前回のおさらい
憧れであったナイトメアバスターズとの遭遇がキッカケとなり、魔物を打ち破る力を覚醒させた少年エン。バンの口から発せられた『セルガイア』とは果たして……。
◆学校にて
桜祭りでの戦いの翌日、学校に登校したエン。テレビで報じられた『怪物を倒した少年』が自分だという事を周りにいくら語ろうと、やはり信じてくれる者は誰ひとりいなかった……。何気ない日常へと引き戻されていくエン。しかし、突如鳴り響いた構内アナウンスをきっかけに彼は再び非日常の扉をくぐることになるのだった……。
ピンポンパンポーン
『これから、月曜日の朝礼を始めます。全校生徒は速やかに校庭に集合してください。』
その声を聴くと、エンは他の生徒たちと共にダラダラと教室を後にした。
◆校庭にて
4月の暖かな陽気に色めいて桜咲くその校庭は、集う生徒たちの心を和やかにする。青く澄みきった空がそれをさらに助長させている。そのせいか眠気を隠しきれない生徒もちらほらと見受けられ……エンもその内の一人であった。大きなあくびをしながら朝礼の初まりを待っていると、校長が現れ壇上へと登って行った。
「えー、今日は皆さんに、とても悲しいお知らせをしなければなりません……」
ザワ ザワ ザワ
ざわつく校庭に、重たい声で校長は再び語り始めた。
「昨夜、2年C組の姫矢舞人くんが、心臓発作のため亡くなりました。」
「えっ⁉」
「授業にも熱心に取り組み、空手でも全国大会への出場経験もあった生徒で、教員一同も非常に残念に感じております。」
「……嘘……でしょ……?」
ザワ ザワ ザワ
生徒たちの声が徐々に大きくなる。
「嘘……だよね……?」
「仲の良かった生徒も、非常に多くいると聞いています。突然の事で驚かれたとは思いますがその想いを乗り越えるためにも、ここで皆さんで黙とうを捧げましょう『黙とう……』」
……
…………
………………
うつむき静まり返る全校生徒……。しかしその言葉を聞いた瞬間エンの頭は真っ白になり、けたたましい叫び声をあげると校庭から走り去った!
「そんな……嘘だ……ウソだぁぁぁぁあああああああああ‼‼」
「ちょっとキミ!待ちなさい!!」
しかし校長のその言葉は、もはや彼の耳には届いていなかった。
彼は2年C組へと向かって全速力で走った。そこに、いつものように、笑顔のマイトが待っている気がしたから……。
「(ウソだ!そんなのウソだ!!)」
こぼれ落ちそうになる涙を拭いながら彼は走り、渾身の力で教室の扉を開いた!
「マイトっ‼」
きっとマイトはそこにいる。そう信じて親友の名を叫ぶエン。……しかし、彼の机にポツンと置かれた白い花瓶が、その全てを物語っていた……。
◆鎌倉市内・とある寺にて
マイトの葬儀に、もちろんエンは参列した。正直なところ、この日まで現実が受け止められずにいた彼はここ数日放心状態だった。しかし参列者たちのすすり泣く声を耳にし、脳裏にマイトとの思い出の日々が蘇り、とうとう大粒の涙がこぼれ出した。
「マイト……マイトぉぉ……ごめんよ……ごめん……」
親友の死。それだけでも辛い現実だ。それに加えてその原因が自分にあるという事実がエン心を掻きむしり、焼香を終えるといたたまれずにすぐさま式場を後にした。
トボトボと式場の外に出てきたエンの眼に、ある人物の姿が映り込んだ……。マイトの許嫁であり密かに想いを寄せている、クラスメイトのスズネだった。彼女もまた葬儀に参列していたのだが、会場にいる事ができず外の腰掛で悲しみに伏していた……。それを目の当たりにしたエンはますます心の傷をえぐられたような感覚に陥り、小さい背中をさらに丸めてそのまま歩き出した。すると……。
「あ……八神くん……」
彼女の方がこちらに気付き、話しかけてきた。
「よ、夜野さん……」
話しかけられては仕方がない……エンも声を掛けた。
「非常に……無念にございます……。お二方ともとても仲がよろしかったのに……」
スズネは由緒正しい家の出で、その言葉使いもいつも通りの丁寧さだった……。しかし深い悲しみの中にいるはずの彼女は気丈に振る舞い、エンに対して気遣う言葉を投げかけた。
