前回のおさらい
スズネに対してその正体と、魔物に狙われてしまう体質であることを伝え注意喚起をするために彼女の屋敷へと向かったエン。しかしある魔物に先を越されてしまった。更にその戦いの中で、エンはあろうことかクラスメイトのキリヤに刃を突き立ててしまった!更にそれを目撃したスズネに「人殺し」というレッテルを貼られてしまう。その後なんとか魔物にを倒すことに成功するエンだったが、自責の念に駆られた彼は拐われ気絶していたスズネに向かってサヨナラを告げるのだった…。
◆由比ヶ浜・砂浜にて
エン 「はぁ…。」
エンはまたこの場所を訪れていた。クラスメートでもあるスズネにさよならを告げた彼は学校にも行かず、この場所で不甲斐ない自分をひたすら悔い、戒め、遠く地平線の彼方を見つめながらひたすらため息をついていた…。
エン 「これでいい…。これでいいんだ…。僕には“あれ”を使う資格なんてないよ…。」
潮騒の音に紛れて呟いた、エンの言う“あれ”とは何なのか…。
それは、エンがこの場所を訪れる少し前の出来事…。
◆鎌倉市・八雲神社にて
この日、ナイトメアバスターズのハヤトとバンそしてエンの三人が、ヤクモの召集によって八雲神社を訪れていた。境内の部屋の中、畳に腰をかけて訪れた三人を見つめるヤクモ。その目の前にはエンが座り、エンの横にはバンが座ってる。そしてハヤトは少し離れた位置で壁に背中を着け、腕組みをしたままうつむいていた。
ヤクモ「よし、集まったの…。今日はおヌシ達に大事な話をする…。」
ヤクモは三人に対してそう口を開くと上半身だけ後ろを振り返り、自らの後方からズズズと音を立てて一つの葛籠(つずら)を取り出しエンの目の前に差し出した。
すると、それを横目に見ていたハヤトは明らかに驚いた様子でヤクモの方に視線を送った。
ハヤト「ヤクモ!それは!!」
その言葉を尻目にヤクモはその葛籠の紐をスルスルとほどくと蓋を開け、エンに対してその中身を見せた。
ハヤト 「やっぱり!!」
葛籠に入っていたのは、神社等でよく目にする木札の様な形の物体だった。そしてそれを見て興奮した様子で声を上げたハヤトの言葉を遮るように、ヤクモが語りだした。
ヤクモ 「よいか、先日も皆に話し通り、渡良瀬ノ巫女の覚醒の日が近づき魔物現出の頻度が日に日に増しておる。そこでじゃ、この“破魔札”をエンに授ける!」
ハヤト 「!?ヤクモ!それは俺にも使いこなせなかった代物だぞ!!コイツになんか到底使いこなせるわけないだろ!!」
ヤクモ 「それは、やってみなければ分からんじゃろ…。」
ハヤト 「…。」
ヤクモ 「それに、おそらく今後ますます激化する戦いに有効な一手があれば、お前達も少し安心じゃろ…。」
そんなやり取りをするヤクモとハヤトの間に、エンが小さな声で割って入った。
エン 「あの…、これって一体…?」
すると、目の前の物体に目を落とすエンに対しヤクモが解説を始めた。
ヤクモ 「よいか、これは破魔札と言っての、『幸福を感じながら命を落とした白毫使い』が転身した物じゃ。」
エン 「!」
ヤクモ 「これには青龍や朱雀といった十二天将の力が込められ、この世に十二存在できると言われる代物…。そしてこれはその内の一つ、かつてオヌシと同じ跳躍白毫の使い手だった源義経が自刃を逃れて転身した姿であり、『朱雀避口舌』の力が秘められた破魔札じゃ。」
エン 「よしつね…すざく…ひこうぜつ…。」
ヤクモ 「これを使いこなせた白毫使いは、魔物に対して強力な技を発動できるようになる。」
バン 「まぁ、要するに必殺技が使えるようになるって感じだな。」
エン 「……。」
バン 「何だエン?珍しく反応が薄いな…。」
ハヤト 「ハッ、だがコイツを発動させる為には白毫使いの武具、まあお前(エン)で言うところの篭手に装着しなきゃならないが…。」
ヤクモ 「その際言葉では形容しがたい程の“壮絶な痛み”を伴うのじゃ…。」
ハヤト 「あの耐えがたい痛み、俺にだって無理だったんだ!コイツになんて到底できる訳ないだろ!!」
