの心に重くのし掛かった。
 酷い言葉を放った為にアザミが居なくなってしまった事。想いを寄せるスズネに『人殺し』のレッテルを貼られてしまった事。そんなスズネを魔物に拐われ危険に晒してしまった事、さよならを告げた事。そして何より自らの刃でクラスメートを傷つけてしまったこと……。
 「どんなに懸命に戦おうと、こんな自分では人を傷つけてしまうだけなんだ……」そう思えてならなかった。

 そして遠くの水平線を見つめていると、先日豪雨の中でハヤトに言われた言葉が脳裏をよぎった。  


『……少しは俺の気持ちが分かったか?』


 その問いかけに、今ようやく、重大なあることに気がついた。


「……そうか! ハヤトさんに言わせたら、僕はハヤトさんにとってのアザミなんだ……! アザミの事を責められるような立場ですらなかったんだ……」

 エンはますます自分を情けなく思い、とうとうこんな事を呟いた。


「マイト……。やっぱり僕はダメな奴だ……。こんなんじゃみんなを守れるヒーローになんて到底なれないよ……。約束、守れない……。ごめんよ、ごめん……。」


 エンがそう呟き涙を流した時だった。後方から何者かの走る音が近付いてきたかと思うと、荒い息づかいに混じって安心感のある声がした。


「はぁはぁ…。エン、やっぱりここだったか」

「バンさん!?」

 それはバンだった。汗をかきながら肩で息をしている。何やら焦っている様子だ。


「……。バンさんごめんなさい。僕はもう戦いません。僕は普通の中学生に戻ります。魔物退治、どうかこれからもよろしくお願いします」

 
 エンはそう言うと腰掛けていた砂浜から立ち上がり、素早い足取りでバンの横を通り過ぎてその場から立ち去ろうとした。……その時だった。


「待て……」

 
 バンに肩を掴まれ歩みを止められた。


「エン。この後どんな行動を取るかはお前次第だが……ひとつだけ重要な事を知らせに来た」

「……」

 そして、不穏な面持ちのバンから衝撃の一言が発せられるのだった。


「アザミが魔物に襲われている」

「えっ!!!?」

つづく!!

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