「夜野さん……」
「姫屋君、昔から心臓の具合がよくありませんでしたから……。『くれぐれも無理はなさらずに』と、常々申し上げていたのですが……」
「……」
「でも……私たちがこうして悲しんでいたら姫屋君……きっと怒って化けて出てしまいます! だから八神君……明日からまた学校頑張りましょうね!」
「……」
その言葉の影にとてつもない悲しみが秘められていることは、エンにも容易に想像がついた。そしてその原因は心臓発作ではく自分の責任だ……だからこそエンは余計に辛くなった。
「……ごめん……」
「……え……?」
「ごめん……」
「……なぜ、謝るのです……?」
「…………」
エンはもうそれ以上話すことができなかった。
「では、わたくしはこれにて……。明日、学校でお会いしましょう。」
「……」
そう言ってその場を立ち去るスズネの背中を見て、エンはとうとうその場に泣き崩れたのだった。
「マイト……ごめん。本当にゴメン! 謝っても謝りきれないけど! 本当に本当にゴメンなさい‼」
そう叫び、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるエン。マイトの命を奪っただけでなく、スズネの心まで傷つけてしまった。その事実が、胸に深く突き刺さった……。
「マイト……ごめんよ。もうこれ以上何も言えないけど、ちゃんと成仏してね……マイト……」
成仏……。自分で言い放ったその言葉に、マイトの死の事実を再び痛感してしまうエン。そんな時だった。
「う~ん……それがさ……なんかできないんだよなぁ……」
「え? ……そ、そんな事言わずに……」
「いやぁ……そう言われてもな……できないものはできないって言うか……」
「何でだよ! こんなに頭下げてるのに!」
「いや、だって無理だし……」
「む、無理ってどう言うこと……って!『あああああああああああっ‼‼‼』」
なんとエンの目の前に、マイトが立っていたのである!
「うわぁぁあああっつ‼お、脅かすなよ! ビックリしたぁ‼」
エンのあまりの驚き様にマイトの方が驚いた。
「それはこっちのセリフだよ! マイト! ……死んだんじゃ⁉」
「……ああ……そうみたいだな……」
「そうみたいって……」
確かにそう言うマイトの姿は異様であった。白装束を身にまとい、額にはいわゆる❝三角形の白いやつ❞が付いている。と言うか、そもそも足がない。マイトは成仏できず、幽霊となっていた。
「やっぱりな……お前なら見えるんじゃないかと思って来てみたけど。……予想通り湿っぽいな。」
「当たり前だろ! マイト! ごめん! ホントにゴメンよ! 僕のせいで……」
「ハハっ、いや俺元々心臓弱かったしな、きっとこれが俺の寿命だったんだよ!」
「マイト……」
マイトは強がっているわけでも、エンを勇気付けているわけでもなかった。彼はもともと❝そういう奴❞なのだ。しかし、やはりエンの心にはその言葉が重くのしかかった。
「マイト……違うよ! 僕のせいだよ!」
「もぉ……いいからメソメソすんなって! 俺はもう自分が死んだってこと認めたんだからさ!」
「でも……でも……!」
「ぁあもう! これだからおちおち死んでらんないんだよ! 俺が『良い』っつってんだからいいの! もう終わりおわり!」
「……うぅぅ……」
「はぁ……」
強い男である。自分が死んだことよりも周りが悲しんでいることにあきれてため息をついた……。そしてひたすら謝るエンに向かって意外な言葉を口にした。
「八神……そんなに謝るぐらいだったら……あのさ、俺の頼み……聞いてくれないか? きっとお前にしか頼めない」
「……え? 僕にしか頼めないこと……?」
「そうだ。お前の霊感で、ちょっと手助けして欲しいんだ。」
「⁉ ……そう言ってくれるのはうれしいけど……僕、また誰かを傷つけるかも……」
「う~ん……じゃあせめて話だけでも聞いてくれ」
「う、うん……それなら……」