そんなやり取りの最中、実の所エンは上の空だった。先日の出来事を思い出し、眉間にシワを寄せていた…。
色々な事が頭を駆け巡っていたが、中でもとりわけ『キリヤの身体を刃で貫いてしまった』罪悪感は相当なものであった…。幸いキリヤは命に別状は無かったが、見舞いに行ったエンは彼がこのまま『植物人間』になってしまう可能性があることを聞かされ更なるショックを受けていた…。そして今、正直この場に居る面々の言葉は断片的にしか耳に届いて来なかった…。
ヤクモ 「エン…どうした聞いておるか?」
エン 「あ、ごめんなさい…。」
ヤクモ 「とにかくじゃ、ワシはお前にこれを授ける。どうか使いこなせるよう精進して欲しい。そしてあらゆる魔物を倒し、渡良瀬ノ巫女を護りぬいて欲しいのじゃ!」
ハヤト 「ハッ、そんなもの無くてもエンがいなくても、これまで通り俺たちだけでやっていける!魔物から人を救うのは俺とバンの仕事だ!」
ヤクモ 「まったく…相変わらず頭が固いのぉ…。」
ハヤト 「とにかく俺は反対だ。コイツ(エン)には破魔札を使える資質も資格もない!」
バンとヤクモ 「……。」
ハヤトの言葉を聞いたエンは一呼吸置くと、破魔札をヤクモの方へスッと手で押し戻してこう答えた。
エン 「…ばっちゃ、ごめんなさい。ハヤトさんの言う通り僕にはこれを使う資格はありません…。」
一同 「!!」
エン 「いや、僕はもう白毫使いとして戦う資格もないんです…!今までご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした…。」
そう言ってエンはスッと立ち上がると踵を返し、皆に顔を見せることなくうつむいたまま、拳を握りしめてその場を後にしたのだった…。
◆現在・由比ヶ浜にて
こうしてエンはこの場所で、自分を情けなく思いながら独り言を呟き自分を戒めているのだった…。
頭の中をここ最近の出来事がぐるぐると駆け巡り、そのどれもがエンの心に重くのし掛かった。
酷い言葉を放った為にアザミが居なくなってしまった事。想いを寄せるスズネに『人殺し』のレッテルを貼られてしまった事。そんなスズネを魔物に拐われ危険に晒してしまった事、さよならを告げた事。そして何より自らの刃でクラスメートを傷つけてしまったこと…。
どんなに懸命に戦おうと、こんな自分では人を傷つけてしまうだけだ…。そう思えてならなかった。
そして遠くの水平線を見つめていると、先日豪雨の中でハヤトに言われた言葉が頭をよぎった。
『少しは俺の気持ちが分かったか?』
…その問いかけに、今ようやくあることに気がついた。
エン 「そうか、ハヤトさんに言わせたら、僕はハヤトさんにとってのアザミなんだ…。アザミの事を責められるような立場でもなかったんだ…。」
エンはますます落ち込んで、とうとうこんな事を呟いた。
エン 「マイト…。やっぱり僕はダメな奴なんだ…。こんなんじゃみんなを守るヒーローには到底なれないよ…。約束、守れない…。ごめんよ、ごめん…。」
エンがそう呟いた時だった。後方から洗い息づかいに混じって何者かの声がした。
??? 「はぁはぁ…。エン、やっぱりここだったか。」
エン 「バンさん!」
それはバンだった。汗をかきながら肩で息をしている。何やら焦っている様子だった。
エン 「…。バンさんごめんなさい。僕はもう戦いません。僕は普通の中学生に戻ります。魔物退治、どうかこれからもよろしくお願いします。」
そう言って再び拳を握りしめるとうつむいたまま、素早い足取りでバンの横を通りすぎようとしたその時だった。
バン 「待て…。」
そう言ったバンに肩を掴まれ歩みを止められた。
バン 「エン、お前がこの後どういう行動を取るかは知らないが、1つ知らせに来た。」
エン 「……。」
そして、不穏な面持ちのバンから衝撃の一言が発せられるのだった。
バン 「アザミが魔物に襲われてる…。」
エン 「!!??」
つづく!!