そしてマイトはこう切り出した。
「いやな……俺さっき成仏できないって言たろ?」
「うん……。あ、それももしかして僕のせいかな……」
「いやいや違うんだよ! ……ほら……ちょっとあれ見てみ?」
そう言うとマイトは不意に上空を指さした。
「え? ……あれは?」
天を見上げるエン。するとそこには、一か所だけ青空をさえぎるようにまがまがしい妖気を放つ雷雲が立ち込めていた。
「いやな、俺調べてみたんだけど、どうやらこの寺の住職……生臭坊主みたいだぞ?」
「え⁉ ここのお坊さん……そんなに体臭キツイの……?」
「バカ!そういう事じゃねーよ!ちゃんと仕事してない坊さんってこと!」
「なるほど!勉強になったよ、ありがとう!」
「いやいやどういたしまして……って違ぁーーう!そんな話がしたいんじゃないんだよ俺は! ……実はな……」
そう言うとマイトは本題に入った。
「ここの坊さんがあまりにサボってるおかげで、成仏できない幽霊がウヨウヨ、あの雲の塊になって浮かんでるって訳。そしてその弊害で俺も成仏できないみたいなんだよなぁ。」
「なるほど……。」
「なあ八神……お前あの雲、何とかできないか?」
「う~ん……」
エンはしばし考え込んだ。何とかしたいのはやまやまだが、やはり自分の行いでまた誰かを傷つけてしまうかもしれない……。それに、増して自分の霊力でその雲をどうにかできるとも思えなかった……。
「八神……お願いだ! 俺の頼み…聞いてくれないか?」
「……」
「こんな事お前にしか頼めないよ……」
「……ぼ、僕にしか……」
その言葉に、エンの心は動かされた。確かにこの場にあの黒雲が見えている人物が自分以外にいるとは思えない……。それに、自分のせいで命を落としてしまった親友の頼み……断れなかった。それに、これがせめてもの罪滅ぼしになる、そうも思えたのだ。
「分かったよ…。初めてやるからできるかどうかは分からないけど、一つだけやれる事がある……!」
「そうか八神‼ ありがとう‼ やっぱり頼みの綱はお前だけだ!」
エンは独学と言えど陰陽師を志す少年だ。頭上の雷雲の対処法に、全く見当がつかないという訳ではなかった。
「じゃぁ……やってみるよ……!」
エンはそう言うとスッと音を立て、片手の人差し指と中指を合わせて口元にあてがうとこう唱えた。
『不動明王に帰名したてまつる……我が頭上の雷雲を滅せよ! ノウマクサマンダ・バザラダンカン!』
すると! その呪文に呼応するかの如く、突如雷雲がウネウネと蠢き始めた‼
「ぉお八神っ‼ 何だか分からないけど雷雲が反応してる! 凄いじゃないか‼」
「や……やった!」
喜びを見せるエンだったが、正直自分自身にこんな事ができるとは思っていなかった。今までの悲しみも嘘のように吹き飛び、急に自信と活力がみなぎってきた。エンは雷雲をかき消すべく再び呪文を唱えようと構えた。ところがだった!
「お……おい……八神! あれ!」
「えっつ⁉」
少々浮かれていたエンが再び頭上に目をやると、何と雷雲は先程よりも巨大化しているではないか!疑問に思ったマイトはエンに問いかけた。
「どう言う事だ⁉ 確かに反応してるよなあれ……」
「うん……けどもしかしたら……変に刺激しちゃった……かも……」
「え⁉ 大丈夫なのか⁉」
二人の会話をよそに雷雲はみるみる大きくなり閃光が走り、とうとう稲妻となって大地を貫いた!
ゴロゴロ……バーーーーン‼‼
辺りに土煙が舞い、二人の視界を遮った。
「何だ⁉ 八神! 一体何が起きてる⁉」
「あっ! ……あれは⁉」
すると立ち込めていた煙の中から、何と巨大な魔物が現れた‼
ギャィイイイイイイ!
まるで蜂のような姿をした巨大なそれは、二人の姿を視界に捉えると雄叫びを上げた!
「おい! どういう事だ⁉」
「そんな……! まさかあの雲にあんな魔物が潜んでたなんて‼」
どうやらこの寺の住職はあまりに手を抜いた仕事をしていたようだ。長年成仏できずに漂っていた霊体たちは集合体となり、エンの呪文に刺激されついに魔物となって出現したのだった!
きゃぁあああ!
何だあれは⁉
に……逃げろぉぉおおおお‼
遠方よりその光景を目撃した幾人もの人々の叫び声も木霊し始める!
「ヤバイ……」
「おいどう言う事だ⁉ あの化け物、俺たち以外にも見えてるのか⁉」
「……うん。僕の知識では魔物は幽霊と違って❝誰でも見える❞んだよ!」
「そうなのか‼」
「そうなんだ! ほら!みんな逃げ惑ってる!」
な……何だあの怪物は⁉
早く‼ 早くみんな逃げるんだ‼
遠方より聞こえる叫び声は更に多くなっていく!
「マイトごめん……更にヤバイ事実があるんだ……」
「え⁉ 何だよ……」
「実は魔物って……陰陽師でも倒せないんだ‼」
「何だってぇええええええっつ⁉」
エンの言う通りだった。遥か昔より実体を持った悪霊は魔物と呼ばれ、たとえ陰陽師であろうとも
❝封印する❞以外に手立てが無い……。その理(ことわり)だけは今でも覆ることのない真実なのである。
「どどど、どーすんだ⁉」
「ごめん……ゴメン‼ まただ……また僕のせいで……」
「くそっ……」
そして、ついに魔物が二人に突如攻撃を仕掛けてきた‼
「うわっ‼」
「うおっつ‼」
腹部より長く突き出された巨大な針を、二人は間一髪かわす!
「エン! お前なら何とかできるんだろ⁉ なぁ! そうだよな⁉」
「何とか……何とかしたいよーーー!」
「希望かよーーーーー‼」
二人が逃げ惑う中、魔物は再び巨大な針を突き刺してきた!
「うわっ‼」
このままでは命を落とすのは時間の問題……! その瞬間だった……焦るエンの脳裏にある記憶が甦る。先日の桜祭りでの戦いの記憶である。
「(そうだ! あの戦いは夢じゃなかったんだ……。あの時魔物を倒した力がまた使えれば……!)」
桜祭り夜。エンの額には第三の眼が開き、不思議な刀をその手に握り、エンは魔物を斬り裂いた……。そしてそのヒーローが間違いなく自分である事をテレビのニュースで知っている‼ ならばもう一度その力を使える筈! ……エンはそう思った。
「マイト……。僕ならあの魔物……倒せるかもしれない!」
「ほ、本当か‼」
「うん。……僕の額に第三の眼が現れれば……きっと勝てる!」
「よく分かんないけど、何とかできるなら……頼む‼」
「よぉし……見てろ……!」
するとエンはおもむろにこう叫んだ!
『出でよっ‼ 第三の眼‼』
……
…………
………………
しかしエンの身体には何の変化も起こらない。
「ぉ……おいおい! 何やってんだ⁉」
「だ……ダメか……それじゃええ~っと……」
『開け! 第三の眼っつ‼』
……
…………
………………
しかしやはり何の変化もない。
「ダメか……」
「ちょっと! 何やってんだよ!」
「えっと、じゃぁ……開け……もういっこの目っつ!」
「何だよそれ‼」
「えっと、えっと……じゃぁ……ひらけゴマっつ‼」
「んなワケあるかぁあああ‼」
ギヤオォオオアア!!!
「うわぁっつ!」
魔物は再び二人に襲い掛かる‼ そう、漫才をしている場合ではないのだ! 魔物の攻撃は激化し、幾度もその腹部の針を二人目がけて突き立てた!
「うわ! うわぁ! うわぁああっつ!」
再び二人はそれを間一髪で避け続ける! しかしエンはその時気付いていた。唯一の希望である❝第三の眼の力❞が使えない以上、もう勝ち目はない……。
「八神‼ 危ない‼」
「っつ‼」
エンは迫りくる魔物とマイトの言葉に、いよいよ命の危機を感じた!
ザシュ!ザシュッッ!!
しかし止まぬ攻撃をひたすら避け続けるしかなかった。
「八神! 俺が悪かった‼ もういい逃げろっつ‼」
「くそっ……!」
しかし、エンは諦めなかった‼
あの夜マイトから教わった『自らの責任を果たす』事。今度こそマイトの目の前で実行したかったのだ!
ザシュ! ザシュッッ‼
怒涛の攻撃を間一髪避けながら、エンは自らの知恵を絞り出して魔物を倒す策を練る。
ザシュ! ザシュ! ザシュッッ‼
エンは陰陽師に関するあらゆる知識を脳内から掘り起し、魔物を封じる方法を思い出そうと必死だった。……その時!
「八神っつ‼ 後ろだ‼」
魔物はエンの背後に回り込み、渾身の力で針を突き刺してきたのである‼
ズバーーーン‼
その針は大地を穿ち! 怒号と共に砂煙をあげた!
「八神ぃぃぃいいいい‼‼‼」
「一巻の終わりだ」マイトがそう思った時だった! 土煙の中から、その一撃をしゃがんで避けているエンの姿が現れた‼
「(よかった……‼)」
マイトはエンの強運に感心した! しかしエンがしゃがみ込んだのは決して偶然ではなかった。エンは魔物を封じるための秘術をついに思い出し、実行し始めていたのである!
「青龍・避万兵(せいりゅうひばんぺい)‼」
「え⁉ あいつ……何やってる⁉」
それは正に、陰陽師が魔物を封印する術であった!
その方法は、陰陽師が使用する星形の魔法陣❝五芒星❞を大地に刻みつつその頂点において呪文を唱えていく。最後の頂点で呪文を唱えた暁には見事魔物を封じ込め、異界の彼方に送り込むというもの……。その最初の頂点に跡を刻むため、エンはしゃがみ込んでいたのである!!
ギャォオオオオ‼
ザシュ‼ ザシュッッ‼
再び攻撃を仕掛けてくる魔物!
「くっ……」
それを再び避けるとエンは次の頂点に向かって走り出し……
『白虎・避不祥(びゃっこひふしょう)‼』
呪文を唱え大地を指で掻(か)く!
魔物の攻撃も止まらない!
ザシュ!!ザシュッッ!!!
「うぉおおおおおおっ‼」
だがエンは素早く身を翻すと、次の頂点、次の頂点へと向かってひた走る‼
『朱雀・避口舌(すざくひこうぜつ)‼』
『玄武・避万鬼(げんぶひばんき)‼』
そしてついに、魔法陣最後の頂点に辿り着く‼
「……マイト……ホントにごめんよ、僕のせいで……。でも今度こそその頼み! 叶えて見せる‼」
「八神っ‼」
そう言うとエンは、いよいよ最後の呪文を口にした‼
『黄竜・伏(こうりゅうふく)‼・・・・』
……
…………
………………
ところがだった。どういう訳か何も起こらない……。
「エン……?」
「あ……あれ……? こうりゅう……ふく……」
どうしたことだろう? まさかエンには扱えぬ秘術だったのだろうか……?
「こう……りゅう……ふく…………」
「どうしたんだよ八神っ⁉」
「あっ……あれぇ?? 最後の一文字なんだっけぇえええーーーーー‼‼‼』
「ウソだろぉおおおおおおおおおお‼‼」
そう、エンは肝心な❝最後の文言❞だけド忘れしていたのだ‼
「ごめんよぉぉぉ……」
「そんなぁぁぁぁあああ‼‼」
そしてそんな中! ついに魔物の針の切っ先は真っ向からエンの身体を捕捉した!
「ぅわぁあ~! ボク駆け出しの陰陽師なんです! ごめんなさ~~~~いいい‼」
ギャォオオオオオオ‼
しかし!魔物は容赦なくエンに向かって針を突き出した‼
「っつ‼」
もうダメだ……! エンもマイトも目を瞑った‼ ……その時だった!
ジャクウンバンコクソワカっつ‼
エンの前方で何者かの声が轟いた‼
「⁉」
エンが目を開けるとそこにはある人物が立っていた! そしてそれは魔物の動きを封じ込めている! マイトは目をこすりながらその人物が何者なのか突き止めようとした。
「あ……あの人は……?」
そして、エンにはその人物の正体が直ぐに分かった。
「ばっ……『ばっちゃ⁉』」
そこに立っていたのは❝八雲❞であった……。